政府の観光需要喚起策「全国旅行支援」が11日から始まるのを前に、東北の観光業界が活気づいている。全国で旅行代金の割り引きが受けられる事業は2020年末に停止した「Go To トラベル」以来で、約1年10カ月ぶり。往来復活を商機と見定め、準備に追われる。
往来復活を期待、準備に奔走
「大きな転機だ。団体客が増えてほしい」。仙台市若林区藤塚の複合観光施設「アクアイグニス仙台」を運営する深松努社長(57)は支援策を歓迎する。
東日本大震災の被災地で4月に開業後、訪れる車は宮城や仙台など地元ナンバーが目立つという。
政府はインバウンド(訪日客)に対する水際対策の緩和も同時に実施する。深松さんは「今月、英語版のホームページを開設した」と声を弾ませる。
青森県十和田市の奥入瀬渓流は今月中旬、紅葉の見頃を迎える。奥入瀬渓流温泉街は予約が順調だが、紅葉後の11月以降は空きが目立つという。
旅館組合長で「野の花焼山荘」の女将( おかみ )の堀向直子さん(72)は「新型コロナウイルス禍で苦しい経営状況が続いた。支援策が冬場の集客につながってほしい」と切望する。
「東北から」も活発
東北から他の地域に向かう旅行客の動きも活発。日本旅行東北(仙台市)には9月下旬以降、予約が急増した。10月10日まで実施中の県民割・ブロック割では対象外の東京や千葉を訪れるプランが9割を占める。
同社の東北WEB・メディア販売センターの石川勝幸所長(50)は「感染が怖いという首都圏への警戒感は、既に開放感に変わった」と実感する。
全国旅行支援は宿泊や日帰り旅行について最大8000円を上限に代金の40%を割り引く。買い物に使えるクーポンは平日は3000円、休日1000円。
仙台空港は1日当たりの搭乗客数が休日は約5000人だが、平日は約3000人。仙台国際空港の岡﨑克彦取締役航空営業部長(62)は「支援策のクーポンは平日の方が恩恵が大きく、搭乗客の増加につながってほしい」と望んだ。
アイベックスエアラインズ(東京)によると、今月の仙台空港を含む全発着便の予約率は6割。事業推進課の井戸宏和課長(46)は「支援策によって旅行の機運が高まることを期待している」と話す。
全国旅行支援はGoToと異なり、都道府県ごとにクーポンの受け渡し場所などのルールを決められるため、一部地域で準備が遅れ、旅行業界からは混乱を懸念する声も上がっている。