■日本は「世界第3位の経済大国」では無い。

日本は世界第3位の経済大国で、他国よりこんなに賃金や物価が低いのはおかしいと思う人も居るかもしれない。しかしこれは国としての数字であり、一人当たりで考えると全く違う世界が見える。

日本はGDPで中国に追い抜かれたが、中国を日本より豊かな国だと思う人はあまりいないだろう。人口を考慮すれば一人あたりの所得水準は日本よりかなり低いからだ。ではそれと同じように各国の一人あたりのGDPを日本と比較するとどうなるか(2014年、187か国)。

世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング

1位   ルクセンブルク 111,716.27 ヨーロッパ
2位   ノルウェー 97,013.26 ヨーロッパ
3位   カタール 93,965.18 中東
4位   スイス 87,475.46 ヨーロッパ
5位   オーストラリア 61,219.16 オセアニア
6位   デンマーク 60,563.62 +1 ヨーロッパ
7位   スウェーデン 58,491.47 -1 ヨーロッパ
8位   サンマリノ 56,820.02 ヨーロッパ
9位   シンガポール 56,319.34 アジア
10位   アメリカ 54,596.65 北米
11位   アイルランド 53,461.97 +2 ヨーロッパ
12位   オランダ 51,372.96 ヨーロッパ
13位   オーストリア 51,306.67 +1 ヨーロッパ
14位   アイスランド 51,261.88 +2 ヨーロッパ
15位   カナダ 50,397.86 -4 北米
16位   フィンランド 49,496.72 -1 ヨーロッパ
17位   ベルギー 47,721.59 ヨーロッパ
18位   ドイツ 47,589.97 ヨーロッパ
19位   イギリス 45,653.41 +3 ヨーロッパ
20位   フランス 44,538.15 +1 ヨーロッパ
21位   ニュージーランド 43,837.29 +2 オセアニア
22位   アラブ首長国連邦 43,179.78 -2 中東
23位   クウェート 43,103.34 -4 中東
24位   香港 39,871.10 +2 アジア
25位   イスラエル 36,990.98 +2 中東
26位   ブルネイ 36,606.83 -2 アジア
27位   日本 36,331.74 -2 アジア
28位   イタリア 35,823.22 ヨーロッパ
29位   スペイン 30,278.35 ヨーロッパ
30位   バーレーン 28,271.75 中東
31位   韓国 28,100.72 +1 アジア
32位   キプロス 26,115.46 -1 ヨーロッパ
33位   マルタ 24,876.20 +1 ヨーロッパ
34位   サウジアラビア 24,454.02 -1 中東
35位   バハマ 24,034.19 中南米
36位   スロベニア 24,019.25 ヨーロッパ
37位   台湾 22,597.73 +1 アジア
38位   ポルトガル 22,130.49 +1 ヨーロッパ
39位   ギリシャ 21,653.08 -2 ヨーロッパ
40位   トリニダード・トバゴ 21,310.83 +2 中南米
41位   エストニア 19,670.85 +3 ヨーロッパ
42位   チェコ 19,563.33 +1 ヨーロッパ
43位   オマーン 19,001.81 -3 中東
44位   スロバキア 18,454.04 +1 ヨーロッパ
45位   赤道ギニア 18,389.43 -4 アフリカ
46位   リトアニア 16,385.85 +1 ヨーロッパ
47位   ウルグアイ 16,198.55 -1 中南米
48位   ラトビア 15,728.79 +3 ヨーロッパ
49位   バルバドス 15,578.86 中南米
50位   パラオ 15,209.99 +4 オセアニア

 

北欧やスイスは日本と比較して2倍から3倍と際立って高い。他の欧米諸国も日本より何割も高い数字が並んでいる。

日本より上位には多くの先進国と一部の産油国がランクインしている。しかも28位にイタリア、29位にはスペインと、欧州危機の引き金になると言われるほ ど経済が悪化していた国(PIGS)が肉薄している。為替水準の変動や今後の景気動向次第で、両国に追い抜かれても全くおかしくない。

■日本は貧乏な国になりつつある。
そしてなにより日本の27位という数字に驚いている人も居るかもしれないが、これが実態という事だ。なんで他の国は時給1500円を実現出来ているのに日本には出来ないのか?と問われるなら、「日本が他の国より貧乏だから」というほかない。

つけくわえれば新興国の成長により相対的な豊かさも低下している。この点について最近は多少落ち着いたものの、長期的なエネルギー・食料品・資源価格の高騰などを見ても分かる。自国が横ばいでも他国が成長すればそれは衰退と同じだ。

日本人の所得は名目で下がり続けているが、これはデフレが原因ではない。国として貧乏になりつつあり、所得が下がって購買力は落ち、結果としてデフレに なっていると考える方が正しい。名目所得は過去20年でアメリカは7割、欧州でも4割上がっているが、日本は1割も下がっている(日本総研 政策観測 No.33 2012/02/27)。

しかも現在の水準は毎年膨れ上がる莫大な借金と極端な金融緩和で下支え・水増しされている事も考慮すれば、身の丈に合った所得水準・生活水準はもっと低いと考える方が自然だ。

■時給900円で1500円分の仕事をやらされている?
給料を上げろというデモが起きた背景に、仕事と賃金のバランスが崩れてきたことがあげられるだろう。年々増加する非正規雇用者の割合を考えれば、社員が担っていた業務をアルバイトが行う事もすでに珍しい事ではない。

同一労働・同一賃金が実現していない日本で、非正規雇用者の増加とはつまり賃金の低下だ。なぜこんな事が起きるのか。それは経済がほとんど成長していない のに年金・医療など社会保障費の支出が毎年増え続けているからだ。帳尻を合わせるには誰かがワリを食う以外にやりくりする方法は無い。

過去に景気が好調な時でも「景気回復を実感できない」と繰り返し言われてきたが、それもなんらおかしい事ではない。1%や2%程度の成長では現状維持がやっと、というほど日本は高コスト体質になっている。これらのひずみが若者と非正規雇用者に集中している。

仕事がきつくなっているのに賃金が増えなければ実質的な所得の低下ともいえるが、それも株主や経営者が搾取しているせいではなく、国全体が高コストで貧乏 になっている事が強く影響している。同じ仕事内容でも発展途上国なら時給で1ドル、日本なら10ドル、北欧なら20ドルという事はあるだろう。この賃金格 差は経済格差、豊かさの格差としか言いようがない。

経営者の報酬をゼロにしてもアルバイトの時給は1%も増やせない。「マクドナルドの原価を調べて見た」でも書いた通り、現在のマックは店舗の人件費が1割増えただけで粗利が消える。株主への還元を辞めれば資金の出し手がいなくなる。結局給料を上げる方法は経済を成長させる事、という以外に解決策はない。

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