自転車とバイクのいいとこ取りをした新しい乗り物として「モペット」が人気だ。この新しい乗り物は、排気量50cc以下もしくは出力600ワット以下のエンジン、もしくは電気モーターを搭載した運転免許が必要な「ペダル付き原動機付自転車」のことだ。だが、街中ではナンバーもヘルメットもない状態で走り回っている不届き者も少なくなく、たびたび取締りの様子がニュースにもなっている。ライターの宮添優氏が、それでも違法モペットライダーを続ける人たちや、違法改造で爆速疾走する電動アシスト自転車の存在についてレポートする。 【写真】改造自転車
* * * 主に都市部で高いニーズがあるとされる、近距離しか移動しないという「ちょい乗り」需要。それに応えるように、東京や大阪などの大都市では「電動キックボード」を気軽にレンタルできるようになった。だが、信号無視や一方通行の逆送、さらには飲酒運転による摘発者も相次ぎ、死亡事故まで発生。メディアでも連日大々的に取り上げられ、問題視されている。 さらに最近、やはり都市部で目立つようになってきているのは、自転車とほとんど見分けのつかない「モペット」と呼ばれるペダルがついたフル電動自転車や、違法な改造を施した電動自転車の利用者による危険な運転だ。普段は主に東京の渋谷や新宿近辺を走っているという現役のタクシー運転手の男性がこぼす。 「新宿から渋谷に向かって明治通りを走っているとね、車の左脇をスーッと音もなく通っていくんですわ。モペットって言われているあれです。原付(バイク)なんかよりもスピードが出ているのに、ノーヘルで信号も守らないから、危なっかしくてね。ああいうのに乗っているのは若いおしゃれ系の男が多いけど、運転もでたらめなんだよな。社内でも、モペットや電動キックボードの事故に注意するよう言われるけど、こっちが注意したってあっちが危ないんだからさ」(タクシー運転手) 「モペット」とは、簡単に言えば、バイクに自転車のペダルがついたような乗り物で、モーターが始動していなくてもペダルをこげばすすみ、逆にペダルをこがなくてもモーターで自走することも可能だ。公道を走るにはナンバープレートをつけて、自賠責保険に加入し、ヘルメットを着用して乗ることが義務づけられている。自転車とほとんど変わらない見た目のモペットも存在するが、道路交通法上は原動機付き自転車に分類されるので、基本的には「原付バイク」と同じような乗り物、という理解で問題ないだろう。
しかし、モペットの見た目が自転車に酷似しているために、違法走行がわかりにくく、摘発もされにくい。街を走行するモペットを観察していると、ナンバープレートやヘルメット着用という前提ルールを守っているユーザーのほうが少ないくらいの印象、といっても言い過ぎではないほどだ。渋滞の中をすり抜けたり、歩道を通行人の間を縫うように走行したり、やりたい放題のドライバーも目につく。
通販でも数万円。乗っちゃいますよね
渋谷区内で、モペットによる違法走行をしていた専門学校に通う男性(10代)は、筆者の呼びかけに応じ、悪びれる様子もなく話す。 「パッと見自転車ですが、ペダルをこがなくても原チャ(原付バイク)よりスピードも出る。違法なのはわかってますが、渋谷の店でも量販店でも、通販でも数万円で買えてしまうので、乗っちゃいますよね。一度、警察に止められそうになりましたけど、ペダルをこいで”電動自転車だ”と言い張ったら大丈夫でした。(違法行為については)あまり深く考えてませんが、スピードも出るし便利ですからね」(専門学校生) モペットを取り扱う都内の自転車店スタッフの男性(20代)は、匿名を条件に筆者の取材に次のように答える。 「うちで扱っているモペットは、すべてそのままでは公道走行不可、ということをお客さんに承知してもらってから販売しています。原付バイクのように、店のほうが購入時に免許の確認をしたり、保険に入ってもらったり、ナンバーを取り付けないといけない決まりはないので、口頭で確認だけして販売しています。正直、ほとんどのお客さんが公道を走る目的で購入されていると思いますよ。通販や量販店ではさらに安い海外製のモペットが販売されていて、車と同じくらいのスピードが出るものもある」(自転車店スタッフ) 冒頭で触れた道路交通法を守らない「電動キックボード」と共に、この違法モペットについても、警察関係者は「危険な走行が横行しており、摘発を徹底するしかない」と鼻息も荒い。ところが現実はその先を行っている状態だ。最近では、モペットとは別の違法車両も登場している。先の自転車店スタッフが続ける。 「モペットだと捕まるからといって、一般に販売されている電動自転車の違法改造が一部のショップで行われています。違法改造をすれば、電動自転車のスピードが上がるのです」(自転車店スタッフ)
見た目では違法改造は全くわからない
前出の自転車店のスタッフによれば、都内の自転車店の中には、販売時に「スピードアップ」等の名目で、客に違法な改造をすすめている店があるという。具体的には、電動自転車に使われているギア比、ペダルを1回転させたときの後輪の回転数を変えて、道路交通法で定められたアシスト(補助)比率に適合しない自転車にすることだ。普通の電動自転車は、ペダルをこいでスピードが上がるとモーターが止まるが、違法改造車はペダルもモーターも止まらないままになる。その結果、とても自転車とは思えないスピードで走る。これはれっきとした違法行為だ。 「電動自転車のアシスト力は、人の力の2倍までと法律で定められていて、時速25キロを超えるとアシスト力はゼロになる。でも改造をすれば、25キロを超えてもアシスト力が続き、原付バイク並みの速度で走れます。見た目では違法改造は全くわかりませんし、警察に止められてもその場で調べられるわけもない。SNS上にも”早くなった”と書き込むユーザーがいますが、違法行為という認識が薄いのです」(自転車店スタッフ) 筆者は当該の自転車店を訪ねたが「取材拒否」と言われ追い返された後、商売の邪魔をするなら「訴訟する」とまでメッセージが届いたが、違法行為に関する回答は得られなかった。 電動キックボードや電動自転車、そしてモペット。いずれも、新しい時代のニーズに沿った新しい乗り物、という触れ込みであったはずだが、一部の不届き者、ならず者のせいで規制が進み、一般市民が「気軽に利用できる」機会は徐々に失われることになるのかもしれない。