健康に過ごすためには、どんな食生活を送ればいいのか。医師の満尾正さんは「高血糖状態が続くと、糖尿病や脳梗塞のリスクが高まる。ハーバード大学の研究によると、炭水化物からの総エネルギー摂取が50~55%の群が、最も死亡リスクが低い」という――。
※本稿は、満尾正『食べる投資 ハーバードが教える世界最高の食事術[文庫版]』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。
現代人は糖質をとり過ぎている
糖質は効率よく細胞のエネルギーを生み出す貴重な栄養素です。
しかし、現代社会はあまりにも利便性が高まり、いつでもどこでも簡単に糖質をとることができるようになってしまいました。その結果、ほとんどの現代人が糖質摂取過剰の状態に陥っています。
朝にパン、昼にパスタを食べ、午後にいただきもののお菓子を楽しむ。健康のために野菜ジュースを飲み、夜は会食でワインを飲みながらのフルコース……といった高糖質な食生活は、ビジネスパーソンには珍しくないことでしょう。
ハイパフォーマンスを目指すには、脳細胞のエネルギー源となる糖質摂取も必要ですが、糖質摂取量が多過ぎると、かえってパフォーマンスを落とすリスクもあります。
リスクの一つに、糖質過剰摂取による高血糖状態が長く続くと、糖質とタンパク質が化合して生じる「糖化タンパク質」が増えてしまうということがあります。
糖化タンパク質の中で、正常の状態に戻れなくなってしまったものが「AGEs(終末糖化産物)」です。
これは、さまざまな細胞障害を引き起こすことが知られています。AGEsについては「食べない投資6 揚げ物など高温調理された食べ物(233ページ)」で、詳しくお伝えします。
高血糖状態が続けば、糖尿病のリスク増
欧米人と比べて、日本人は血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌量が少ないといわれており、その結果、同じ量の糖質を食べても高血糖になりやすい人が多くいる可能性があります。さらに高血糖状態が続けば、避けたい病気の一つである糖尿病になるリスクも増えてしまいます。
リスクの二つ目は「糖質」。中でも精製された穀類や砂糖類などのとり過ぎによって、血糖値の乱高下を引き起こし、体調不良の原因となることです。
急激に血糖値が上昇すると、血糖値を下げるために大量のインスリンが分泌されます。このため血糖値は下がり始めるのですが、インスリンの影響は血糖値が下がった後まで残るため、数時間後には血糖値が必要以上に下がってしまう、という現象が起こります。この状態を「低血糖状態」と呼びますが、集中力や思考力の低下、体のだるさなど、さまざまな症状を伴うことが知られています。
現代人の「4人に1人」は糖尿病にかかる
高血糖や低血糖がどんな悪影響を与えるかについて、次にまとめます。
①糖尿病
血液中のブドウ糖濃度である血糖値が、適正値よりも高い状態が続く病気で、現代人の20~30%が罹患するといわれています。発生の原因はインスリンの分泌不足やその働きに異常が生じることにあります。
糖尿病には2つの型があります。「1型」はすい臓でインスリンを産生できなくなることによって起こるもの、「2型」は栄養の偏り、過食、運動不足などの生活習慣が加わることで、インスリンの分泌不全や働きの低下が起こり発症します。働き世代に発症する確率が高いのが、この2型です。
糖尿病の怖いところは、その合併症にあります。
糖尿病ではAGEsが増えることによって、抹消血管がダメージを受けてしまいます。その結果、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、末梢神経障害といった深刻な合併症が起きてしまいます。
さらに近年の研究で、糖尿病ではアルツハイマー型認知症の発症率が高くなるということも明らかにされてきました。
すなわち、糖尿病になると脳の機能にも好ましくない影響があるということです。
老化を進める「最悪のホルモン」とは
②動脈硬化
高血糖の状態が続くと、当然ですが血中インスリン濃度が常に高い状態が生まれます。
インスリンは老化を進める最悪のホルモンともいわれ、アンチエイジングドックでは空腹時インスリン濃度を下げることが重要な目標の一つに挙げられます。
高血糖、高インスリン血症が持続すると、動脈の変性が起こりやすくなり、その結果動脈硬化が進行し、高血圧やさまざまな心臓疾患の原因となります。動脈硬化が起こったところで血栓が生まれると、その先への血流障害が起きるため細胞が死んでしまいます。
これが「梗塞」であり、心筋梗塞や脳梗塞が一般的に知られています。
③肥満
インスリンは、肥満にも深く関係しています。
高血糖が持続すると、インスリンは糖を脂肪細胞に送り込み血糖値を下げようとします。その結果、脂肪細胞の中でも特に内臓脂肪が増える結果となります。
寝る前に糖質を大量に摂取する場合には、この傾向が顕著になるようです。内臓脂肪が増えると、今度はこの脂肪細胞からさまざまな物質が放出され、高血圧やさらなる肥満の原因を作ることもわかってきました。
このように、糖質の過剰摂取は悪循環の歯車を回す原因となってしまいます。
「低血糖」が眠気、だるさ、イライラの原因に
④脳機能への影響
血糖値が急上昇すると、すい臓が大量のインスリンを分泌し、数時間後には血糖値が急降下します。その軌道は、まさにジェットコースターです。
大量のインスリンが分泌されると、通常の空腹時(80~100mg/dl)よりも血糖値が下がってしまう「低血糖」に陥ります。70mg/dlを下回ると、眠気に襲われたり体がだるくなったり、なんだか落ち着かずに集中が途切れて仕事が手につかないだけでなく、イライラしてしまったりする精神症状を呈することもあります。
このように、血糖値の変動はさまざまな弊害を引き起こすことから、何かを口にするときは糖質のとり過ぎにならないかどうか、気をつけることが重要です。
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では、糖質はどの程度摂取したらよいのでしょうか。
その判断をするための、一つの指標となる研究論文があります。
ハーバード大学が2018年に発表した、炭水化物摂取量と死亡率との関連を調べた研究論文を見てみましょう。
ハーバードの研究で判明「炭水化物摂取量と死亡率との関連」
この研究では、極端なカロリー摂取をしていない1万5428人の成人男女を対象に、平均で25年間の間、食事の内容と生命予後との関係を調べました。
この結果、炭水化物からの総エネルギー摂取が50~55%の群が、最も死亡リスクが低いことが判明したのです。一方で、最も死亡リスクが高かったのが、炭水化物摂取70%の群と、40%の群でした。
つまり、炭水化物摂取量が多過ぎても、少な過ぎても、死亡リスクは高くなるということです。
これを踏まえると、大切なのは過剰な糖質制限をするのではなく、個々の運動量や体質によって糖質の必要量はどれぐらいかを経験や検査から知っておく必要があるということがわかります。
私は、クライアントに対しては、1日の糖質摂取量を200~250g以内にすることを勧めています。減量目的の場合であれば、1日の糖質摂取量を150g以内にする「マイルド糖質制限」がよいでしょう。
ハーバード大学の研究で最も死亡リスクが低かった「炭水化物50~55%」は、1日の摂取カロリーを2000kcalとした場合、炭水化物から食物繊維を除いた糖質量でいうと200~250gです。
「ご飯は朝と昼に茶碗1杯、夜はおかずのみ」がおすすめ
ただし、デスクワーク中心の仕事だったり、毎日運動をしていない場合には、少々多い量かと思いますので、150~200g以内を目安にすることをおすすめします。
一般の方は、糖質を1日当たり200~300gとっているといわれているので、150~200gは実現しやすく無理のない数字かと思います。
茶碗に普通に盛った白米の糖質は50g前後なので、分かりやすいのは朝と昼に茶碗1杯ご飯を食べて、夜は主食を控えておかずのみにするという方法でしょう。おかずにも糖質は入ってくるので、これで大体150gに近い数字になるという算段です。
どうしても空腹を感じてしまったときの間食は糖質以外のものにするか、糖質をとったぶん、ご飯の量を調整することで対応します。
私が監修したあるテレビ番組のダイエット企画で、この「1日の糖質摂取150g」を13名の方に1カ月間実践してもらったところ、平均3kgの減量に成功しました。
ダイエット前後の血液データを見ると、脂肪が分解されることで発生する「ケトン体」の濃度が、ダイエット前と比べると平均で7倍に増えていました。
CTスキャンで調べたところ。皮下脂肪と内臓脂肪の両方が減少していましたが、特に内臓脂肪が大幅に減っていたことがわかりました。
糖質を適切に制限することで、体内の脂肪がどんどん分解される体質に変化したということです。
つまり、血糖値の乱高下を避けるためには、糖質の質と量を適正にすることが重要である、ということです。食べていい糖質と避けるべき糖質があり、さらに食べ方も影響してきます。
———- 満尾 正(みつお・ただし) 米国先端医療学会理事、医学博士 1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。米国アンチエイジング学会(A4M)認定医(日本人初)、米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医の資格を併せ持つ、唯一の日本人医師。キレーション治療の経験は延べ5万件を超える。著書に『ハーバードが教える 最高の長寿食』(朝日新書)、『医者が教える「最高の栄養」 ビタミンDが病気にならない体をつくる』(KADOKAWA)、『世界最新の医療データが示す 最強の食事術』(小学館)など多数。 ———-