相場の2倍で中古PCを”譲る”団体の言い分

「パソコン譲ります」は慈善事業なのか?

「ノートパソコンをお譲りします」

本誌編集部員の自宅に、このようなタイトルのチラシが投函されており、興味を引きました。なぜ見ず知らずの団体? がPCを譲ってくれるのでしょうか。

よく読んでみれば「2万6000円」などと記載されており、タダでもらえるわけではないようですが、なぜ販売ではなく譲渡という表現なのでしょうか? ですが主催団体は一般社団法人。きっと良心的な業者なのでしょう。

心を動かされた私は「譲渡会」の会場に足を運ぶことに。ただし、PCの価値を正確にはかるため、デジタルグッズや家電情報を取り扱う月刊誌「MONOQLO」(晋遊舎刊)編集部の建部博さんに同行を依頼します。

会場に我々が到着すると、そこには30人以上の行列が。そこではほぼ全員がチラシを片手に「年賀状を作るためにPCが欲しい」「うちの孫がユーチューブを観たいっていうから買いに来たのよ」などと話しており、PCに詳しくない人が多いように見受けられます。

行列に並ぶことおよそ20分。譲渡会のメインルームが開けられ、参加者が中に通されます。ずらっと置かれた椅子の正面には大型スクリーンが設置され、講演会のような雰囲気です。

壇上に譲渡会主催団体の職員が上がり、説明用のムービーが流されます。その内容は官公庁や大企業で余ったPCを「温室効果ガスの削減を目的に」本譲渡会を開催しているという趣旨。その後にPC自体のスペックや付属のソフト、ガイドブックについての説明が続きます。「ほうほう」と頷きながらそれを聞く高齢男性、メモを取る中年女性など、お客さんは解説をしっかりと頭に入れようとしています。

割高な型落ちPCが、飛ぶように売れるワケ

いよいよ譲渡会がスタート。会場後方に並べられたPCを、参加者が直接触って検討できるシステムのようです。お客さんがPCの前に集まり、ちょっとした人だかりが起こっています。

“譲渡”してくれるPCがどんなものかと見て回れば「Celeron メモリ2GB 160GB」の富士通製ノートパソコンが税込2万6000円、「Corei3 メモリ4GB 160GB」のNEC製ノートパソコンが3万8000円などといったラインナップ。あれ、家電屋さんの表記と違って、どこかに違和感があるような……?

「CPUの種類だけが表記されており、型番の表記がありませんね。この書き方ではどのCPUが使われているか、説明していることになりません。同じi3でも2008年製のものと、18年製のものでは、性能に雲泥の差があります。これは11年製の第2世代で、8年前の型落ち。iPhone4をiPhoneと言って売っているようなもの。なぜ誰も疑問に思わないのか、不思議です」(建部氏)

それでも購入希望の用紙を手に取っている客は多く、レジとなっている場所には長蛇の列ができています。

ここで建部さんが耳打ちしてきます。

「ここのノートパソコン、どれも相場よりかなり高いですよ。このスペックと年式の中古であれば半値がいいところです。オフィスの互換ソフトや年賀状作成ソフトがついている点を差し引いても高すぎますね。おまけにDVDドライブはついてないですし、ここで売られている別売りのドライブは市場価格の倍。おすすめはしません」

建部さんいわく“市場価値の倍の値付け”のPCは、その後も飛ぶように売れていきました。

また、PC用のマウスは別売りなのですが、そのマウスはアマゾンで777円で販売されているもの(19年1月21日現在)。マウスは袋に最初から同梱されており、販売員は「マウスは2000円になります」と、支払いの直前になって案内していましたが、「マウスは要りません」と断る人はいませんでした。

会場から出がけに3台ものPCを購入した老夫婦に話を聞いてみました。

「孫たちが中学生になるからお祝いでね。このPCがあればゲームとかユーチューブとか見られるっていうから、お得だと思ってまとめ買いしたのよ」

その後も購入者に取材を続けたものの、会場では誰一人として「高すぎる」といった不満をこぼす人はいなかった。

結局、私と建部氏はPCを買うことなく“譲渡会”をあとにしました。

一般社団法人JEMTCが行うこの“譲渡会”は、現在もWEB上では譲渡会の詳細な情報を公開せずに集客し、現在も開催されている。

※編集部がJEMTCに対し、売価が中古市場の相場よりも高いことについて、見解を求めたところ、JEMTCは自団体のパソコンを他社の中古PCよりも高額で販売している事実を認めたうえで、「他社よりも長い1年間の保証期間、無期限の電話サポート(常時15人以上の体制)を用意し、その人件費が反映されている」旨の回答をした。

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