「クールビズ」が提唱されてから今年で13年目。すでにノーネクタイ、ノージャケットが当たり前となり、業種や企業によってはチノパンやポロシャツ、スニーカーなども徐々に職場に浸透しつつある。そんな中で、最近のトレンドとして注目されているのがくるぶしを出した男性の涼しげな着こなし。暑い夏の服装のおしゃれな着崩しとしてジワリと広がっている。
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涼しさはまず足元から――。毎週金曜日朝。東京・北青山の伊藤忠商事本社にはデニムやポロシャツなどラフな服装をした社員が続々と出社する。同社は岡藤正広社長の号令で6月16日から毎週金曜日を「脱スーツ・デー」と宣言し、社内の服装コードを大幅に緩和した。男性の着こなしで目立つのは颯爽(さっそう)とした「くるぶし出し」スタイルだ。
「最初は抵抗感もあったが、試してみたら風通しが良く、涼しさが全然違う」と話すのは保険ビジネス第一課の斎藤隆文さん。だらしない印象にならないようにパンツにきちんとセンタープリーツを入れるなど常に清潔感を心がけているという。
「チノパン、デニム、カーゴパンツや裾の短いロールアップパンツなどが解禁になり、くるぶしを出す社員がさらに増えた」(同社広報部)。「見た目にも涼しいし、取引先との会話の糸口にもなる」とビジネスへのプラス効果も期待する。
足首を出す着こなしは日本では元祖トレンディー俳優の石田純一さんらが実践してきたことで知られるが、もともとはイタリア、フランスなど南欧で広がった夏の着こなしだった。伊フィレンツェで年2回開催される世界最大級の紳士服展示会「ピッティ・イマージネ・ウオモ」でも夏はくるぶしを出すスタイルがすでに定番になっている。
「ただ単純に着崩せば良いというわけではない。相手を不快にさせないように一段高いセンスが問われる」と東京・銀座の紳士服店「ヴェスタ」の北川美雪さんは説く。周囲の空気を読み、自分の身だしなみに気を配る。柔軟な発想や好奇心、チャレンジ精神が必要なのだ。
伊勢丹新宿店メンズ館でも接客にあたる男性店員の多くがくるぶし出しだ。「パンツの裾丈や裾幅、シルエットのバランスの処理が難しいが、それがおしゃれの楽しみ」と嶋崎信也さん。足首が出て、素足で履いているように見えるソックスなども売れ筋になっている。
今年のクールビズ商戦ではアパレル・小売り各社が「くるぶし男子」を意識した売り場や商品を相次いで展開した。
マイナス5センチへの挑戦――。そごう・西武は男性の足元に注目し、「涼しくて格好いいくるぶし丈」のビジネススタイルを提案。ユニクロも「くるぶし出して、行きましょう。」といううたい文句で足首が見えるイージーアンクルパンツを売り出した。従来よりもさらに踏み込んだ涼しい着こなしで知恵を競い合う。
とはいえ、くるぶし出しを企業社会全体が受け入れるところまでにはまだ至っていないようだ。
クールビズ自体の基準も業種や地域、会社ごとにかなりのバラツキがある。「服装はまったく自由。くるぶし男子は多いし、サンダルで出勤する社員もいる」(アマゾンジャパン)という企業がある一方で、「年配者への接客などを考えるとくるぶし出しは難しい」(大手銀行)など慎重論も少なくない。
このため「得意先のルールに沿って柔軟に対応している」(博報堂)、「ポロシャツ、チノパンなど働きやすい服装は可だが、さらに細かな基準は設けない」(キリンビール)など社員の良識に任せている企業が多い。TPOを踏まえた柔軟な着こなしのなかで「くるぶし男子」が増殖しているのだ。
クールビズの旗振り役だった環境省自体の職員の服装基準も世論の反応を受けて微妙に揺れてきた。いったんはTシャツやジーンズを条件付きで認めていたが「不可」に切り替えた経緯がある。「行き過ぎ」などと苦情が寄せられたためだ。
ではくるぶし出しはどうか。環境省国民生活対策室に尋ねると、「明確な規定はなく、実践している職員も少なくない。節電につながる涼しい着こなしは望ましいこと。特に問題視はされていない」と答えた。
長期バカンスが定着していない日本の大都市の真夏は、冷房の排気やアスファルトの照り返しで灼熱(しゃくねつ)地獄。ドレスコードは時代や世代の変遷で常に変化する。品位を損ねないことがあくまでも原則だが、着崩しのルールもゆっくりと変わりつつあるように見える。
(編集委員 小林明)
[日本経済新聞夕刊2017年7月15日付]