エアコンや洗濯機などの家電を買いそろえたのは何年前だろうか。10年以上たっているなら要注意だ。調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏は「使い続ける美徳は悪くないが、事実を言えば、古い家電を使い続けるのはもったいない」と指摘する――。
※本稿は、坂口孝則『日本人の給料はなぜこんなに安いのか 生活の中にある「コスト」と「リターン」の経済学』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■水道代を考えると「5年以内に元が取れる」
ところで私の母親は、なかなかモノを買い替えません。「使い続ける美徳」をもっているようです。もちろんそれは悪いことではありません。
しかし、母はいまでも古い洗濯機を使っています。
「買い替えたら?」と私。
「消費税も上がったし、いつまで生きるかわからないから大丈夫」
「確率論で言えば寿命はまだまだ先だよ。買って送ってあげようか」
「まだこの洗濯機は使えるし、もったいないから大丈夫」
と、納得してくれません。
しかし事実を言えば、古い家電を使い続けることのほうがもったいないのです。
たとえば洗濯機は各メーカーの企業努力の末、節水機能が飛躍的に向上しました。旧式から最新型全自動に買い替えたところ、水道代が毎月2000円も安くなった、という話もあるほどです。そうなると年間2万4000円もランニングコストを削減できる計算になります。洗濯機の価格が10万円だとしても、水道代を考えれば5年以内に元が取れます。
■環境省の電気代比較サイトが使える
エアコンにも同じことが言えます。私が幼い頃、エアコンをつけようとすると「電気代がもったいないから、もうちょっと我慢しよう」と父親によく言われました。しかし、いまのエアコンは消費電力量が圧倒的に減り、電気代も安く抑えられています。猛暑や厳冬で体調を崩し、仕事を休んだり病院に行ったりするコストを考えたら、エアコンをつけるコストのほうがはるかに安いのです。
旧式のエアコンを使い続けている場合、最新型に買い替えただけで、年間1万円程度、電気代が安くなることもあります。エアコンの場合も、購入コストは5~10年で元が取れる可能性があるわけです。
「しんきゅうさん」という環境省が公開している電気代等の比較サイトがあります。ここに各メーカーの具体的な型式を入力すれば、年間どれくらいの電気代がかかるのかがわかります。対象は「冷蔵庫」「エアコン」「テレビ」「温水洗浄便座」「照明・器具・LED照明」です。
■ものを買う時は「トータルコスト」で考える
家電量販店に行くときは、このURLをスマートフォンに入れてください。家にある家電の型番と、気になる新製品の型番を入力するだけで、どれくらいランニングコストが変わるかが具体的にわかります。
現在、家電メーカーは利益減少の中、環境に配慮した性能向上のための研究開発に力を注いでいます。それによって節電、節水機能は飛躍的な進歩を遂げました。
買い替えは消費者としてトクをするのはもちろん、買い替えによって家電メーカーの利益も増えます。利益が上がったメーカーでは、さらに研究が進み、10年後にはもっと優れた製品が開発されるかもしれません。消費活動がさかんになれば景気回復の助けにもなるでしょう。まさに一挙両得以上のトクと言えます。ですから古い家電を使い続けている人には、私は新製品への買い替えをおすすめします。
ここで私がなにを言いたいかというと、商品を購入する際は、モノの値段のみならずモノに付随するリターンを含めた「トータルコスト」で考える必要がある、ということです。
「長期的に見てほんとうに安いのか」を購入価格という「点」で考えるのではなく、トータルコストという大きな「面」で考えることが重要なのです。(図表1)
■「理屈はわかっているけど」に甘えない
ここに「A」という商品と、「B」という商品があるとします。
Aを買うためには最初に100万円が必要です。でも毎年の維持コストはかかりません。
一方、Bの価格は10万円。ただし、毎年10万円の維持費用が必要です。
この商品Aと商品Bを10年使うとすれば、トータルコストは次のようになります。【商品Aのトータルコスト】
100万円+0円(年)×10年=100万円
【商品Bのトータルコスト】
10万円+10万円(年)×10年=110万円
つまり「商品A」を買ったほうが結果的に安くなるというわけです。(図表2)
ただこの方法を実行するには、少し勇気が必要かもしれませんね。理屈ではわかっていても、人によっては10年間かけて10万円トクをするよりも、いま100万円を支払うことに大きな「痛み」を感じることがあるからです。
「たしかに商品Aのほうがトータルでは安いかもしれない、けれどいま安いほうがいい」と、商品Bを選択してしまう……。まさに「理屈はわかっているけど」という状態です。でもモノの値段の損得をジャッジしたいなら、クールな視点をもつことです。
■「売るときの価格」も考える
そしてもう一つ、重要な視点があります。
これについては新たな例で見ていきましょう。
ガソリン車とハイブリッド車を比べるとします。
一般的な普通ガソリン車が150万円、ハイブリッド車が170万円。ハイブリッド車は優遇税制が使えるので、定価より安く手に入るものとします。それでもガソリン車との差は20万円。かなり大きな金額です。しかしこの先ガソリンは高騰する可能性があり、ランニングコストを考えるとハイブリッド車を選んだ方が最終的なリターンが大きいかもしれません。そんな可能性があるときは、次のように考えます。トータルコスト=購入代金+月々のガソリン代等-売却価格
今回、新たに考えに入れたいのがこの「売却価格」です。コスト計算をするとき売却価格も加味すると、トータルコストの計算はより正確に行えます。車の売却価格は乗車年数やトレンドのみならず、車体のカラーによっても左右されます。ピンクの車は欲しい人が限られるので高くは売れにくい一方、黒や白の車はピンクの車に比べて売れやすい。ですから黒や白の車は売却価格が高くなります。
そこでそこまでこだわりがなく、いつかは買い替える可能性がある買い物をするときは、売却価格が高いものを選んで買う選択をするのも一つの手だと思います。このようにモノの購入は「出口から考える」こともトータルコストを考えるとき重要です。
■トータルコストを左右した「給油」
ただ、ここではひとまず、どちらも5年間乗り、購入価格の5分の1で売却、ハイブリッド車の燃費はガソリン車の倍、給油頻度はガソリン車が月1回、ハイブリッド車がその半分。給油価格は1回5000円と設定します。この仮定で計算すると、【ガソリン車のトータルコスト】
150万円+5000円×1回(月)×60カ月-150万円×20%=150万円+30万円-30万円=150万円
【ハイブリッド車のトータルコスト】
170万円+5000円×0,5回(月)×60カ月-170万円×20%=170万円+15万円-34万円=151万円
結果、ランニングコストで優位に思えたはずのハイブリッド車は、それほどおトクでないことがわかります。購入価格はハイブリッド車のほうが余計にかかっていますが、トータルコストを左右したのは「給油」です。
つまり車を通勤等で毎日使い、給油回数が多い人ならハイブリッド車のリターンのほうが高く、月に数回、買い物やレジャーに使うだけで、給油が月1回程度ならガソリン車のほうがトクをするということです(これはあくまでも例なので、ハイブリッド車がダメなわけではありません)。
「AとB、どちらを買えばトクだろうか」と迷ったときは以上を参考に、・購入価格(初期コスト)
・付帯費用(ランニングコスト)
・売却価格(出口価格)
この3つを計算してください。あくまで仮定ですから、正確な数字でなくてもかまいません。およその検討をつけるだけで結構です。ただ、かかる「コスト」を冷静にジャッジするとともに「出口」(売却)から考える視点をもつことが大切であることは理解してください。
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坂口 孝則(さかぐち・たかのり)
調達・購買コンサルタント
未来調達研究所株式会社取締役。講演家。2001年、大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買、資材部門に従業。2012年、未来調達研究所株式会社取締役就任。製造業を中心としたコンサルティングを行う。『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『1円家電のカラクリ0円iPhoneの正体』(すべて幻冬舎新書)、『仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。』(幻冬舎)など著書多数。