〈雇い負けニッポン〉外国人労働者の来日ドタキャンが続出。“買い負け”に続いて深刻化する日本の“雇い負け”の実状

1990年以降、ほとんど伸びていない日本の一人あたりGDP。円の購買力を示す実質実効為替レートは50年前と同水準の低さで、昨今は高級食材取引でアジアの諸外国に“買い負け”することも少なくない。さらに外国人労働者が日本を避け、より強い通貨の国を選ぶ“雇い負け”も進んでいるという。

上田日銀新総裁発言に失望する外国人労働者

4月10日の日銀・上田和夫新総裁の就任会見を見て、ガックリと肩を落とした人々がいる。技能実習生など、日本で働く外国人労働者たちだ。

失望のワケは上田新総裁が「続けるのが適当」と、これまで日銀が行ってきた異次元の金融緩和を継続とすると明言したためだ。技能実習生を受け入れる監理団体役員が説明する。

「金融緩和を続けるということは長期金利も0%前後に抑えられ、円安基調が続くということ。事実、上田新総裁の発言が伝わると、日米の金利差拡大が意識されて円が売られ、わずか一日で1円40銭も円安になった。こうなると技能実習生ら、外国人労働者は苦しい。円安が進んだ分、日本で稼いだ円をドルなどに換金して母国へ送金する際の金額が目減りしてしまいますから」

栃木県内の食品加工工場で働くインドネシア人女性もこう嘆く。

「21年4月の円ルピアレートは1円=134ルピアでした。それが22年10月に1ドル150円台の円安になった時は1円=103ルピアに。1ドル133円台と円安が一服した現在でも1円=111ルピアほどにしかなりません。送金の手数料を含めると、母国の家族に送るお金は円安が進む前に比べて20%近くも目減りしています。少しでも円の高いタイミングで送金したくて、お昼の休憩時間に円とインドネシアルピアの為替レートをスマホでチェックしています」

外国人労働者問題に詳しい「移住者と連帯する全国ネットワーク」の鳥井一平理事もこう指摘する。

「外国人労働者の悩みは円安による母国送金額の目減りだけではありません。旅費や手数料などの来日費用を借金でまかなった場合、円安が進んだ分、借金返済額が膨らんでしまうんです。

たとえば、カンボジアからの技能実習生は来日前に保証金として2500ドルを国に納めるのですが、手元資金からポンと払える人は少なく、ほとんどが借金をして納付しているのが実情です。この借金は日本で稼いだ円で返済することになりますが、円安が進むとその分、返済額がかさんでしまうというわけです」

買い負けの次は雇い負け?

日本の一人あたりGDPは1990年以降、ほとんど伸びていない。そのため賃金が伸び悩み、円の購買力を示す実質実効為替レートも過去最高だった1995年の150.85ポイントから、2021年には67.79ポイントにまで落ちこんでいる。これは今から50年前の1970年と同水準の低さだ。「安いニッポン」と呼ばれるのも当然だろう。

この現状を前に、前出の監理団体役員がこうつぶやく。

「それでなくても近年、本マグロなどの高級食材取引で、購買力の低下した日本勢が経済力をつけたアジア諸国に買い負けするということが起きていました。このまま円安基調が続けば、買い負けの次はまちがいなく雇い負けです。外国人労働者が安い円の日本で働くことを避け、もっと強い通貨の国を選ぶようになってもおかしくありません

この監理団体役員によれば、この1~2年、日本語を学ぶなど、日本で技能実習生として働く準備をしていた外国人労働者が来日をドタキャンするケースが目につくという。弱い円を嫌い、働き先をより多くの賃金収入を見こめるオーストラリアやカナダ、台湾、アラブ首長国などへ切り替える動きが広まっているためだ。

前出の鳥井氏が続ける。

「円安基調が長く続き、外国人労働者にとって日本で働く魅力が薄れている現状はいかんともしがたい。ただ、外国人労働者は賃金の高さだけで働き先を決めているわけではない。安心、安全に働けるかどうかも大切なポイントなんです。その点、日本は治安のよさは世界トップクラス。だから、あとは外国人の人権や労働の権利を保障し、外国人であっても働き先で公平に昇進できたり、技術を習得できるような制度をきちんと整備すれば、『安いニッポン』であっても日本が雇い負けすることはないのでは?」

4月18日、ようやく危機感が高まったのか、政府有識者会議が深刻な人手不足に対応するため、低賃金労働やパワハラ・セクハラ多発などで評判の悪い「技能実習生制度」を廃止し、専門知識を持つ外国人を受け入れる「特定技能制度」を拡充すべきとの提言作りが始まったことが明らかになった。

しかし、残された時間は多くない。日本が「雇い負けニッポン」のドツボにはまらないためにも、ここは政府、日銀が一丸となって外国人労働者に「選ばれるニッポン」になるための打開策を急ぎ講じるべきなのでは?

取材・文/集英社オンラインニュース班 写真/shutterstock

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