「論破王」ひろゆきは、なぜいつも鋭い質問ができるのか

2ちゃんねる創業者のひろゆき氏は「論破王」と呼ばれている。なぜ鋭い質問ができるのか。話し方トレーナーの桐生稔氏は「鋭いコメントをする人は、『○○ですよね、そこで質問なんですが』と、前提をロックしてから本題に入る。ひろゆきさんは、その達人だ」という――。

※本稿は、桐生稔『「30秒で伝える」全技術 「端的に話す」を完璧にマスターする会話の思考法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Marcin Wisnios

■不毛なやり取りがなくならない理由

仕事をしていて、こんな不毛なやりとりが続くケースに遭遇したことはありませんか?

【上司】「もっとがんばれよ」

【部下】「がんばってますよ」

【上司】「いや、もっとやれるだろう!」

【部下】「いや、やってますって!」

という会話。延々と平行線をたどるケースですね。または、

【上司】「あのお客様は契約いただけるだろう?」

【部下】「恐らく無理です。まったく興味なさそうです……」

【上司】「だって、お客様の方からお問合せがあったんでしょ?」

【部下】「お問合せされただけみたいです」

【上司】「何も興味なくてお問合せされないだろう!」

【部下】「でも、まったく興味がなかったんです!」

も同じような会話です。なぜこういったことが起きるでしょうか。

それは、お互いの前提が噛み合っていないからです。上司の「がんばる」と、部下の「がんばる」が一致していないときに起こります。

■「がんばる」の前提を上司と部下で揃えておく

上司の「がんばる」は、「1日5件お客様を訪問すること」かもしれません。しかし、部下の「がんばる」は、「1日2件」かもしれません。2つ目の例では上司は、「お問合せがあったお客様は80%契約が取れる」という過去のデータを参照して、「契約は取れるだろう?」と言っているのかもしれません。部下は、それをまったく知らないかもしれません。

桐生稔『「30秒で伝える」全技術 「端的に話す」を完璧にマスターする会話の思考法』(KADOKAWA)

報道番組でゲスト同士が議論するケースがあります。先日もある番組で、「日本の公務員の人数が足りないのでは?」ということが議論のテーマになっていました。

あるゲストは、「日本は公務員が足りない。先進国で比較すると圧倒的に少ない」と言い、あるゲストは「公務員は多い。ちゃんとマネジメントすれば少なくて済む」と言いました。

しかし、大事なポイントは、「そもそも公務員の適正数は何名なのか?」ということだと思います。

まず、「私は日本を運営するにあたり、公務員は○名が適正だと考えてます」という前提があって、それに対して、少ないor多いという論陣を張るべきだと思います。

その前提が全員と一致するかどうかは別として、前提がないと、感覚的な話で「多い」「少ない」と、終始平行線をたどることになります。

報道番組は、その場で結論を出すことが目的ではないので問題ないと思いますが、社内ではそうはいきません。その場で何かしら結論を出さなくてはなりません。

上司が言うように「もっとがんばるのか?」、部下が言うように「これ以上はがんばれないのか?」を決めないと物事が進みません。そのためには、「がんばる」の前提を上司と部下で揃えておく必要があります。

■話の前提を揃える2ステップ

日本人に「ハードワーク」と言うと、相当長い時間働いているというイメージをいだくようです。1日14~15時間働いているような印象を受けます。

しかし、アメリカ人に、「ハードワーク」と言うと、密度のことをイメージすると言います。ハードワークなアメリカ人に、「1日何時間働いているの?」と聞くと、「え、8時間に決まってるじゃん」と答えるそうです。ハードワークの前提が一致していないと、会話をしていても噛み合いません。

・まずは、前提を合わせること
・そして、建設的に議論を進めていくこと

これが要らぬストレスを抱えない有効策です。ここからは、前提を揃える具体的な方法を述べます。やり方は簡単で、

(1)アバウトなものを書き出す
(2)前提を決める

たったの2ステップです。順に見ていきましょう。

■「がんばる」の定義を数字で決める

【ステップ(1):アバウトなものを書き出す】

普段、何気なく使っている言葉で、アバウトなものはありませんか。例えば、

・「もっとがんばれ」
・「お客様とは順調?」
・「今月の予算大丈夫?」
・「仕事、進んでる?」
・「早めによろしく」

こういったアバウトなワードをまずは書き出してみてください。そして、次のステップにいきましょう。

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Chalirmpoj Pimpisarn

【ステップ(2):前提を決める】

もし、「もっとがんばれ」の前提を決めるなら、「がんばる」=1日50件テレアポをすること、とすることができます。この前提をアポイント数にするか、契約数にするか、そこはすり合わせが必要ですが、この前提を上司と部下で共有しておくだけで、「もっとがんばれ」「いや、がんばってますよ」の負の会話がなくなります。

また、「お客様とは順調?」の前提を決めるなら、「順調」=来月も継続的にご契約いただける状態

とするのがいいかもしれません。これも、「順調とはクレームをいただいていないこと」「追加で発注いただけること」など、色んな前提が考えられますが、まずは前提を互いにロックすることが肝心です。

続いて、「今月の予算大丈夫?」では、「大丈夫」=予算達成率100%の見込み

ではどうでしょうか。なかには、「予算達成率120%」を前提にされる方もいるかもしれません。その場合は、大丈夫=120%という前提にしておくとよいでしょう。

■「早めによろしく」の「早め」をすり合わせる

よくある仕事場での会話として「仕事、進んでる?」もありますね。「進んでる」=納期通りに着地予定

「進んでる」を、ただ進めているだけなのか、納期通りに着地できそうなのか、その前提によっては、返答内容も変わってきます。

これは特に上司や先輩から言われることが多いかと思いますが、「早めによろしく」は、「早め」=今日中

「早め」は今日中なのか、明日までなのか、2~3日以内なのか、前提が揃っていれば揉め事はなくなります。もし「早めといえば今日中」という前提が部署内や上司部下の間ですでにあれば、

【上司】「早めによろしく」

【部下】「わかりました。今日中に仕上げます」

と、スムーズなやりとりになります。もし、今日中が難しければ、

【部下】「早めですか。今日は終日ミーティングが入っているので、明日まででもよろしいでしょうか?」

と言うこともできます。前提の中身自体は色々あると思いますが、前提が揃っているだけで、相互理解が深まり、無駄なやりとりが格段に減ります。

■2ちゃんねる創業者のひろゆきさんは「論破王」

この方法の達人として、「論破王」で有名な2ちゃんねるの創業者、ひろゆきさんがいらっしゃいます。以前、東京都知事選で山本太郎さんが敗れた後の記者会見で、ひろゆきさんが山本太郎さんに質問する場面がありました。

「国会議員1人じゃ国が変わらないことはわかったわけじゃないですか」「知事だったら絶大な権限を持っているということもわかったじゃないですか」「だったら4年後の知事選を目指すべきではないですか?」と、前の2つの質問で前提をロックして、それから一番聞きたい質問を最後にしたのです。

この流れだと、「そうですね」と言ってしまいそうになります(実際、山本太郎さんは「今の時点では、4年後、誰が立つのかわからない」と答えられました)。これも前提を揃えてから本題に入るケースです。

ここまで前提をロックできれば、もうマスタークラスですが、鋭いコメントをする方は、「○○ですよね、そこで質問なんですが」と、前提をロックしてから本題に入ることが多いのです。

■「どんなイメージを持ってますか?」のひと言でいい

実際にやってみると、ステップ(1)がそこまで多くないことに気づくと思います。前提を決めておかなければいけないものは、揉めそうなことなので、そう考えると、せいぜい2~3個です。

しかし、その2~3個を決めておかないせいで、上司と部下の間で不毛な議論が起こり、長い説明が必要になったり、お互いに嫌な気持ちになったりすることが少なくありません。

まず、事前に前提を決めておくこと。もし、議論が錯綜し始めたら、「私の前提は○○と考えているのですが」と、すり合わせを行うことが大切です。いきなり、部下が上司に、「私の前提は~」、なんて言ったら生意気だと思われるかもしれませんので、「ちなみにこの件に関してはどういった前提を持たれてますか?」とヒアリングするのもよいでしょう。

「どういった前提?」と聞きづらいようであれば、「どういったイメージをお持ちでしょうか?」と聞くのもありだと思います。

逆に、上司は、予め部下に前提を伝えておくことをおススメします。議論が錯綜し始めた後に前提を揃えようとすると、「だったら先に言ってくださいよ」と険悪なムードになるかもしれません。

前提が合致するだけで、上司も部下も、相当ストレスが軽減されるはずです。

「あれ、噛み合わない」と思ったら、結論を急がず、まずは前提を揃えることから始めていきましょう。

【まとめ】
1 アバウトなものを特定し、前提を決める
2 議論が錯綜し始めたら、結論よりもまず前提をすり合わせる

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桐生 稔(きりゅう・みのる)
モチベーション&コミュニケーション代表取締役
1978年生まれ。新潟県出身。2017年、「伝わる話し方」を教育する株式会社モチベーション&コミュニケーションを設立。日本能力開発推進協会メンタル心理カウンセラー、日本能力開発推進協会上級心理カウンセラー、一般社団法人日本声診断協会音声心理士。著書に『10秒でズバッと伝わる話し方』(扶桑社)、『雑談の一流、二流、三流』(明日香出版)がある。

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