「田舎へ移住」の悲惨な末路
長い勤め人生活を終えて、老後は気ままに暮らしたい。それに合わせ住まいも移りたいという人は多い。だが、安易な住み替えほど、人生の設計図を狂わせるものはない。
「最悪の住み替えのパターンは、もともと住んでいた都市部のマンションを売却して、田舎に土地を買って移住することです。
のんびり空気のいいところで暮らしたい気持ちはわかりますが、100歳まで生きることを考えた場合、病気のリスクは避けられない。地方に本当に満足できる病院施設があるかどうか疑問です」(不動産経済研究所特別顧問・角田勝司氏)
マンションを賃貸に出して、田舎に住んでみるのならまだいい。だが一度買い替えてしまえば、有名なリゾート地であったとしても、価格は下がる一方。いざ売りたくなっても流動性がほとんどなく、買い手が付かないこともしばしばだ。
では都心のマンションへの住み替えであれば、問題ないかといえば、そうは問屋が卸さない。
「戸建ての住宅を売って、都心のマンションに住み替えることを検討している高齢者も多いですが、これも要注意です。
60歳を過ぎて住み替えるとなると、中古マンションになると思いますが、よほど築浅で利便性の高い物件でなければ、いざ売却しようとしてもなかなか売れない。一方、土地付き一戸建ての場合は、価格さえある程度下げれば、わりとすぐに売れます」(角田氏)
最終的に老人ホームなどに移る際に現金が必要になったとき、一番便利なのは一戸建てなのだ。
中古物件の場合、修繕積立金もばかにならない。加えて、今後10年、20年で建て替える必要がある物件も多い。80歳、90歳になったときに建て替えの話し合いや交渉に参加するのは、ひどく骨が折れるだろう。
リフォームも慎重に
では今住んでいる家をリフォームして、住み続けるという選択肢はどうだろう?実はそこにも思わぬ罠が潜んでいる。
「これまでは30代で家を買い、定年後に大規模リフォームというパターンが多かった。
しかし、人生100年時代になると、60代でリフォームしても亡くなる前にもう一度修繕が必要になる可能性が高い。本当にリフォームする必要があるのか、高齢者施設に入る準備金を蓄えたほうがいいのか、思案のしどころです」(ファイナンシャル・プランナーの大沼恵美子氏)
「とりあえずバリアフリーにしておこうと、安易にリフォームする人が多いですが、これは無駄が多い。いざバリアフリーが必要になったときには、自宅を出て施設に入ることがほとんどだからです。
また、手すりなどをたくさん付けてしまうと、売却したり賃貸に出したりするときにも障害になる。介護のために浴室などを広くしても、そんな設備を必要としている買い手などいません」(ファイナンシャル・プランナーの鈴木暁子氏)
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高齢者の住み替え需要に呼応して、最近増えてきているのが、高齢者向けの分譲マンションだ。
サービス付き高齢者住宅は賃貸契約だし、介護付き有料老人ホームも利用権を買うだけだが、分譲マンションなら所有権が持てるし、相続することもできる。資金に余裕があればいいこと尽くめに思えるが……。
「相続しても子供が規定の年齢に達していないと入居できないし、そもそも子供が入りたいと思うかどうか……。固定資産税に加えて、普通より割高の維持管理費もかかる。しかも市場が小さいので、売りたいと思ってもなかなか売れない可能性が高い」(前出の鈴木氏)
歳を取ってからの住み替えは一度の過ちが命取りになる。十分慎重になりたい。
「週刊現代」2017年9月2日号より