疫システムがマメすぎるくらい働き者だから
アレルギー体質の人にとってうれしい結果だが、なぜがん発症率が低くなるのか、詳しいメカニズムはほとんどわかっていない。
東京大学の調査でも、担当研究者は論文の中で「高齢者が(花粉症などの)アレルギー疾患を持っていると、免疫機能が活発になる傾向があり、それが特定の原因(がん)による死亡率を防ぐのかもしれない」と推測している。
専門医のサイトをみると、ざっくりしたメカニズムはこうなるようだ。1つの細胞ががん化すると、通常は免疫システムが働き、すぐさま異物であ るがん細胞を見つけて破壊する。しかし、がん細胞が免疫システムの監視網をすり抜けたり、免疫システム自体が機能低下したりすると、がん細胞が増殖してか たまって悪性腫瘍になり、がんが発症する。
一方、アレルギー疾患は免疫システムが過敏に働き、花粉などの「異物」を過剰に攻撃することによって起こる。免疫システムがマメすぎるのだ。だから、がん細胞を小マメに見つけては攻撃してくれているわけである。
そう考えれば、花粉症の苦しみも少しはやわらぐかも。
花粉症は全疾患で43%、がんでは52%も死亡率が低い
2015年12月にスペイン国立がん研究センターが、喘息患者がすい臓がんにかかるリスクの調査結果を発表した。それによると、すい臓がんの 患者1267人と健康な人1024人の計2321人を対象に、喘息患者が占める割合を調べた結果、喘息の人がすい臓がんにかかるリスクは、喘息ではない人 に比べ36%低かった。特に17年以上の長期間喘息を患っている人では61%も低くなった。
2015年4月には、米の南カリフォルニア大学のチームが、アトピー性皮膚炎などのアレルギーのある人は、そうでない人に比べ、大腸がんを発 症するリスクが14%低いという結果を発表した。危険度を人種ごとに比較した念入りな調査で、日系米国人は13%減、白人は15%減、黒人は19%減、ハ ワイ先住民は28%減といった具合だ。
2015年9月には、東京大学のチームがすべてのがんの死亡リスクと花粉症との関係を調べた報告を発表した。群馬県内の40~69歳の男女 8796人を8~15年間追跡し、がんを含む全疾患の死亡リスクと花粉症の関連を調べた。すると、花粉症の人は全疾患の死亡リスクが43%低く、特にがん は52%も低かった。
こうした多くの研究をみると、アレルギー体質の人にも「予防効果」のないがんがあり、肺がんや乳がん、膀胱がんなどはアレルギーのない人と変 わらないという。また、アレルギー体質の内容にも差があるようだ。2011年のデンマーク・コペンハーゲン大学の研究によると、ニッケルなどの金属や化学 物質に触れると発作を出やすい「接触性アレルギー疾患」の人は、ほかのアレルギーの人よりがんの発症率が低く、とりわけ皮膚がんになりにくいという