自治会への非加入を理由に、地域のごみ捨て場の利用を禁じられたのは違法だ-。神戸市の住宅街に住む夫妻がこう主張し、地元自治会に慰謝料とごみ捨て場を利用する権利の確認を求める訴訟を起こした。行き過ぎた「制裁」か、それとも掃除当番の負担を免れた「ただ乗り」を防ぐ正当な判断か。最高裁にまで舞台が移った訴訟が浮き彫りにしたのは、地域の共助を前提とする行政サービスの制度疲労だった。
出禁で「ごみ屋敷」に
閑静な住宅街で、この問題の端緒となったのは平成31年2月。それまで都市再生機構(UR)がごみ捨て場を所有し誰でも利用可能としていたが、所有権を自治会に譲渡した。
これを受け、自治会は総会を開いてごみ捨て場に関するルールを決めた。自治会の役員や掃除当番を負担する住民の年会費は3600円▽掃除当番などを担わない住民は「準自治会員」として年会費1万円▽会費を払わない非自治会員は利用禁止-との内容だ。
原告の夫妻は約20年前からこの住宅街に住んでいるが、数年前に自治会から離脱していた。役員がルールを伝えて入会を求めたが拒否。ごみ捨て場を使えないため、ごみ収集車が到着したタイミングで直接作業員に手渡すか、親族に廃棄を頼むしかなくなった。その結果、夫妻宅は「ごみ屋敷」と化した。
神戸市によると、集まったごみを回収する作業は行政が担っているが、「ごみ捨て場の管理は基本的に地元住民に委ねている」(担当者)。戸別回収することもあるが、主な対象は歩行が困難な高齢者や障害者に限られるという。
夫妻は令和2年、自治会の対応は「所有権の乱用」として、損害賠償やごみ捨て場を利用する権利の確認を求める訴訟を神戸地裁に起こした。
「自治会の対応は違法」
自治会側は「会費を払っていないのに利用を認めれば、自治会員との間で著しい不平等が生じる」と反論。しかし、神戸地裁は翌年9月、夫妻にはごみ捨て場を利用する権利があると認めるとともに自治会の対応は違法として、計20万円の損害賠償を命じた。
同地裁は、神戸市の制度を踏まえると「地域のごみ捨て場の利用を禁じられると、家庭ごみを排出する手段を失う」と指摘。「ごみ捨て場の管理は(誰もが利用できる)行政サービスの一環といえる。一部の住民を排除するのは相当ではない」とした。
判決を不服とした自治会側は控訴したが、大阪高裁は今年10月、1審に続き自治会側の違法性を認めた。
たとえ自治会に入っていなくても維持管理費などの負担を求めればよく、「非自治会員の利用を一切認めないのは正当化できない」と判断。そうした金銭負担の提案を夫妻にすることなく〝出禁〟(出入り禁止)としたのは、入会の強制に等しいとして計30万円の支払いを命じた。
ただ、1審が認定していた夫妻がごみ捨て場を利用する権利自体は認めなかった。双方は控訴審判決を不服として上告した。
岐路に立つ自治会制度
ごみ捨て場をめぐるトラブルは各地で起きており、この訴訟は氷山の一角にすぎない。国立環境研究所(茨城県)が2年前に全国調査した結果、7割もの自治体で、自治会への非加入者が地域のごみ捨て場を利用できない問題を抱えていた。鈴木薫特別研究員は「自治会加入者が減少傾向にある中、住民間の摩擦が生じるケースは増えている」と分析する。
ただ、行政はこうした問題への関与に及び腰で、大半が住民同士で話し合って解決するよう求める対応にとどまっているという。
自治会への加入を敬遠する風潮が強まる半面、自治会の存在を前提とした行政サービスは多岐にわたるため、運営する側の苦悩は増している。訴訟の被告となった自治会のある役員は、住民トラブルの仲介や行政との折衝など労力がかかる任務が多いとして、「『入会しなくても自治会のものを使える』がまかり通れば、会員の減少に拍車がかかり、自治会の存続は難しくなる」と漏らす。
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地方自治問題に詳しい東京都立大の玉野和志教授(地域社会学)は「ごみ収集は本来行政が担うべき仕事で、自治会は好意で協力しているにすぎない」とした上で「自治会ありきの仕組みは限界にきている。行政は根本的にごみ収集のあり方を見直す必要がある」と話している。(地主明世)