「国産」と表示されていれば、安心・安全と信頼できる時代はもう終わっていた。私たちの口に入るものはどこで生まれ、どこで作られたのかすら、わからなくなっている。このままではこの国の食卓は“偽物”だらけで埋め尽くされてしまうかもしれない──。
今年4月、「鳴門わかめ」と産地を偽って中国産のわかめを販売した徳島県の業者に対し、「鳴門わかめが積み重ねたブランド価値を悪用する悪質なものだ」として有罪判決が言い渡された。中国産わかめが入った段ボール箱に「鳴門産」と書かれたシールを貼って販売したとして、食品表示法違反などの罪に問われていたものだ。
昨年10月には、神奈川県川崎市の学校給食で豚肉の産地偽装が明らかになった。市の聞き取りに対し、会社側は「利益を確保するため安い外国産の豚肉を混ぜた。10年以上前から続けていた」と偽装を認めた。
食品問題評論家の垣田達哉さんによると、それらは氷山の一角に過ぎないという。
「食品偽装はいまやふるさと納税にもおよんでいて、地場産の原材料を削ってコストカットするケースが増えています」
野菜や小麦、米に至るまで本誌は再三にわたって「国産食品」の危険性や闇を追及してきたが、食品そのものに加え、「産地」「表示」にも罠が潜んでいるということ。あなたが手に取った食品のパッケージに書かれた文言の「ウソ」と「カラクリ」を暴いていく──。
生まれも育ちも日本のうなぎは少数派
「産地のウソ」が潜んでいるのは、単なる「偽装」だけではない。食料品店の商品棚で、消費者の選択肢となる原料産地表示には、あるカラクリがある。
生鮮食料品に「国産」という表示が書かれてあれば、生産から加工まですべて日本で行われていると思いがちである。しかし、実際はそうではないケースが多々ある。
たとえばアメリカで生産された畜産物を生きたまま輸入し、日本でしばらく飼育したのちに精肉にして出荷したとする。その場合、アメリカ生まれのこの畜肉には、「アメリカ産」と表示されるはずだと思う消費者が大半だろう。
しかし、食品表示法においては、アメリカよりも日本での生育期間が一日でも長ければ、国産と表示することになっているのだ。これを俗に「長いところルール」という。
つまりわれわれが日常的に口にしている「国産牛」も生まれをたどれば外国の可能性があるということだ。東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授の鈴木宣弘さんがこう話す。
「『国産』と表示されて販売されているノーブランドの牛肉には、オーストラリアをはじめ海外から生体で輸入されたホルスタインが乳牛としての役目を終え、廃用牛として肉にされたものも含まれています。
ホルスタインは通常子牛や初妊のときに輸入され、2才半くらいから搾乳されるようになり、一般的に5〜6才で廃用となるといわれています。長いところルールに従えば、ほとんどの場合は国産と呼べるのです」
そうした長いところルールを悪用した例として大きな問題に発展したのが、2022年に明るみに出たあさり産地偽装事件だ。
問題のあさりは熊本県内の水産会社が、中国産や韓国産のものを国内の干潟で蓄養し、長いところルールにのっとり「熊本県産」として出荷していた。ところが、国内での蓄養期間が輸入元の国でのそれと比べて極端に短いことが発覚した。
その一件をきっかけに、あさりに関しては原則として長いところルールの適用外となり、輸出国を産地として表示することとなった。現在、スーパーで見かけるあさりのほとんどが中国産となっているのは、この改正によるものだ。
しかし、あさり以外の水産物はまだ長いところルールが適用されている場合があると、食品問題に詳しいジャーナリストの奥窪優木さんは言う。
「しじみやはまぐりなど二枚貝はいまだ長いところルールが適用されているケースは少なくありません。
また、同じく“ルール”適用内のうなぎの養殖に使われるニホンウナギの稚魚は、その半数以上を輸入に頼っています。つまり、養殖うなぎの場合は国産を名乗っているもののなかでも“生まれも育ちも日本”といううなぎは少数派です。まさに『産地ロンダリング』がまかり通っています」
ちなみに生まれも育ちも日本だが、血統的には「ミックス」というケースが多いのが、スーパーで売られている国産鶏肉だ。
「国産のブロイラーのほとんどが、実は外国産ブロイラーのハーフかクオーターの肉だということはあまり知られていません。ブロイラーを産むための『種鶏』やその親世代にあたる『原種鶏』のひなは生体でフランスやイギリスを中心とした外国から輸入されています。それらの外国産の鶏を日本にいる鶏と掛け合わせることでブロイラーは繁殖していくのです。
原種鶏のひ孫、つまり両親ともに日本産の鶏から生まれたブロイラーになると、繁殖や精肉に至るまでの歩留まりが悪くなるため、新たな原種鶏をまた輸入して日本生まれのブロイラーと掛け合わせて繁殖させているのです」(垣田さん)
また、畜産は国内で育ったといっても、飼料の約75%は「外国産」であることも知っておきたい。
「鶏の主なえさであるトウモロコシに至っては、ほぼ100%の割合。主な輸入国はアメリカやブラジルです」(鈴木さん)
国内製造の表示は業界の都合
「長いところルール」と同様に、カラクリが潜むのが「国内製造」という表示だ。
「『国内製造』とあっても、原材料が必ずしも『国産』ということではない。あくまでも、国内で製造されたというだけです。
たとえば、そばの乾麺で、中国産のそばの実を輸入して日本で製粉している場合は『中国産』と書かずに『国内製造』と書くことが食品表示法で定められています」(垣田さん・以下同)
同様に、中国産の小豆を国内で加工したあんこを使ったまんじゅうの場合は、その原料原産地表示には「あん(国内製造)」と書かれるのだ。
なぜ、こうした紛らわしい表示が義務づけられているのか。
「業界側の都合が通った結果です。こうした法律の審議段階では食品業界や学者、消費者団体などの代表者が審議会で意見を出し合いますが、消費者団体の割合が出席者の2割程度にとどまる一方、食品業界の関係者はこぞって出席し、自分たちが利益を得るために口々に意見を主張する。そのため、どうしても業界に都合がいい法律になってしまう」
そうした“利権”のもと多くの外国食品が「国内製造」とされてきたが、米の加工食品については別だという。
「外国産を日本で製粉した米粉の場合、それは『米(外国産)』と書かなければならない。米は日本の主食なので、特別扱いされているのです」
「出戻り国産」という新たな危険も
国産と輸入ものでブランド力や値段が大きく異なる食品は、特に産地偽装やロンダリングがされやすい。
「昨年12月には、北海道内で展開する3店舗で韓国産めばちまぐろを宮城県産と偽装して販売したとして、福岡市の業者に対し、食品表示法に基づく是正を指示しています。
また、この業者はまぐろのほかにもインド産のバナメイエビをエクアドル産と偽装するなど、7商品計400パック以上で産地を偽り販売していたとされています」(奥窪さん)
2019年にも、秋田県横手市の水産物卸会社がメキシコ産のまぐろを国内産として、県内のスーパー3店に合計3.4tあまりを納品していたことが明らかになっている。
水産アナリストの小平桃郎さんは、水産物で横行する産地偽装の背景についてこう指摘する。
「水産業界は流通管理がほかの業界に比べてずさんな部分が多い。特に水産市場を介して流通するまぐろなどは、ひと昔前までは担当者が勝手に札を貼り替えても数か月は誰も気がつかないほど管理がゆるかったため、意図的に産地を変えるという行為があったと聞きます」
なかでも産地偽装が容易なのは、冷凍モノよりむしろ生鮮水産物だと小平さんは続ける。
「海産物を流通させるために『倉庫法』にのっとって登録された『営業冷凍倉庫』を介して流通する冷凍品は入出庫の際に産地などが記載され、出し入れのために貨物がナンバリングされて管理されているので、誰が入れて誰が持ち出したかがきちんと記録されています。途中で産地を変えたらつじつまが合わなくなるので比較的産地偽装は難しい。
一方、自社倉庫や工場で管理されているケースでは、その際に原料や製品を入れ替えたとしても第三者の目が届きにくい」
生鮮水産物を巡っては、国産品をさらに価値の高い別の国産ブランド品に偽装して販売する手口も横行している。
今年4月、京都府京丹後市産のブランドガニとして知られる「間人ガニ」を示すタグを不正に入手し、兵庫県産のズワイガニに取り付けて産地偽装し、販売していた同市の水産加工販売会社が警察の摘発を受けた。タグの入手に加担したカニ漁船関係者は、「15年前から渡していた」としており、産地偽装が常態化していたとみられる。
さらに水産業界には「出戻り国産」ともいうべき、産地のカテゴライズが難しい食品も存在するという。
「かつては水産大国といわれた日本ですが、過当競争のなかでコストカット目的に水産加工場を中国や東南アジアに移転した結果、日本で加工を請け負える拠点が充分ではなくなってきている。
国産の水産物の中には、身をさばいて回転寿司のネタ用にカットしたりといった作業のために一旦海外に出て、日本に戻ってきているものも多い」
たとえば日本でとれたさばをベトナムに持ち込んで塩さばに加工した場合、原産地としてはベトナムとなり、日本に戻ってきた際には「輸入国ベトナム」と表記されることになる。しかし、同時に原材料表示としては「マサバ(国産)」と表記することも認められる。消費者にとっては混乱の種になりかねない。
奥窪さんは「出戻り国産」に迫る新たな危機を指摘する。
「昨年夏、中国は福島第一原発の処理水放出への対応として、日本産水産物を全面禁輸としました。これにより、中国でそれまで加工していた日本産水産物も持ち込むことができなくなり、東南アジアの加工拠点などがその代替地となった。
しかし、中国の禁輸措置はあまりにも急かつ突発的だったことから、精査する余裕が持てず、衛生面の水準などが充分に担保されていない代替地が選ばれている可能性がある。そうした加工拠点から出戻る食品にはリスクが高まっています」
産地偽装やロンダリングは、農産物でも横行している。たとえば2022年には、鹿児島県出水市の青果物販売加工会社が10年以上にわたり、中国産のごぼうを国産として、福岡県内の業者などに卸していたことが発覚した。中国産のごぼうは検疫のために泥を洗浄された状態で輸入されるが、同社はこれにわざわざ泥をつけて「国産」として出荷していたのだ。
垣田さんは新潟県魚沼産のコシヒカリの生産量と流通量の“不都合なズレ”を指摘する。
「国内で『魚沼産コシヒカリ』として流通している米の総量が、実際の生産量よりも大幅に多いということが長年指摘されています。可能性のひとつとして、精米業者がほかの米と混合しているという疑惑もありますが、実態は不明です」(垣田さん)
「国産食品が危険」なのではない。国産=安全と思い込むことが、表示の偽装やカラクリを見抜けない一因となっていることに、いま一度注意を払いたい。