酒を飲めるのにあえて飲まない生活スタイル「ソーバーキュリアス」への関心が東北でも高まっている。「時間を有効に使いたい」「健康に過ごしたい」という若い世代を中心とした意識の高まりが背景にある。時代の流れを捉え、味わいを重視したノンアルコール飲料を開発する事業者も出てきた。(生活文化部・柏葉竜)
「利点多い」
仙台市青葉区の飲食店「本町焼肉DATENARI」の店長伊勢淳哉さん(40)は2年ほど前、健康診断で肝臓関係の数値が悪かったのをきっかけに酒をやめた。
「飲んだ次の日、二日酔いでぐったりしていた時間を有効に使えるようになった」と伊勢さん。長男(5)と過ごしたり、読書をしたりする時間が増えたという。「しらふだと頭がクリアな状態で物事を考えられる。酒の席でも余計な事を言わずに済む」。飲まない利点は多いと日々感じている。
店ではシードルやティースパークリングなど約20種類のノンアルドリンクを取りそろえる。ソーバーキュリアスとしての視点を生かし、酒を飲まない来店者も楽しめる店づくりを進める。
厚生労働省の2019年の国民健康・栄養調査に基づく世代別の飲酒の頻度はグラフの通り。酒を飲めるが「ほとんど飲まない」と「やめた」の合計は全世代で17・9%。年代別では70代以上が15・0%と最も低く、20代が26・9%と最も高い。ソーバーキュリアスの傾向は若い世代ほど強まる。
仕事のストレス発散法を尋ねたスタッフサービス・ホールディングス(東京)の昨年9月の調査でも、酒を巡る世代間の意識の差が表れた。飲酒と回答した男性が「就職氷河期世代」(41~50歳)で1位、「バブル期世代」(51~60歳)で2位だったのに対し、「ミレニアル世代」(26~40歳)や「Z世代」(16~25歳)は5位以内に入らなかった。
ニッセイ基礎研究所(東京)の久我尚子さん(46)は「若い世代ほど娯楽が多様化しており、飲酒に対する意識は相対的に低くなる」と指摘。「デジタルネーティブ(生まれた時からインターネットが身近にある世代)は情報通。アルコールの体への影響を理解し、健康志向が強い」との見方も示す。
商機を探る
アルコール離れに商機を探る動きもある。
岩手県釜石市の商店街「仲見世通り」の活性化を図る合同会社「sofo(ソホ)」は昨年8月、独自ブランドのノンアルビールの販売を始めた。商品を企画し、生産は長野県の業者に委託している。
現在販売しているのは白ビール。リンゴ果汁や4種類のスパイス、ハーブを加え、華やかさと爽やかさを際立たせた。
代表社員神脇隼人さん(33)も酒は飲まない。「飲まないと目覚めがよく、健康的に毎日を過ごせる。どうせ飲むなら、おいしいノンアルを楽しみたい」
神脇さんは、地方だからこそ発信できるノンアル文化があると信じる。「日常生活にしても観光にしても、地方での移動に車の運転は欠かせない。移動の自由を奪わないのはノンアルの大きな利点だ」と強調した。
[ソーバーキュリアス]英語の「ソーバー」(しらふ)と「キュリアス」(~したがる)を組み合わせた造語で「しらふでいたがる」というニュアンスの言葉。英国出身のジャーナリスト、ルビー・ウォリントンさんが2019年に刊行した著書で打ち出したとされる。昨年10月には日本語訳の「飲まない生き方 ソバーキュリアス」(方丈社)が出版された。
ノンアル飲料、味わい多彩
酒と同じように、ノンアルコールにも状況や好みに応じた楽しみ方があるという。ノンアル商品にも力を入れるアキモト酒店(秋田県大仙市)の秋元悠史さん(35)に聞いた。
お酒を飲み慣れた人にお薦めなのがノンアルのジン。香りがいいし、味わいも複雑です。上質な料理にも合います。アルコールのジンと同様、炭酸水やトニックウオーターで割るのがいいと思います。
ワインを飲み慣れた人であれば、酢をベースにしたドリンクもお薦めです。酸味があって甘過ぎないので、揚げ物やファストフードにも合います。酸味と甘みのバランスがポイントになります。
ビールもワインも元々好きじゃないという人は、果物のジュースを炭酸で割るのがいいのではないでしょうか。果物の甘みが気になる人も炭酸のシュワシュワした感じで飲みやすくなります。
食事に合わせないのであれば、生産者が厳選した素材で製造するクラフトコーラはいかがでしょうか。食事が終わった後や風呂上がりにくつろぎながら飲むのに適しています。酒で言えばウイスキーのような楽しみ方ですね。香りもいいし、スパイスも利いている。クラフトならではのぜいたくな気分が味わえます。