4月4日にオープンした東京・新宿駅南口の高速バスターミナル「バスタ新宿」のニュースを見ながら、「ここまで騒がなくても良いのに」と思った人がいるかもしれない。しかし、高速バスの世界で見れば凄いことなのだ。

日本最大級の高速バスターミナル「バスタ新宿」――。ピーク時には最大で1日1625便をさばくという。これは、東京駅からの東海道新幹線の出発本数が1日約300本、東北・上越・北陸新幹線を含めても約450本という現実を踏まえれば、驚異的な数字だ。

確かに地方に目を移せば、バスターミナルを持つ都市は数多く存在する。そのうち従来日本最大級と言われてきた、福岡市にある「西鉄天神高速バスターミナル」は、西日本鉄道によれば1日約1600台が発着しているというから、バスタ新宿は飛び抜けた存在ではない。

「バスタ新宿」が注目されるワケ

「バスタ新宿」の外観。JR新宿駅上の人工地盤上に位置する

ではなぜバスタ新宿が注目されるのか。TVメディアの東京偏重の報道姿勢も影響しているが、東京にここまで巨大なバスターミナルが存在しなかったことも大きいだろう。

鉄道があまり発達していない地方都市では、バスは重要な移動手段であり、バスターミナルは交通の核になる。東京は四方に新幹線が伸び、JR在来線、私鉄、地下鉄などが担う近郊輸送も充実している。ゆえにバスターミナルはあまり重視されなかったのかもしれない。

し かし近年、外国人観光客の増加も手伝い、安価な移動手段として高速バスが注目を集めるようになってきた。その陰で悲惨な大事故もいくつか発生しているが、 安全性が確保できるなら、バスは移動の選択肢のひとつとして欠かせない。そして利用者のことを考えれば、ターミナル駅のように多くのバスを1か所に集中さ せたほうが良い。

東京が高速バスの重要性にやっと目覚めた。これがバスタ新宿誕生の理由のひとつではないかと考えている。

上から見たバスタ新宿のロータリー。バスは斜めに停車する

すでに報じられているとおり、バスタ新宿はJR新宿駅のホーム上にある。 1階がホーム、2階には鉄道の改札口や自由通路が入り、3階がバスの降車場、コミュニティバス「新宿WEバス」やタクシーの乗車口、インフォメーションセ ンター。そして4階にバスの発券カウンター、待合室、乗り場がある。

バスは目の前を走る甲州街道(国道20号線)から、新設された信号の ある交差点を曲がって建物内に入り、3階で乗客を降ろしたあと4階に登ってくる。12か所の乗り場があるロータリーには屋根がなく、バスは斜めに停車する ので、排気ガスの影響は最小限であり、スペースにはかなり余裕がある。

待合室は混み合い、床に座る外国人利用者も

そ れに比べると、東側に位置する発券カウンターや待合室のスペースには限りがある。筆者は平日の昼頃という、それほど混まない時間帯に訪れたが、入った途 端、室温の違いを体感したほどだった。ベンチはすべて埋まっており、一部の外国人は床に座って待っていた。2階や3階には「観鉄」もできるデッキがある が、4階には残念ながらない。

バスは鉄道より遅れが出やすい。この日も例外ではなかった。鉄道以上に弾力的な対応が求められる。発券カウ ンターと待合室を別にしたり、スペースに余裕を持たせたりしても良かったのではないだろうか。空港のように天井を高くすれば、室温を下げ、心理的な閉塞感 を減らすこともできる。

もうひとつ気になったのは、乗り場の分け方が、空港、東名、中央道、関越道、関西・北陸となっていたことだ。外国 人はもちろん、国内の観光客でも、中央道や関越道がどの都市を走っているか、熟知している人は多くないだろう。日本地図で区分を伝えたほうが分かりやすい のではないかと思った。

すべての交通が1か所に集約

3階にはタクシー乗り場がある

もちろん歓迎すべき点もある。なによりも、鉄道、バス、タクシーのターミナルをまとめ、交通結節点としたことは評価したい。

これまで多くのターミナルは、鉄道、バス、タクシーにそれぞれ別の場所を与えていた。運営側から見ればそのほうが管理しやすい。しかし利用者から見れば、すべての交通を1か所に集めた方が望ましい。バスタ新宿は利用者目線を考慮した施設だと感じた。

こうした考え方は、ヨーロッパではいくつも先例がある。最近は我が国でも、新幹線駅の下に路面電車の停留場を配置した富山駅など、導入例が増えている。バスタ新宿の場合、そこにタクシーも取り込んだことが新鮮だ。

しかも新宿駅南口の場合、従来はタクシー乗り場が甲州街道の路肩にあり、乗車待ちのタクシーが伸びて車線を占領し、渋滞を引き起こすことが何度もあった。筆者は新宿に近い初台に事務所を構えており、都心方面から自動車で戻る際に、幾度となくこの渋滞にはまった。

タクシー乗り場がバスタ新宿に移転したことで甲州街道の渋滞が解消され、自動車利用者にもメリットをもたらした

初日から大勢の利用者で賑わったバスタ新宿

ところがバスタ新宿開業後、歩道橋から甲州街道を眺めると、同じ場所とは思えないほど空いていた。バスタ新宿の開業は、新宿を自動車で通過する人にもメリットをもたらしていた。

単にバスターミナルを作るだけでなく、それを駅の真上に置き、タクシー乗り場も中に取り込むことで交通結節点としての機能を持たせ、周辺の道路の円滑な通行まで実現している。モビリティ(移動性)全体を見据えた施設というところに好感が持てる。

そ れにしても驚いたのは、すでに溢れるほどの人々がバスタ新宿を利用していたことである。これまで新宿の各所に散り散りになっていたバス利用者が1か所に集 結すると、これだけのボリュームになるということなのだろう。ただし取材日に限れば、運行面には大きな問題はなかった。

東京の人の流れを変える可能性も

この勢いが続くと、東京の人の流れを変えるほどのターミナルに成長するかもしれない。その理由は、羽田・成田の両空港からのリムジンバスや成田エクスプレスがここに到着し、フロアを移動するだけで他のバスや鉄道に乗り換えられるという利便性の高さにある。

2階のデッキからは真下を走るJR各線の電車も見える

こ れまで東京駅や品川駅などに向かっていた空港利用者が、バスタ新宿の使い勝手の良さを知って、新宿に押し寄せる可能性がある。特に羽田は、昨年春の首都高 速道路山手トンネル全通によって、リムジンバスを使っての新宿までの所要時間が大幅に短縮されていることも後押しになる。

新宿からは、松本や日光、箱根などへ向かう特急列車も出ているが、バスタという名前も手伝って、バスを選択する人が増えるのではないだろうか。さらに東京駅や品川駅から新幹線での移動を考えていた人が、バスに乗り換える可能性もある。

タクシーやWEバスに乗れば、近隣のホテルへも楽に行ける。よって宿泊客の増加も予想される。新宿駅東口と西口の周辺を巡回するWEバスは、これまでは知る人ぞ知る存在だったが、バスタ新宿乗り入れで知名度が上がるかもしれない。

バ スタ新宿は、高速バスから高速バスへの乗り換えという、これまでの東京ではあまり考えられなかった利用を容易にした。場所を提供したJR東日本にとって、 バス人気が高まることは複雑かもしれないが、鉄道やタクシーを含めた交通結節点としての成功を収めることは、モビリティ全体の大きな枠組みで考えると、と ても価値のある取り組みである。