仙台市議選(30日投開票)は、5選挙区に立候補した76人が山積する市政課題を巡って活発な論戦を展開している。中でも、郡和子市長が最重要課題に据えるいじめ対応は関心が高いテーマの一つ。対照的に、性的少数者らのカップルを独自に承認するパートナーシップ制度は20政令市で唯一、導入の道筋が見えないにもかかわらず、性の多様性を巡る訴えは影を潜める。
いじめ認知件数は政令市で2番目「子ども守れ」訴え響く
「郡市長に、いじめられた側を救ってくれと言っているが、『うん』と言ってくれない。(いじめの問題は)根の深さを感じる」
若林選挙区(定数7)の現職は21日の街頭演説で、2018年に女子児童へのいじめを苦に母親が児童と心中した事件に触れ、遺族が要望した再調査を実施しない市長の姿勢に疑問を呈した。
各候補の政策ビラには、いじめ対策の必要性を訴える記述が目立つ。「子どもに寄り添った相談支援の推進」。選挙戦では、子どもの命を守る体制づくりを求める声が響く。
市内では14年以降、いじめを苦に自死する中学生が相次ぎ、社会に衝撃を与えた。19年4月に市いじめ防止条例が施行されたものの、市立学校で認知されるいじめの件数は高止まりする。推移はグラフの通り。文部科学省によると、21年度は児童生徒1000人当たり152・3件で、政令市で新潟に次いで多い。
宮城県人権擁護委員連合会の元副会長で、いじめ相談に詳しい神春美さん(76)=青葉区=は「いじめの内容は全て異なり、教員が研修を重ねただけでは解決が難しい。より実践的な内容に変える不断の努力が大切だ」と指摘する。
特定の教員に任せるのではなく、カウンセラーを含め、学校全体でいじめへの対応力を底上げすることも求められる。「解決したかどうかの見極めも大事だ。おざなりではいけない」と意識改革の必要性を説き、市議会のチェック機能強化を訴える。(報道部・田柳暁、納代真奈)
パートナーシップ制度未導入 性の多様性、少数者の声触れられず
パートナーシップ制度の実現に向け、青葉選挙区(定数15)の現職は24日、街頭で声高に訴えた。
「当事者が認められていると感じられる制度を作る」。現職は市議会定例会の一般質問などで、たびたび制度の創設を市に迫った。選挙戦でも主要テーマの一つに掲げる。ただ制度に言及する候補者は少ない。
「お願いは散々してきたが…。私たちを市民と認識しているのか」。多様な性の在り方を考える市民団体「にじいろCANVAS」(仙台市)の小浜耕治共同代表(60)=太白区=は、いら立ちを隠さない。
東京都渋谷、世田谷両区が全国で初めて導入した15年以降、仙台市に要望してきた。議員に相談を持ちかけた際に「市議会会派の担当はこの人ですからと言われ、十分に聞いてくれないこともあった」。小浜さんは問題意識が市議会全体に浸透していないと感じる。
認定NPO法人虹色ダイバーシティ(大阪市)と渋谷区の共同調査によると、6月28日時点で全国328自治体が制度を導入し、人口カバー率は7割を超える。政令市18市が既に取り入れ、仙台市と同様に残された神戸市も5月、年内をめどに検討すると表明した。
にじいろCANVASは市議選の候補者にアンケートを実施した。25人が「速やかに制定すべきである」と答えたが、回答を寄せたのは30人にとどまった。
「法的な効力がないパートナーシップ制度は、多様な性を考える看板に過ぎない」と小浜さん。「性的指向、性自認は誰もが持っている。これは人権の問題だ」。30日に決まる市議全員が「わがこと」と捉え、早期導入が実現するよう願う。(報道部・竹端集)