完全個室と共用空間を両立 ミレニアル世代が利用
住人同士の交流やコミュニケーションが楽しめる賃貸住宅「ソーシャルアパートメント」を展開するグローバルエージェンツ。住宅の特徴は、従来からあるシェアハウスとは違って、プライベートな空間を維持できる完全個室と、デザイナーズラウンジなどの共用空間を両立していることだ。居住者は一般的なワンルームサイズの個室を持ちながら、予約不要のラウンジで食事をとったり、住人同士でゲームやパーティーを行ったりできる。
例えば、東急田園都市線沿いの「ソーシャルアパートメント宮前平」。92世帯が入居可能な大規模アパートメントで、12.5㎡程度のワンルームに、カフェのような広々としたラウンジとビリヤード台が置いてあるエントランス、仕事に集中できるワークスペース、パーティー空間、鏡張りのフィットネスルームの6つの共用空間が併設されている。
また、表参道で人気のカフェ「パンとエスプレッソと」とコラボレーションした「ネイバーズ立川」では、14.5㎡程度のワンルームに、ラウンジとワーキングスペース、ルーフトップの共用空間があるほか、1Fのカフェ利用料が賃料に含まれており、毎朝焼きたてのパンが食べられる。
グローバルエージェンツでは、こうした新しい暮らし方を提案する「ソーシャルアパートメント」を東京都・神奈川県を中心に36棟運営し、その部屋数は約2000室に及ぶ。入居者の平均年齢は29歳。実に8割が、25歳から34歳までのいわゆるミレニアル世代だ。同社代表取締社長の山崎剛氏は、この世代がソーシャルアパートメントを利用する背景について、次のように分析する。
「“合理的な選択”として『ソーシャルアパートメント』を選んでいると感じています。我々の住宅の賃料は、平均的なワンルームの賃貸物件よりも少し高いですが、1LDKよりも安く設定しています。自分の部屋があるのでプライバシーを確保しながら、必要なときにラウンジなどの広い空間を自由に使えるので、ワンルーム以上の価値を感じているのです。もちろん、居住者同士でコミュニケーションを楽しめることも含めた総合的な価値で、選んでいただいていると思います」。
Point 1 シェアに対する許容範囲 若年層の価値観に合わせる
「ソーシャルアパートメント」は物件によって設備は異なるが、個室に風呂やトイレが付いている住宅もあれば、それらが共用のケースもある。また、共用空間もラウンジやキッチンのほか、フィットネスルーム、ワークスペースなど物件によって異なり、居住者が自分の価値観に照らして選ぶことができる。また、少人数のシェアハウスとは違って、1棟に50戸以上入る物件もあるため、必ずしも居住者全員が積極的に交流しなければいけない雰囲気はない。
山崎氏によると、若年層であっても全てのモノをシェアしたいと思っているわけではなく、あくまで他世代に比べてシェアを許容する範囲が広がっているだけだという。
「一般的に年齢が上の世代は所有を重視し、下の世代ほどシェアを好むと言われていますが、それは正確ではないと考えています。正しくは、上の世代はモノの“利用”と“所有”をセットで考えていますが、下の世代はそれらが必ずしもセットではないということです。つまり、若年層は最終的にモノを“利用”できれば所有しなくてもいいと考えており、その上で所有することが合理的であれば、所有を選ぶのです」。
Point 2 自社Webサイトを重視 SNSとの相性も良い
「ソーシャルアパートメント」の設立から10年以上が経過し、入居者の属性も変化してきたという。当初は、海外でシェアハウスに居住した経験を持つ人などが多かったが、現在は初めてひとり暮らしをする人が入居してくるケースもある。「この数年で、入居者が多様化してきたと感じています」と、山崎氏。
現在、入居の申し込みは同社のWebサイトから受け付けている。当初は、賃貸サイトにも物件情報を掲載していたが、間取りなどの条件面がサイトのフォーマット上でうまく表現できなかったうえ、メリットや世界観を深く説明できないことから共感を生み出せず、ほとんど成約につながらなかった。
「新しい概念であるため、世界観をしっかりと説明しないと、魅力を感じてもらうことができないのです。Webサイトでも『ソーシャルアパートメント』で暮らすと、どのような生活が実現するのかというライフスタイルや世界観を発信することを大切にしています」。
一方で、自社のWebサイトを充実させても、同社事業を認知してもらえなければ閲覧数は伸びない。そこで重視しているのが、TwitterやFacebookなどのSNSだ。これらのプラットフォーム上でターゲット世代に広告を配信している。また、同社物件の居住者を訪問した友人が、ラウンジなどの空間に驚き、SNSに投稿して情報が拡散されていくケースも増えている。
「テクノロジーが進化することで、さまざまな情報が溢れ、シェアに関する情報も入手しやすくなっています。これにより、若年層が合理的な判断の結果としてシェアを選択しやすい環境が生まれていると考えています」。
同社は、最近では事業領域を拡大させ、コインランドリーやホテルの運営も始めた。また、引き続き「ソーシャルアパートメント事業」を成長させていくべく、物件数を増やしていく予定だ。