被災3県42首長アンケート 「復興度90%以上」6割 福島は「70%以下」が過半数

東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島3県の計42市町村の首長のうち、復興の進み具合を0~100%の数値で示す「復興度」を「90%以上」と考える割合が全体の約6割(26人)に上ることが、河北新報社のアンケートで分かった。岩手、宮城両県の大半の首長が復興の総仕上げの段階に入ったとの認識を示した。(報道部・小沢邦嘉)
 福島県では、過半数の8人が30~70%と回答。東京電力福島第1原発事故の影響の深刻さが浮き彫りとなった。
 回答状況は円グラフの通り。岩手は洋野町、久慈市、普代村、岩泉町の4人が「100%」と回答。6人が「90%」と答えた。宮城は15人全員が「90%以上」との認識を示した。
 福島では相馬市が「90%」、4人が「80%」と回答した。70%以下を選んだ首長では、福島第1原発が立地する大熊町と双葉町がともに30%で最低だった。「数値化できない」「分からない」との回答もあった。
 復興の完了時期の見通しを聞いた結果は棒グラフの通り。「2021年度末ごろ」が7人、「25年度末ごろ」が5人など。原発事故の影響が深刻な福島県内の7人は「見通せない」と答えた。
 このほか「心のケアに息の長い支援が必要」(郡和子仙台市長)などとして、13市町村は「その他」を選んだ。前年の調査では13人が本年度までに復興完了を見込むと答えており、時期を見直す首長が目立った。
 国や県の事業も含め、本年度内に完了しないハード面の復興事業が「ある」としたのは34人(岩手9人、宮城11人、福島14人)と全体の8割を占めた。うち岩手、宮城両県の全20市町村は22年度末までに事業が完了する見通し。
 震災11年目以降に被災地で必要と考える取り組み(複数回答)について、半数以上の首長が「被災者の心のケア」と「農林水産業の振興」を挙げた。
 国は新年度から25年度末までの5年間を第2期復興・創生期間と位置付け、1兆6000億円規模の事業を継続する。原発事故の被災地では30年度までの本格復興を目指す。

財政見通し より厳しく 施設維持費「懸念」88%

 河北新報社が東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島3県の42市町村を対象に実施したアンケートでは、復興事業で整備した公共施設の維持管理費について、財政圧迫への懸念を感じている首長が88%(37人)に上った。
 2021年度の市町村税収入など自主財源が20年度に比べ「減少する」と見込む首長も67%(28人)に上り、被災自治体の財政状況は厳しさを増している。
 回答はグラフの通り。復興事業で整備した公共施設の維持管理費について、岩手県大槌町、釜石市、福島県川内村が「既に財政を圧迫」と答えた。釜石市の野田武則市長は「維持管理コストの上昇により経常収支比率が高止まりし、徹底した経費削減が必要」との考えを示した。
 「長期的にみると財政面の懸念がある」と回答したのは約8割に当たる34人。仙台市の郡和子市長は「かさ上げ道路や津波避難タワーなどの施設の維持や更新などに新たな財政需要が見込まれる」、宮城県松島町の桜井公一町長は「観光地のため、人口に比べ過大な避難施設や備蓄倉庫の維持管理費負担が課題」と回答した。
 財源確保に関しては、厳しい見通しが相次いだ。21年度の自主財源が「大幅に減少する」と回答した久慈市の遠藤譲一市長は「復興事業の終了に伴う経済停滞と人口減により、歳入が減少する。震災後の台風被害で災害復旧費の償還も控えている」と指摘した。
 「横ばい」と答えた福島県浪江町の吉田数博町長は、東京電力福島第1原発事故の被害を踏まえ「震災前の人口には戻らない。上下水道や介護福祉などサービス維持が難しい」と課題を挙げた。

原発処理水の議論「深まらず」4割超

 河北新報社の42市町村長アンケートで、東京電力福島第1原発にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む処理水の処分方法を巡る国の議論状況について、「深まっている」との回答はゼロだった。「深まっていない」「どちらかと言えば深まっていない」は43%(18人)と半数近かった。
 国は有識者による小委員会の提言を踏まえ、海洋放出を軸に処理水の処分を検討しているが、結論を示していない。海洋放出されれば風評被害が福島県の内外に広がるとの懸念は根強く、自由記述では慎重な検討を求める意見が目立った。
 回答はグラフの通り。「深まっていない」の13人(31%)のうち岩手県が6人、宮城県が4人を占めるなど、福島県外の首長も懸念を示した。
 「深まっていない」を選んだいわき市の清水敏男市長は「国は一方的に国民から意見を聴取しただけで、どう対応するかは不透明」と指摘。科学的な議論をさらに深めるよう求めた。
 同じく「深まっていない」と回答した宮城県山元町の斎藤俊夫町長は「福島県に接しており、危機感を持っているが、どのような議論がされているか分からない」と国に情報の共有を求めた。
 無回答を含め「その他」を選択した首長が13人(31%)いた。専門知識がないことなどを理由に「分からない」は8人(19%)だった。

復興五輪の理念「明確」48% 前年からやや増加

 今夏の東京五輪・パラリンピックが掲げる「復興五輪」の理念が「明確である」と評価する首長は48%(20人)で約半数に上った。前年の調査から10ポイント(4人)増。新型コロナウイルスの影響で開催が1年延期となり、聖火リレーの準備などを通じて理念の具体化を実感する動きが一定程度広がっているようだ。
 回答はグラフの通り。「どちらとも言えない」は前年から7人減って18人(43%)、「明確ではない」は3人増えて4人(10%)だった。
 理念が「明確」と回答した首長の県別の内訳は岩手5人、宮城7人、福島8人。25日に聖火リレーが出発するサッカー施設「Jヴィレッジ」がある福島県広野町の遠藤智町長は「聖火リレーのコースは被災地を網羅し、復興に向けた現状が世界に発信される」と期待を込めた。
 ただ、予定通り五輪が開催できるかどうかを聞いた結果、「分からない」が15人(36%)で、「予定通り」は1人のみ。「開催は難しい」と4人が回答。「さらに延期すべきだ」「無観客などに計画変更すべきだ」とした首長がそれぞれ3人いた。
 「その他」(自由記述)も16人(38%)に上り、「コロナの感染状況に応じて検討すべきだ」といった意見も目立った。

本格復興 なお時間

 東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島3県の42市町村長アンケートでは、震災10年となる今月までに復興が「完了」するとの回答は4市町にとどまり、昨年の回答より9市町減った。地域再生や被災者の生活再建になお時間を要することが分かった。国の第2期復興・創生期間(2021~25年度)内の本格復興を目指す市町村が大半だが、26年度以降の復興完了を見据える自治体もある。

震災11年目以降も必要な事業 「心のケア」 最多57%

 国の第1期復興・創生期間終了後の2021年度以降も必要な復興関連の取り組み(三つまで複数回答)を聞いた。回答はグラフの通り。「心のケア」が24人(57%)と最も多く、「農林水産業の振興」が23人(55%)と続いた。
 「心のケア」を選んだ首長は岩手8人、宮城11人、福島5人。前年調査の19人(45%)から大きく増えた。新型コロナウイルス感染拡大によって、被災者同士が交流する機会が減った状況なども影響した。
 石巻市の亀山紘市長は「災害公営住宅で実施している健康調査で、被災者の精神面の悪化が見られる」と課題を挙げた。
 「農林水産業の振興」は岩手7人、宮城3人、福島13人が選択。前年調査の19人(45%)から4人増えた。漁業の不振を懸念する首長が多く、久慈市の遠藤譲一市長は「記録的な不漁に加え、産業全体で新型コロナが影響している」と危機感を示した。
 地域経済の回復の歩みが遅いことへの焦りもうかがえた。「商工業振興や雇用創出」を選んだ宮城県亘理町の山田周伸町長は「コロナ禍によって復興した商工業者への支援が課題」と回答した。
 被災地の課題が多様化し「その他」の回答を選ぶ首長も目立った。福島県浪江町の吉田数博町長は「(原発事故で避難した)町民の帰還と移住促進、帰還困難区域の除染」を挙げた。

震災風化 コロナ影響し関心低下

 震災の風化について、実感することが「ある」14人(33%)と「多少ある」22人(52%)を合わせ、計36人(86%)が不安を感じていることが分かった。前年をやや上回り、新型コロナの感染拡大が震災への関心を低下させているとの指摘もあった。
 名取市の山田司郎市長は「感染が世界規模で拡大し、震災を思い返し、被災者をいたわる心のゆとりの喪失を感じる」と述べた。福島県広野町の遠藤智町長は「(原発事故で)避難を継続している住民が忘れられている感がある。地域再生に向けて危機感を覚える」と訴えた。
 岩手県田野畑村の石原弘村長は「これから『災後世代』や高台で暮らす人口の割合が多くなる。震災経験の共有や防災体制の維持に官民挙げて注力しなければ、確実に風化が進む」と警鐘を鳴らした。

復興制度の見直し案 マンパワー確保重要

 発生が想定される南海トラフ巨大地震などを見据え、見直しが必要と考える復興制度について自由記述形式で聞いた。32人の首長から回答があり、災害時の自治体のマンパワー確保や、応援職員派遣の制度化を求める声が目立った。
 庁舎が津波で被災し、多くの職員が犠牲になった岩手県大槌町の平野公三町長は「行政運営がまひした場合、国や県が事務を代行する制度の創設」を訴えた。気仙沼市の菅原茂市長は「復興計画の企画立案に伴走する国の省庁横断チームを創設し、被災自治体に派遣する新制度」を提言した。
 土地利用の規制緩和を求める意見も複数あった。宮城県女川町の須田善明町長は「用地の取得、収用が容易にできる制度があれば、より迅速な復興が可能になる」と指摘した。
 事前の避難対策の強化や災害廃棄物の対策、復興事業の事務手続きの簡素化などを求める意見もあった。

復興度と復興「完了」の見通し 原発被災地の先見えず

 復興の進み具合を0~100%までの数値で示す「復興度」について、福島県の首長の回答は30~70%など低い数値が目立った。復興「完了」の時期についても「見通せない」「2026~30年度」が多く、東京電力福島第1原発事故の被害の深刻さが改めて浮き彫りになった。
 42市町村長の回答結果は図表の通り。「復興度」は岩手の全首長が80~100%、宮城の全首長が90%以上と回答。対照的に福島は福島第1原発が立地する双葉、大熊両町が30%と答えるなど厳しい現状認識を示した。
 原発事故で現在も全住民の避難が続く双葉町の伊沢史朗町長は「全町避難が長期化し、ハード面の復興事業も完了が見通せない」と回答。大熊町の吉田淳町長は21年度以降の復興の取り組みについて「マンパワー不足が課題」と指摘した。
 ハード整備事業が完了、または総仕上げの段階に入った岩手、宮城両県の首長からも、復興事業の継続を求める声が上がった。宮古市の山本正徳市長は「被災者の心のケアなどの取り組みは引き続き必要」と訴えた。

[調査の方法]東日本大震災で津波被害を受けたり、東京電力福島第1原発事故に伴い避難区域が設定されたりした岩手12、宮城、福島各15の計42市町村の首長を対象に1、2月に実施。質問をメールで送り、全首長から回答を得た。

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