都内を中心にじわりと普及している電動キックボード。 7月1日から、改正道路交通法の施行に伴い、一定サイズ以下のものに限り「特定小型原動機付自転車」(特定小型原付)へと車両区分が変更になる。 【全画像をみる】電動キックボード、飲酒運転で「永久凍結」も。7月1日から免許なし、最高速度も20kmの新ルール 改正法の施行に向けて、現在実証試験の枠組みでシェアリングサービスなどを提供する事業者らが新しい機体の発表や、交通ルールの周知を進めている。 ※詳しいルールはこちらから。
入り乱れたルールが簡潔に
量販店などで市販されている電動キックボードなどの電動の小型モビリティは、これまで基本的には「原動機付自転車」(原付)に位置づけられていた。 一方、ここ数年で、都内を中心に電動キックボードのシェアリングサービスも普及してきた。実は、こういったシェアリングサービスは、経済産業省の新事業特例制度のもとで実証実験として運用されており、「小型特殊自動車」という市販の電動キックボードとは別の車両区分に分類されていた。 この7月に施行される改正道路交通法では、こういった実証実験を踏まえて、自転車と原付の「中間」に位置する電動キックボードなどの“小型モビリティ”を想定した新たな車両区分として「特定小型原付」が新設される。 機体のサイズが、長さ190センチメートル以下、幅60センチメートル以下。最高時速20キロメートル以下(実証実験では15キロメートルが最大)の電動機が搭載された機体が、特定小型原付に分類される。 16歳以上であることが確認できれば、免許不要で利用できる。右折方法は「二段階右折」で、自転車走行帯の走行も可能だ。 実証実験では二段階右折が禁止だったため、たびたび電動キックボードが大きな交差点の道のど真ん中付近で停止せざるを得ない状況も生じていた。この後、車道を走るときには、基本的に一番左側を走行しつづければよくなった。 また、ヘルメットの着用も「任意」から「努力義務」に。ナンバープレートの形も、正方形の小型なものに変わる。 また、今回の改正法では、特定小型原付のうち最高速度が時速6キロメートル以下のものを「特例特定小型原動機付自転車」(特例特定原付)とさらに区別している。この区分であれば、これまで違法だった「歩道での走行」も、車両の「最高速度」に応じて部分的に可能になる。 特定小型原付には、「最高速度表示灯」※の設置が義務付けられており、この点灯方法の違いでその機体の最高速度を見極めることができる。同じ電動キックボードでも、表示等が「点灯」状態であれば最高速度が時速20キロメートル。「点滅」状態であれば最高速度が6キロメートルの特例特定原付に分類される。 最高速度を切り替える機構を取り付けることで、特定原付と特例特定原付を行き来するような車両も実現可能だ。最高速度の切り替えは、車両が停止している最中にしか認められていない。 最高速度表示灯によって、違法走行の取り締まりが容易になる。 ※最高速度表示灯の設置は、2024年12月23日まで猶予期間が設けられている。
「新たなモビリティの普及に向けた一歩」
6月29日、六本木ヒルズでは、渋谷を中心に電動キックボードのシェアリングサービスを展開するLuupが交通ルール改正に関する説明会を開催した。 同社の岡井大輝代表は 「1993年に電動アシスト自転車の登場によって法改正されたタイミング以来の大きな変更になります。今回の法改正は、電動キックボードに関する改正というより、電動マイクロモビリティ専用の交通ルールとなる初めての法改正です。新たなモビリティの安全な普及に向けた、大きな1歩だと思っております」 と改正法の施行の意味合いを語った。 Luupは、2021年4月から、渋谷区を中心に新事業特例制度を利用した電動キックボードのシェアリングサービスを開始した、この業界のリーディングカンパニーだ。 現在までに、東京、大阪、横浜、京都、宇都宮、神戸、名古屋の7都市で合計3500ポート以上、電動キックボード・電動アシスト自転車を合わせて1万台以上(割合は半々)を展開。アプリのダウンロード数も100万ダウンロードを突破した。 改正法の施行に向けて、ダウンロード数はもちろん、利用者数も伸び続けているという。 Luupでは、7月1日以降に新たに設置するポートには、最高速度表示灯などが取り付けられた新しい電動キックボードを順次展開していく。 既存の車両(最高速度時速15キロメートルで運用)については、ナンバープレートを変えずに基本的にそのまま運用していく方針で、一部の車両には順次最高表示灯を取り付けていくことになる。最高速度はソフトウェアで時速20キロメートルに変更が可能なため、7月1日から既存車両でも時速20キロメートルで走行可能だ。 ただし、最高速度表示灯が取り付けられていない車両は、表示灯を「点滅」状態にすることができない。そのため、特例特定原付として歩道を走ることはできない。最高速度表示灯が設置されていても、最高速度を6キロメートルに変更できないものについても同様だ。
悪質利用で永久追放も
改正法の施行に伴い、免許がなくても運転できるようになるなど、諸条件が緩和される。ただ気になるのは、安全面の対策だ。 警察庁によると、2020~2022年にかけて発生した電動キックボードに関連した事故の件数は74件。負傷者は76人で、死亡したのは1人だ(事故件数は個人購入で利用しているものも含む)。 加えて、2021年9月~2023年1月に電動キックボード関連で検挙されたのは2014件。指導警告されたのは1321件だった。 検挙されたうちの7割以上が、信号無視や通行区分の違反であることから、交通ルールの徹底が重要な取り組みであることがよく分かる。 Luupでは、マイナンバーカードやパスポートを使った年齢確認の仕組みを導入しているほか、交通ルール徹底のために、新しい交通ルールでの安全テストも義務化。全問正解がサービス利用の条件となっている。 また、警察と連携して、悪質な利用者に対するペナルティ制度を新たに設ける。 違反の内容に応じてポイントが蓄積されていき、一定のラインを超えるとアカウントが凍結されるイメージだ。ペナルティが課せられる細かい条件は非公開ではあるが、飲酒運転などの悪質性の高い違反をした利用者に対しては、例え1度の違反であってもアカウント凍結という厳しい対処をしていく方針だ。現状では、一度アカウントが凍結すると、永久にLuupのサービスを利用できなくなる。 交通ルールの周知に向けた課題として、岡井代表は「Luupに乗っていない方々に交通ルールを説明するハードルが高い」とも話す。 ただ、 「歩行者や車を運転するドライバーなどの多くの方々の間で、(電動キックボードの)違反行為が周知の事実になると、正しく乗っていただく圧力がかかっていくと思っています。これは必要な圧力だと思っております」(岡井代表) と、社会全体が新しいモビリティの交通ルールを認識することで、利用者側も交通ルールを遵守しやすくなるのではと話す。 Luupとしては、改正法の施行以降も、広告媒体を通じた交通ルールの周知や、東京海上と連携した冊子の配布、自治体と連携した安全講習会の実施など、啓発活動を続けていくとしている。 また、Luupでは努力義務となっているヘルメットについても 「これまで色々試してきましたが、折り畳めて軽量化でき、格好いいものがないと難しい。オリジナルデザインしたヘルメットなどの販売も検討していこうと思っています」 と対応を考えていると語った。
電動モビリティは、IoT活用でどこまで賢くなれるか
電動キックボードの普及を目指し、力を入れているのはなにもLuupだけではない。 「今年の2月後半から今週まで、毎週最高ライド記録を更新し続けてるような状況です。暖かくなってきてから、うなぎ登りに利用者数が伸びています」 法改正に伴う注目度の高まりに期待を寄せるのは、2021年10月から電動キックボード「BIRD」のシェアリングサービスを展開するBRJの宮内秀明CEOだ。BIRDは東京都立川市を起点に首都圏の「都心から少し離れた地域」でサービスを広げており、総配備数は400台を超えた。 同社でもLuupら他の事業者と同様に、試乗会などを通じて安全啓発や認知を広げている。 改正道路交通法施行前の週末である6月24日にも、立川駅北口のコンコースで立川警察署と連携して試乗会・交通ルールの説明会を開催した。 ただ、宮内代表は、7月1日以降ユーザー対象が変わってくることから今までやってこなかったアプローチも必要だと指摘する。 「今までは免許を持っている方が対象でしたが、今後は極端な話、高校生で道路標識のルールを1度も勉強したことがない方もユーザーになってくる。やることは変わらないんですが、例えば学校関係など、今までやってなかったアプローチ先にアプローチしていく。日々の啓蒙活動や、チラシをお配りするような相手も、少し領域を広げていかないといけないと感じています」(宮内CEO)