東京都の石原慎太郎知事がぶち上げた「自前100万キロワット発電所」の概要が明らかになってきた。原発の位置付けが大きく揺ぎ、中長期的な電力確保に不透明性が指摘される中、「東京方式」が投じる一石の波紋はどこまで広がるのだろうか。
「東京自前」の発電所構想は、「ポスト原発」をにらみ数十の自治体を巻き込んで準備が始まった大規模太陽光発電所(メガソーラー)の計画に対し、石原知事がその発電量などに疑問を投げかける形で浮上した。
天然ガス発電所「建設コスト、原発よりはるかに安い」
どうなる東京都の発電所計画。
どうなる東京都の発電所計画。
石原知事が2011年7月中旬、記者会見でメガソーラーの問題点などに触れつつ、「東京はもっと手っ取り早く、100万キロワット規模の発電所をつくる」と宣言した。100万キロワットといえば、原発1基分に相当する。
東京都は9月14日にあった関係プロジェクトチームの第2回会合で、天然ガス発電所の建設候補地として東京湾岸の都有地5か所を検討していることを明らかにした。都が基盤整備をし、割安な料金もしくは無料で発電事業主体に貸し、発電は第三セクターなどが行う形が想定されている。総建設費は1000億円程度とみられている。
チーム座長の猪瀬直樹・副知事は、マスコミの取材などに対し、「『脱原発』と叫んでいるだけではだめ」として、「電力の地産地消の動きが全国に広がるきっかけにしたい」と意気込んでいる。
ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたガスタービン・コンバインド・サイクル方式になる見込みだ。社団法人の火力原子力発電技術協会によると、ガス・コンバインド方式は、1980年代後半から日本の各電力会社で導入が始まり、以降、新規建設の天然ガス発電所では主流となっている。
猪瀬氏は「天然ガス発電所」のメリットについて、「比較的小さな敷地で建設できる」「建設コストは原発よりはるかに安い」「二酸化炭素の排出が比較的少ない」などを挙げている。天然ガス価格も原油より安い。
ちなみに、電気事業連合会によると、2010年度(電力10社)の「電源別発電電力構成比」で、液化天然ガスは29.3%と最も多かった。2位以下は、原発28.6%、石炭25.0%と続く。「石油等」は7.5%で、「地熱及び新エネルギー(風力など)」は1.1%にとどまっている。
課題となってくるのは、東京電力の送電網を使うことでかかってくる「託送料」の支払いだ。単純に計算すると電力料金が約3割増しになってしまう。そこで都では、託送料の引き下げなどの規制緩和について国へ要望を出した。
現状放置では、メーカー工場が海外に?
都は、完成後の新発電所の電力供給先として都営地下鉄など都の施設を想定しつつ、あまった電力の産業向け販売なども視野に入れている。「託送料問題」は別として、現行の電気料金より安くなるようどう工夫ができるか、も検討する。
都の天然ガス発電所計画を受け今後、どんな影響が出てくるのだろうか。
都に刺激され、民間や自治体が発電事業に相次ぎ進出し、規制緩和や電力自由化が一気に進む可能性も考えられる。
一方で「自然エネルギー」の風力や太陽光発電に熱い視線を送っていた自治体が、「より現実的」な天然ガスに舵を切ることも考えられる。
また、仮に「原発1基分」の100万キロワット級火力発電所が各地に相次ぎ建設されるようなことになれば、原発が必要かどうかの議論が再燃し、原発再稼働を容認している野田政権の姿勢に影響を及ぼすこともあり得るかもしれない。
猪瀬副知事は、電力見通しが不透明な現状を放置していては、日本メーカーが海外に工場を移すかもしれないと指摘し、都の発電所計画について「企業は生き残れます、東京にいてください」というメッセージの意味もあると解説している。
一方、ある電力会社の関係者は、リスク分散などの意味からこれまで進められてきた「ベスト・ミックス」の模索を今後も国全体で考える必要があるとして、「天然ガスだけを増やせば良いということにはならないでしょう」と話した。