就任以来初めて「不支持率」が上回り窮地に立たされる文在寅大統領
韓国ギャラップが12月21日発表した世論調査によると、就任以来高い支持率を保ってきた文在寅政権に対す不支持率は46%となり、就任以来初めて支持率45%を逆転した。ただ、保守陣営の最大野党、自由韓国党の支持率は先週比で1ポイント下落しており、文政権の支持低下を生かし切れていない。
そうした背景にあるのは、韓国の雰囲気の変化だ。
というのも、文政権の経済政策は完全な失敗であり、また、文政権が強く求めてきた金正恩・朝鮮労働党委員長の年内ソウル訪問が延期となりそうだからだ。外交面でも文大統領は各国から信頼されておらず、来年は一層厳しさが増すと予想される。文政権にとっては八方ふさがりの年となりそうだ。
では、2018年の年末に当たり、2019年の韓国を展望してみたい。
米国と北朝鮮のはざまで身動きが取れない文大統領
韓国大統領府は、金委員長の年内ソウル訪問が難しくなったとの認識を明らかにした。北朝鮮は南北首脳会談後、米朝首脳会談の再開催を始め、開城工業団地や金剛山の観光事業の再開、終戦宣言の合意などの進展を期待していた。しかし、いずれも進展は見られず、金委員長はソウルを訪問しても期待する成果が得られないと判断したもようだ。
これまで文大統領は、北朝鮮の“非核化意思の広告塔”的な役割を務めてきたといっていい。南北首脳会談で金委員長が、「可能な限り早い時期に完全非核化を終え、経済発展に集中したい」と言っただけなのに、具体的な非核化の意思を確認もしないまま、「米朝対話の条件が整った」としてトランプ大統領に再会談に応じるよう説得したりしているからだ。
また欧州歴訪では、フランスのマクロン大統領に、「制裁緩和に動くべき」と説得。これにはトランプ大統領も不信感を抱き、「われわれの承認なしに制裁は解除できない」と韓国を牽制した。
米国は、文大統領がいかに調子のいいことを言おうと、北朝鮮が相変わらず核ミサイルの開発を進めていることから、非核化には懐疑的だ。例えばCNNは、衛星画像を解析した結果、北朝鮮が内陸の山岳地帯にある長距離ミサイル基地を大幅に拡張していることが分かったと報じた。また、既に知られる嶺底洞(ヨンジョドン)ミサイル基地のほかに、別のミサイル基地と思われる近隣の施設も大幅に拡張しているもようだ。
北朝鮮は、東倉里(トンチャンリ)ミサイル発射施設の廃棄や、寧辺(ニョンビョン)核施設の破棄などに言及しているが、米国が求める核施設の申告には応じていない。これは、古い施設を破棄するかたわら、新たな施設の建設に邁進しているためであり、実態は「もぐらたたき」だ。つまり、核弾頭の大量製造や配備は、ほとんど阻止できていないのが実態なのだ。
このように、米朝それぞれが交渉の難しさに気づき始めたにもかかわらず、韓国だけが南北融和に向けひとり突っ走っている感がある。
これまで米国は、「北朝鮮に非核化の意思がある」との韓国の説得で、対話に応じてきた。ところが、ポンぺオ国務長官が訪朝して金委員長と面会しても、核施設の申告には応じる気配はなく、具体的な非核化の議論は進んでいない。「(米国が)崔善姫(チェソンヒ)外務次官や金英哲(キムヨンチョル)党副委員長に10回、20回以上電話をかけても、平壌から返答はない」(文正仁統一外交安保補佐官)という。
一方で金委員長は、トランプ大統領との直接交渉を望んでいる。それは、トランプ大統領が6月の米朝首脳会談において、中間選挙を意識して成果を急ぐあまり、非核化について曖昧にしたまま共同宣言に合意したからだ。しかし、そんなトランプ大統領も中間選挙後は「急ぐことはない」と姿勢を一変させており、北朝鮮のペースには巻き込まれないとの意思を示している。
非核化について具体的な進展を求める米国と、非核化を曖昧にしたまま「終戦宣言」と「制裁解除」を勝ち取ろうとする北朝鮮。その立場の違いは明らかになっている。これまで文大統領は、言葉巧みに米朝を動かしてきたが、双方の信頼を失えば身動きが取れなくなる。そうなれば文政権にとって唯一の“売り”はなくなり、政権に対する支持率は急降下しかねない。
果たしてどうなるのか、次の米朝首脳会談が最大の山場といえる。
「反日4点セット」を持ち出し日韓関係は危機的状況
韓国政府は、今年の秋以降、(1)朝鮮半島出身労働者(以下、徴用工)に対する大法院の賠償判決、(2)慰安婦合意の破棄、(3)海上自衛隊艦船の旭日旗掲揚自粛要請、(4)国会議員の竹島上陸、という「反日4点セット」を持ち出しており、日韓関係は危機的状況を迎えている。
韓国政府の反日に拍車をかけたのが大法院の判決だ。10月30日、元徴用工の請求権は消滅していないとして新日鉄住金に合計4000万円の支払いを命じ、その後も裁判所は次々に賠償を命じる判決を出したからだ。この判決は、これまでの日韓関係の中で、最も悪影響を及ぼす問題だ。
安倍晋三首相は「判決は国際法に照らしてあり得ない判断である」と批判、河野太郎外相はより強く、「判決は両国関係の法的基盤を根本から覆すものである」と反発した。日本政府としては、韓国政府が国内措置によって解決すべき問題だとの立場だ。
この判決に、実は文大統領自身が深く関わっている。2000年に裁判所に提訴した際の原告弁護団に関わっていたし、昨年の就任100日目の記者会見でも、韓国の大統領としては初めて「個人請求権は消滅していない」と発言した。文大統領の認識は人権派弁護士ならば理解できるが、大統領のものではない。大統領ならば、安全保障や日米との関係などを総合的に勘案し、国益に基づく国家運営をすべきではないだろうか。
韓国政府は「現在、措置を検討中」と言うだけで、なんら解決案は提示していない。在野からは、「両国政府・企業が基金を創設し、その中から元徴用工に補償する」との案も出ている。だが、日本政府も企業もこの案に乗るべきではない。
当初、韓国政府は日本の反発を甘く見ていたのだろう。文大統領は、こうした「歴史問題と未来志向の日韓関係は切り離して考えるべきだ」と訴えるが、日本側がのめるはずもない。
今後、韓国側が「とりあえず基金を創設し独自に対応する」として、曖昧なまま韓国の国内措置で対応することも考えられる。しかし、韓国メディアの一部は、「元徴用工の苦しみ、悲しみに寄り添うべき」などと相変わらず“反日世論”を鼓舞する論調を繰り返している。これは、世論をバックに圧力をかける韓国従来の外交だが、こうしたやり方で日本の強い反発に応えられるわけがなく、対策が出てくるわけがない。
他方、「アジア太平洋戦争犠牲者韓国遺族会」に属する元徴用工と遺族は、韓国政府に補償金の支払いを求めて提訴し、「韓国政府が請求権協定に対し必要な対策を発表するときがきた」として、韓国政府に日韓合意への過程の提示を求めている。徴用工問題は、日本に圧力をかける域を超え、韓国の国内問題としても無視できなくなってきており、文大統領は苦しい立場に追い込まれている。 いずれにせよ、原告が想定している差し押さえに踏み切れば、日韓関係は決定的に悪化する。そうなれば、日本としては企業保護の立場から、国際司法裁判所や請求権協定で定める仲裁委員会に提訴する可能性が高い。そのほか、経済的な対抗措置も考えられるだろう。そうなった場合、韓国経済は壊滅的な打撃を受けるかもしれない。ただ、それは日本経済にとっても好ましくなく、できれば回避してほしい事態だ。
15年の日韓合意をほごにし慰安婦財団を解散
韓国政府は「慰安婦合意に基づく和解・癒し財団」を解散させ、2015年の日韓合意をほごにする動きを見せている。この合意は日韓双方が譲り合って合意に達したものであり、これは日本としても譲れない“最低線”だ。しかるに文政権は、元慰安婦の7割が受け入れている合意を、自身の支持者である過激派的な団体の意向をくんで合意に反する措置を講じているのだ。7割の元慰安婦の心情を考えれば、慰安婦問題は過去のものとして安らかな老後を送りたいのではないか。しかし、文政権は政治活動家たちに寄り添い、闘争を続けている。
このほか、旭日旗や竹島の問題は、いずれも日本が韓国を植民地にしたという過去を根拠に、日本の右傾化を断固阻止するとの発想から出たものであり、日本が戦後、民主主義国となったという現実をあえて無視するところから生じている。
韓国は、日本に「歴史問題から目をそらすな」と言う。しかし、日本が最貧国に近い状態であった韓国の戦後復興に真摯に協力してきた現実を直視すれば、日本が過去を反省していない、謝罪していないとの思いは少なくなるだろう。それが日韓関係を立て直す最も重要な要素であるはずだ。
そうした中、12月20日、能登半島沖海上で自衛隊の哨戒機に対し、韓国側が射撃に使う火器管制レーダーを照射する事件が発生した。韓国国防部は、「日本の海上哨戒機を追跡する目的で運用した事実はない」と弁明しているが、非を認める姿勢はないのか。これは友好国に対してはあり得ない行為である。今後、韓国との安保協力の面で障害となろう。
2019年3月1日は韓国の独立運動100周年記念だ。独立運動が“新生韓国”の始まりだとする韓国政府は、この日を大々的に祝うだろう。しかも、そうしたイベントを北朝鮮と一緒に盛り上げようとする可能性もある。そうなれば、日本の反発が高まり、日韓関係は一層冷え込む。
こうして見ていくと、日韓関係が改善するきっかけは全く見えないといえそうだ。
雇用主導政策で停滞韓国経済に好転の材料なし
2018年の世界経済は、少なくても夏ごろまでは好調だったが、韓国経済は停滞した。その最大の要因は、文政権が進める「所得主導政策」といわれるもので、過去2年間で最低賃金を29%も引き上げた。さらに来年からは、最低賃金を算出する際の分母に有給休暇も加えるようで、さらに高くなる。このため小規模の飲食業者や商店は廃業に追い込まれており、大企業も韓国での投資を見送って雇用も減少している。
こうした事態の責任を取って、経済担当の副総理と大統領府の政策室長のツートップを交代させたが、後任も所得主導政策を継続すると表明し、財界からは失望の声が上がっている。
他方、経済の行き詰まり打開策検討のため「経済社会労働委員会」を発足させたが、それには文政権の強力な支持層だった、全国民主労働組合総連盟(民主労総)が不参加となった。停滞の打破のためには規制改革と労働改革が避けて通れないが、これに反発してのことといわれている。
来年は、韓国経済にとって最後の砦である半導体の世界需要が落ち込むといわれており、一層難しい経済運営が求められる。しかし、支持層である労組までが反対する規制改革を進めることができるのか、そして所得主導政策に見切りをつけることができるのか。さらには膨張する政府債務によって、これまでのばらまきができなくなったときに国民の不満を抑えることができるのか。
このように見ていくと、韓国経済の前途は多難と言わざるを得ない。
政権が不安定になると大規模な事故が発生
不思議な話だが、韓国では政権が不安定となると大規模な事故が発生する。
例えば、江原道で列車の脱線事故が発生。事故現場で呉泳食社長は、「今回の事故は気温が下がり、線路に問題が生じたのではないか」と述べたが、多くの専門家からは「鉄道についてあまりにも無知である」と批判されている。
この呉社長は、いわゆる386世代の政治活動家であり、就任後の活動としてはストなどで解雇された職員の復職、南北鉄道連結事業といった政治的な活動ばかり。そもそも韓国鉄道公社とその子会社5社の役員に任命された人物の65%が鉄道の専門家ではなく、天下りといわれる。このような人事を続ければ、朴槿恵政権のときと同様、これからも大規模事故対策の不手際が起きる可能性がある。
いずれの要素をとっても、来年は韓国にとって厳しい局面になろう。文政権の支持率が急激に下がったとき朝鮮半島はどうなるのか。目の離せない1年となりそうだ。