50代の大物3人をMCに起用した番組に注目が集まっている。『THE MC3』(TBS系)では、中居正広(52歳)、東野幸治(57歳)、ヒロミ(59歳)が「初タッグ」となるという。TBS側の狙いとは? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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21日夜、新番組『THE MC3』(TBS系)がスタートします。同番組のMCは、中居正広さん(52歳)、東野幸治さん(57歳)、ヒロミさん(59歳)の3人。いずれもMCとして実績十分の50代であり、「国民的人気MCの3人が初タッグ」と掲げていることからも、豪華さを前面に押し出そうという意図がうかがえます。
ただ気になるのは前番組が、かまいたち(山内健司さん43歳、濱家隆一さん40歳)、モグライダー(芝大輔さん41歳、ともしげさん42歳)、見取り図(盛山晋太郎さん38歳、リリーさん40歳)、ニューヨーク(嶋佐和也さん38歳、屋敷裕政さん38歳)という4組の中堅芸人を立てた『ジョンソン』だったこと。MCの年齢層がひと周り以上、引き上げられたことになります。
その狙いはどこにあり、ベテランMCの3人には何が求められているのか。現在放送されているどんな番組に近いのか。それらを掘り下げていくと、TBSに限らずテレビ業界、引いてはエンタメ業界全体の傾向にもつながっていきます。
今秋ターゲット層の上限を拡大
まず50代のベテランMC3人を起用した狙いについて。
TBSは今秋から「LTV4‐59」という新指標の導入を発表しました。「LTV4‐59」とは「Leveraged Timeless Value 4-59」の略で4歳~59歳の個人視聴率を示す指標。これまでTBSは4~49歳をターゲット層にしていただけに、10歳上限を引き上げたことになります。
これまで民放各局はスポンサーの意向を踏まえて主に10~40代をメインターゲットに設定してきましたが、出生数が多かった団塊ジュニア(1971~1974年生まれ)が今年ですべて50代に突入。元気で購買意欲のある50代が増えることから、今後はメインターゲットに入れていくという方針に変わりつつあります。
その50代に強いのが『THE MC3』のMC3人。「進行やトークの技術があり、親しみが持てる3人をそろい踏みさせれば50代の個人視聴率獲得が期待でき、全体の「LTV4‐59」も上がる」という目算が浮かびます。
さらに注目すべきは番組の内容。5月6日に放送された特番は「令和の国民的関心事にどれだけ詳しいのかMC適性テストに挑戦!」という企画でした。MC3人が「若手アーティストのグループ名を当てるクイズ」「若者にリバイバルヒットした曲のイントロクイズ」「金銭感覚おかしいのは誰?コンビニ買い物バトル」「国民食グルメ2択クイズ」などに挑戦。3人がふだん出題側で回答者にならないことを逆手に取った企画でした。
ポイントは3人がMCというよりもメインゲストのようなポジションで出演していたこと。MCとして一歩引いて進行をこなし、出演者を引き立てるのではなく、メインゲストのようにフィーチャーされ続けていました。
また、21日のレギュラー放送1回目も、3人とゲストが「周りにどう思われているのか」のリアルな評価を調査するコーナーが予告されています。この番組は50代の大物MCが明るく元気な姿を見せることが重要なのでしょう。そんな3人の姿で同世代を笑わせ、勇気づけるような意味合いもありそうです。
全ターゲットのテレ朝に近い戦略
では、現在放送されているどんな番組に近いのか。
最も近いニュアンスがあるのは、長嶋一茂さん(58歳)、石原良純さん(62歳)、高嶋ちさ子さん(56歳)がメインを務める『ザワつく!金曜日』(テレビ朝日系)と、長嶋一茂さん(58歳)、出川哲朗さん(60歳)、ホラン千秋さん(36歳)がメインを務める『出川一茂ホラン☆フシギの会』(テレビ朝日系)の2つ。
両番組はホランさんを除いてメインをベテランで固め、さまざまな話題でフリートークするほか、ガチンコのクイズコーナーなども行っています。本音トークやリアクションの良さが人気の理由となっていますが、『THE MC3』も特番では3人が「こんなの全然面白くねえよ」「嫌だった」「次、呼ばなくていい」などの自由なトークを炸裂させていました。
「『THE MC3』が『ザワつく』『フシギの会』に近い」ということは、「テレビ朝日系に近い戦略」と言っていいのではないでしょうか。同局は中高年層もターゲットに含めて全体の個人視聴率を得ていくという手堅い戦略を続けていますが、TBSとしては「その上で若年層をどれだけ引きつけられるか」の試行錯誤をしていくのでしょう。
そもそもテレビ朝日は民放主要4局で唯一、全年代に向けたオールターゲット戦略を進めていました。ただ、10~40代の個人視聴率で勝る他局がスポンサー収入では優位だっただけに、ここに来てテレビ朝日寄りの戦略変更はテレビ業界の苦境を物語っています。
しかし、TBSに限らず「ベテラン起用」「ターゲット層の上限を拡大」という流れは、必ずしもネガティブなものとは限りません。日本の人口分布や行動傾向が変わったことへの対応であり、スポンサーとしても中高年層にも物を売らなければ苦しい時代だけに、当然の流れにも見えます。
さらに、この「ベテラン起用」「ターゲット層の上限を拡大」はテレビ業界に限らず、エンタメ業界全体の傾向になっていくでしょう。現在、『踊る大捜査線』シリーズの新作映画が公開されているように、エンタメビジネスでは「いかに中高年層を動かしていくか」の重要性が増しているのです。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。