今春の大学卒業生の就職率は極めて悪く、文部科学省の「学校基本調査」によると、就職率は60.8%。前年度より7.6ポイント低下しており、下げ幅としては過去最大だ。約8万7000人が進学も就職もしていないという。
理由はいくつかあるのだろうが、一昨年のリーマン・ショックの影響もあって、企業が新卒採用を大幅に抑制したことが最大の理由だ。
2001年から03年にかけても「就職氷河期」と呼ばれた厳しい時期があったが、こうしたことが頻繁に起こるようでは、この国のあるべき姿に対しても、大きな問題を引き起こす。何よりも、就職できない当事者たる若者たちの夢や希望を奪い、社会の活力が失われる。そして、次世代の就労を前提とした年金など社会保障制度の根幹が揺らぎ、国の持続可能性が損なわれる。
大企業の採用は、近年中途採用も増えたが、まだ4月に新卒者を一括採用する新卒優先が中心のようだ。新卒で就職するというチャンスを奪われることは、たまたま雇用環境が厳しいという巡り合わせであり、その責任は若者たちにある訳ではない。彼らの雇用を確保する責任は、第一義的には国にこそあると考える。
そのためにも、政・財・官をあげた早急な抜本的対策を望みたい。従来ならば景気が悪くても経営者は企業の持続性と人事管理上の観点から一定の雇用は持続してきたが、最近はそれすらも難しいのだろうか。産業界には、企業があって社会があるのではなく、社会があって企業があることに留意していただき、なお一層の雇用拡充に努めていただきたい。
≪地方に活躍の場≫
一方で、こうした雇用状況もあって、近年は若者たちの目線が都会から地方に向かい始めている。私はこの10年、都市と農山漁村の交流・移住推進に取り組んできており、こうした傾向を現場で実感している。都会に夢や希望を見いだせないのであれば、なにも大都市に執着する必要はない。地方に活躍できる場があれば、夢と希望を探しに地方に出て行くという傾向が、若者の間で顕在化し始めている。
しかし、地方には働く場が少ない。この傾向は昔も今も変わらない。自治体は企業誘致に取り組んでいるが抜本策にはならない。安い労働力を求めてアジアに出て行ってしまう企業も多い。こうした中で農林漁業など1次産業を、加工など2次産業や、観光など3次産業と融合させる「6次産業」化への期待が高まっている。
農林漁業や農山漁村の「6次産業」化を目指して、ふるさとでの起業に挑戦する若者の動きが顕著になり始めている。昨年度の緊急雇用創出事業の一環として、政府は補正予算に地域社会雇用創造事業を盛り込んだ。この事業では、就業を体験するインターンシップ事業と、起業の初期段階を支援するインキュベーション事業によって、約1万2000人の人材育成を目指している。
≪ふるさと起業≫
とくに今春から始まったインキュベーション事業では、3年間で約800人の起業家の育成を目指し、成功する可能性があれば1人当たり300万円の起業資金が提供される。
企業の中で歯車の一つとして働くのも一つだが、地方で自分の能力とやる気を信じて「6次産業化・ふるさと起業」にチャレンジするのも一つの選択肢ではないだろうか。時代が悪いと嘆くのもいいが、チャレンジする人生だって悪くはない。
人生は長いようで短い。すでに愛知県長久手町からはコメ粉を使った製品開発を扱う起業家を募集したいという提案が出ている。新潟県小千谷市や福井県若狭町などからも、地元の資源を活用した起業の提案があり、自治体側も意欲的だ。
ふるさとで働く場所がなければ、自分たちで起業し、働く場の確保を目指そうという動きがいよいよ具体化する。戦後65年、この国の勤労者の多くはサラリーマンを目指したが、これからは知恵を出し、能力を発揮したふるさとでの起業こそが、地域再生につながるのではないだろうか。そのためには全国約1700、すべての自治体で起業家を育成する政策の実施を政府に要請したい。
【プロフィル】高橋公
たかはし・ひろし 1947年、福島県生まれ。早稲田大中退後、連合社会政策局長などを経て2002年11月から特定非営利活動法人(NPO法人)ふるさと回帰支援センター専務理事・事務局長。新著に、自身の全共闘運動や労働運動を記録した「兵どもが夢の先」(ウェイツ)。