過酷な労働条件で若者を使い捨てにする「ブラック企業」の実態を“暴露”した曲を、兵庫県在住の3人組音楽ユニット「テラグラム」がインターネットで配信し、話題を集めている。激しい曲調で実体験を切々と歌い上げた11分余りのメタルロック。タイトルはずばり「株式会社DQN(ドキュン)www 実録ブラック企業」だ。
ささいな作業だが、いきなり「メモを取れボケ」と恫喝(どうかつ)さ
リーダーでキーボードのVEN(本名・吉田勉)さん(35)=尼崎市=が、昨年から1年2カ月間勤めた不動産会社での体験に基づき、作詞作曲した。
営業職として正社員採用されたが、3人ほどいた同期は2~3カ月で退職。入社1年未満の社員が約8割にのぼることが会議で分かり、会社が大量採用の末に社員を使いつぶしている実態を知った。
ありえない程の業務を押し付けて 「お前はできない奴なんだ」 刷り込まれてしまうんだ!
上司は人格を否定し、どんな発言や行動にも難癖をつける。休日に電話をかけて怒鳴ることもしばしば。タイムカードを押してから残業するよう強要し、残業代を支払わない。拘束時間は1日16時間にのぼった。
転勤した同僚から「まだ生きてはったんですね」と言われたほどの過重労働だったという。
朝起きたら金縛りで 原因不明の腹痛だけが残る
通勤で電車を待つ間、ホームから線路に吸い寄せられそうになる瞬間が何度もあったという。死を意識するたびに「俺には音楽がある」と思い直した。腹痛は退職後も続き、回復したのはつい最近のことだ。
ユニット「テラグラム」は平成21年9月、ボーカルのsoraさん(27)、ギターのJAMさん(27)と3人で結成。テラは1兆倍、グラムは重さの単位で「重みのある曲を作りたい」と名づけた。
ブラック企業の勤務経験者は心を病むことが多く、被害を公表できる人は少ない。苦しむ若者の代弁者として世間に実態を知らせようと、今年6月、動画投稿サイトで曲を配信した。
月1回出演するインターネットラジオ局「CAMNET」の番組「明日は二日酔い」では、似たような経験をしているリスナーからの投稿が増えた。労働相談を受けるNPO法人や過労死・過労自殺の遺族らとも交流を深め、反響は広がりつつある。
VENさんは「ブラック企業の問題点は社員の精神を操作すること。切羽詰まる前にこの曲を聞いてもらい、心当たりがあれば早く会社を辞めて、身を守ってほしい」と話している。