■サブスクリプションモデルの進化

■サブスクリプションモデルの進化

利用者に月々など一定期間、料金を支払ってもらい、継続的にサービスを提供するビジネスモデルを「サブスクリプション」モデルと言います。動画配信サービスのネットフリックスなどが有名ですが、デジタルの世界だけにとどまりません。トヨタ自動車が2019年から自動車のサブスクリプションサービス開始を発表するなど、リアルな世界でも増えつつあります。なぜでしょうか。

実は、サブスクリプションモデルは以前から存在していました。その目的によって、「会費型」と「定額プラン型」の2種類に分けることができます。会費型の代表例はフィットネスクラブ(スクール方式)です。利用するたびに課金するのではなく、1カ月間利用し放題にすることで利便性とお得感(サービスを最大利用できるという感覚)を訴求します。一方、定額プラン型の代表例は携帯電話のデータ利用料金(バイキング方式)です。料金を一定にすることで、利用した分だけ支払う従量課金への不安を払拭します。これらのサブスクリプションサービスは、定額にすることで需要を喚起する、価格戦略として採用されてきました。

それに対して、昨今新たに登場しているサブスクリプションは、価格戦略に加えて、00年代以降の産業構造の変化に対応して登場した進化系モデルと言えます。その変化とは、「クラウド」「LTV(ライフタイムバリュー=顧客生涯価値)」「コネクティド(IoT)」「使用経済」の4つです。それぞれに対応したサブスクリプションモデルについて、事例を交えて説明しましょう。

1番目は、クラウドの登場によって実現した、動画配信や音楽配信などのストリーミングサービスです。映画や音楽などのコンテンツは、個別に購入すると費用が高くなります。しかし、別のことをしながら聞いたり、流しっぱなしにするニーズがあり、定額制の魅力は映画や音楽好きにはとても大きなものがあります。しかし、DVDやCDからの移行モデル(ダウンロード)では、定額にすることができませんでした。クラウドの発達が供給コストを下げたことで初めて、定額化が可能になりました。サブスクリプションモデルは、コンテンツサービスの需要拡大につながり、ダウンロードモデルより競争上優位になりつつあります。

■ソフトだけでなく、ハードでも展開

2番目は、00年代から始まったLTV指向です。1回限りの販売ではなく、顧客に継続利用してもらうことで利益を上げる考え方で、特にダイレクトセールスに影響を与えています。

写真=iStock.com/metamorworks

成功例として知られるのが「ネスカフェ アンバサダー」です。コーヒーマシンを職場に無料でレンタルし、職場の代表者(ボランティア)を通じて、コーヒー粉を原則毎月購入してもらうサービスです。12年のスタート以来、職場のコミュニケーション活性化にもつながることが評価され、アンバサダー申込件数は40万件以上(18年11月現在)、飲まれているネスカフェは年間10億杯を超えます。

17年6月にスタートした「キリンホームタップ」は、家庭にビールサーバーを貸し出し、工場直送の本格的な生ビールを月額6900円(税別)から提供するサービスです。現在は新規会員募集を停止していますが、申し込みが集まりすぎてサーバーが供給できない状況のようです。

いずれも顧客に機器を無料で貸し出し、毎月定額で利用し続けてもらうことで、初期投資分を回収して利益を上げる、LTV指向のサブスクリプションと言えます。

3番目はコネクティド(IoT)、つまり、常時あるいは定期的にネットワークに接続することによって、利便性を高めるサブスクリプションです。ネットワーク接続によって、顧客ごとに最適なサービスを提供するパーソナライゼーションを実現します。そのためには、1度限りのサービスよりも、サービスを継続できるサブスクリプションが適しています。

17年3月にスタートした「ネスレ ウェルネス アンバサダー」は、専用マシンを無料でレンタルし、「ウェルネス抹茶」などのドリンクを定期購入してもらうサービスです。基本的な仕組みはネスカフェ アンバサダーと同じですが、大きく異なるのが、専用の診断サイトとアプリで、各利用者の食生活や生活習慣をチェックし、個別に必要な栄養素をアドバイスするところです。利用者は、そのアドバイスに沿ったウェルネス商品を飲むことで、足りない栄養素を効率的に摂取できるようになっています。

18年3月にスタートした資生堂の「Optune(オプチューン)」は、一人ひとりの肌に適したスキンケアを選んで提供するIoTスキンケアシステムです。専用アプリによる肌測定と、気候や気分・コンディションなどのデータをクラウド上で分析し、スキンケアパターンのデータを家庭に設置した専用マシンに送信します。マシンには5本のカートリッジが内蔵されており、配信されたデータに基づき、その時々の肌の状態に合わせたリキッドが抽出されて提供されるサービスです。まだβ版であり、成功するかどうか現時点ではわかりませんが、最新型のパーソナライゼーション型サブスクリプションと言えるでしょう。

■所有から使用への流れで、借り放題ビジネスに勢い

4番目は、「所有から使用へ」の流れに合わせて登場したシェアサービスです。以前から、レンタカーのようなサービスは存在しますが、それは使用するたびに支払う従量料金モデルでした。最近では、所有欲の衰えというトレンドに対応して、定額で借り放題とするサービスが登場してきています。

成功例の1つが、ブランドバッグ定額レンタルサービスの「Laxus(ラクサス)」です。57ブランド3万個以上(18年11月時点)のバッグがそろい、月額6800円(税別)で使い放題で利用できます。使い放題とはいえ、借りられるのは1点で、返却しなければ次のバッグを借りることはできません。現実には1カ月間同じバッグを借りっぱなしというケースも少なくないようです。このように、もののシェアサービスでは、使い放題をうたうことで顧客の利用意欲を刺激しますが、実際にはそれほど頻繁に商品交換が行われることはないようです。そのギャップがコスト回収をしやすくしていると言えます。

ラクサスでは、継続率を最も重要なKPI(重要業績評価指標)に設定しています。有料会員は1万8000人以上(18年9月時点)で、平均継続率は約95%だということです。

トヨタに先立ち、16年8月から自動車の月額定額サービスを展開しているのが「NOREL(ノレル)」です。軽自動車からスポーツカーまで選択でき、使用目的に合わせて乗り換えることができます。また、自動車保険、税金、車検などのランニングコストがかからないというメリットもあります。自動車は、以前は所有したいという欲求を持つ人が多くいましたが、昨今は所有することを面倒だと感じたり、場面に応じていろいろな種類の自動車を使いたいという人が増えています。こうした「使用経済」のトレンドに乗って成立したビジネスモデルと言えます。

これまで見てきたように、サブスクリプションモデルが昨今増えているのは、クラウド、LTV指向、コネクティド、使用経済へと産業構造が変化していくのに対応して、新たなサブスクリプションモデルが可能になったからです。これらの新しいモデルは、顧客の購買意欲を刺激すると同時に、技術革新が供給コストを回収しやすくしたために実現したものであり、今後も増えていくと考えられます。

———-根来龍之(ねごろ・たつゆき)
早稲田大学ビジネススクール教授
京都大学文学部哲学科卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。鉄鋼メーカー、英ハル大学客員研究員、文教大学などを経て、2001年から現職。専門は競争戦略、ビジネスモデル、デジタル戦略など。著書に『プラットフォームの教科書』など。

———-

(早稲田大学ビジネススクール教授 根来 龍之 構成=増田忠英)

タイトルとURLをコピーしました