「いきなり退職代行から連絡が…」「注意すると泣く」20代社員はなぜ“打たれ弱い”のか

ただの若さゆえの過ち、ではない――。今、周囲の大人から困惑や反感を招く、老害ならぬ[若害]が増えている。現代社会に生まれた新たな害悪の正体、そんな迷惑人材の対処法に迫った!
◆日本で増殖する「若害」とは?

「新入社員研修で『あの、私の成長プランを教えてください』と言われたときは、『何言ってんだ?』と絶句しました」

そう本音を吐露するのは、メーカーで新卒採用を担う加藤 智さん(仮名・41歳)。

「“成長プラン”を聞くからには、さぞ意欲的かと思えば、必要以上はやらないし、言われたことも細部までマニュアルがなければできない。会社からレールが引かれるのを待っているんです。『キミ、もう少し主体性をね……』と指摘したら、『えっ、私のこと責めてるんですか?』と泣かれて……。ほとほと参りました」

飲食業で人事課長を勤める水島猛さん(仮名・43歳)も、若害の唐突な被害を明かす。

「最近の若者はとにかく打たれ弱いと聞いていました。だから勤務時間や職場環境には気をつけていましたし、理不尽に叱ったこともなく、同期とも仲良く働いていたのに、入社3か月目でいきなり退職代行から連絡があって。理由は一切教えてもらえず。結局泣き寝入りです……」

◆若害は採用前には気づけない

さらに、“若害被害”は退職代行だけにとどまらない。

「親に依存体質な若手は増えたなと感じます。ある新卒の女性社員は体調不良で会社を休むたびにお母さんから連絡が来るんですよ。結局、退職してしまって、その後の各手続きも母親、返却物の確認も母親、会社として手間は増えるし、子供じゃないんだから、と正直うんざりしました」

次から次へとこぼれる、若害のエピソード。採用前には気づけないものだろうか。イベント会社の採用を担当している葛西美幸さん(仮名・40歳)は首を大きく横に振る。

「履歴書は立派なんです。もちろん四大卒だし、アルバイト・サークルなどの活動もちゃんと書いてあって。しかも、不思議なことに面接は上手なんですよね。新入社員に『親が社則で気にしている部分があるので、教えてください』と聞かれたこともありましたが、その瞬間、『あ、採用に失敗した』と後悔しました」

予測不可能な彼らの言動に会社はお手上げ状態。

「理由がわからないので、そういう世代だと思うようにしている」と肩を落とした。

◆若害が進む理由は時代、希少性、少子化

なぜ、若者の間で「若害化」が進んでいるのか。最大の要因は、就職の売り手市場にある。若者研究で知られる芝浦工業大学教授の原田曜平氏は、「希少性」を指摘する。

「一番大きいのは、やはり人手不足だと思います。今の30代は少子高齢化とは言われつつも、意外とリーマン・ショックなどの影響で、その恩恵をあまり受けられていない。本当の売り手市場はここ5年くらい。辞めても転職先はすぐ見つかるので、しがみつく必要が全くありません」

なお、若者が過度にお客さま扱いされる傾向は、何も職場だけに限った話ではない。

「希少性は塾でも学校でも、どこに行っても変わりません。アルバイト先にしても、日本人の若者に働いてもらえるだけでありがたい。だから、若者に突然シフトをドタキャンされても、融通が利かなくても、文句を言えない店が増えています。さらに、少子化で大人から寵愛を受けて育ってきた人の比率が高い。競争にも晒されず、自分を肯定されることには慣れていても、他人の批判には慣れていない。だから、打たれ弱いんですね」(原田氏)

◆「希少性」「少子化」に続いて影響が大きいのは…

「希少性」「少子化」に続き、大きいのが「時代」の影響だ。若手採用に詳しい人材コンサルタントの安藤健氏は語る。

「現在の若者は、物心ついた頃から東日本大震災やコロナ禍などを経て、社会不安は人一倍経験してきた世代です。意外に感じるかもしれませんが、『何があるかわからないから、会社には依存できない』と考える若者が多いんですね。実際に、ビズリーチ・キャンパスが実施した調査によれば、就活生の55%が転職を前提に就活しています。また、最近、職場がホワイトすぎるからと退職する若者が登場しているのは、過度にお客さま扱いされた結果、彼らが『この会社では自分が成長できない』と見限るからこそ。どこの企業でも若者の囲い込みに躍起になるなか、正直、帰属意識は期待できません」

転職を見込んで就活しますか?

「1社目から転職を見込んでいる就活生が多く、中高年の『新卒カードは大事』という価値観とはギャップがあります」(安藤氏)

就活生の55%が転職を意識
強く意識している……17%
やや意識している……38%
あまり意識していない……35%
ほぼ意識していない……10%

※「ビズリーチ・キャンパス」調べ。同サイトに登録する2023年卒業・修了予定の大学生・大学院生を対象に調査。調査期間:2021年10月11日~10月14日、有効回答数:476件

◆若害は社会不安を乗り越えてきた世代か

親を通して不況を肌で感じ、震災などの社会不安を経験してきたため、キャリアに対する不安が強い。

’01年 米国同時多発テロ、ITバブルの崩壊
’08年 リーマン・ショック
’11年 東日本大震災
’20年 新型コロナの流行
’22年 ロシア・ウクライナ問題

◆若害の3条件

①時代性

社会不安のほかにも、安定志向で横並び意識が強い。「同期とは情報交換なども頻繁に行いますが、上の世代との交流は苦手な傾向にあります」(金沢大学教授の金間大介氏)

少子化

両親はもちろん祖父母からもかわいがられ、ケアされてきたので、失敗や挫折が少ない。「そのため、他人からの批判や叱咤には極端に弱いです」(芝浦工業大学教授の原田曜平氏)

③売り手市場

会社余り、人手不足の時代ゆえ、「若者である」というだけで希少性がアップ。「自分が会社を選ぶ立場なので、自発的な努力に至るには理由が必要です」(人材コンサルタントの安藤健氏)

【芝浦工業大学教授 原田曜平氏】
マーケティングアナリスト、若者研究の第一人者として知られる。近著に『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)

人材コンサルタント 安藤健氏】
人材研究所所属。近著に曽和利光氏との共著『採用ハック「知名度ゼロ」「予算ゼロ」でも狙い通りの人が入社する方法』(秀和システム)

【金沢大学融合研究域融合科学系教授 金間大介氏】
人間のモチベーションについて研究。著書に『静かに退職する若者たち:1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)

取材・文/週刊SPA!編集部
※4月30日発売の週刊SPA!特集「増殖![若害]の実態」より

―[増殖![若害]の実態]―

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