昨年6月の改正食品衛生法施行を機に、手作りの漬物販売をやめる高齢農家が相次いでいる。宮城県内では漬物の製造販売が従来の登録制から許可制に変わり、煩わしい手続きや負担の増加が主な理由とみられる。農家の漬物は余った野菜を上手に活用する生活の知恵だ。産直施設の人気商品でもあることから、残念がる声が上がっている。(編集局コンテンツセンター・小沢一成)
農家「採算合わない」 非接触型の水栓など必要に
「採算が合わない。年も取っていて前からやめようと思っていたところに、追い打ちをかけられた」と話すのは、仙台市太白区の農家女性(72)。近くの農産物直売所で自慢のなす漬けや大根の甘酢漬けなどを売ってきたが、食品衛生法改正に伴い、漬物作りを諦めることにした。
改正法は全国で漬物の食中毒が相次いだ事態を踏まえ、営業許可業種に漬物製造業を加えた。非接触型の水栓設置などより厳しい施設基準が定められたほか、食品衛生責任者の設置などが必要になった。経過措置期限は2024年5月末。新規許可の申請手数料は2万3000円と、登録制時代の5800円から約4倍にはね上がった。
農家の漬物コーナーを常設し、多い時季だとキムチやぬか漬けなど約50種類が並ぶ仙台農協の農産物直売所「たなばたけ高砂店」(宮城野区)。法改正の前後で、既に数人の農家が漬物の製造販売をやめている。
梅干しや浅漬けなどを10年以上も手がけてきた宮城野区の農家女性(77)もその一人。20年4月から栄養成分表示の完全義務化が始まったことも挙げ、「漬物はもうからないわけではないが、縛りが多く、続けるのはとても大変。表示制度と許可制、年齢が重なってやめた」とため息をつく。
直売所「維持できるよう応援したい」
仙台市内の他の農家からは「漬けるのは野菜が取れる時期だけで、一年中ではない。業者と一緒にしないでほしい」「規格外の野菜がもったいないから漬物にしているのに…」などと困惑の声が漏れる。
たなばたけ高砂店の佐藤健生・副店長は「漬物は農家の収入につながり、直売所としてはビジネスチャンスでもある。(作り手は)高齢化の波で減っているが、維持できるよう応援していきたい」と話す。
秋田県では法改正をきっかけに、伝統食「いぶりがっこ」などの漬物作りをやめるケースの増加が懸念されている。県は本年度、新たに必要となる施設の整備費を補助するなど、漬物製造業の支援に乗り出した。
全国青果物商業協同組合連合会副会長や仙台伝統野菜保存会長を務める今庄青果(仙台市)の庄子泰浩社長は「食の安全安心の観点からも何らかの対策は必要だ」とした上で「事故が起こらなければ良いという考えだけで話が進むと、地域の食材が使われなくなり、食文化も大きく失われてしまうのではないか。ルールの何かがおかしいと皆さんで考えたい」と指摘する。