2018年の「ユーキャン新語・流行語大賞」は、平昌五輪カーリング女子日本代表の「そだねー」に決定した。毎年この賞に対しては「そんな言葉聞いたことない」や「そんなに流行ったか?」などの異論が出るが、「そもそも選考方法が誰もが納得のいく形ではない」と述べるのはネットニュース編集者の中川淳一郎氏だ。以下、中川氏の提言だ。
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私自身はトップ10に入った「ご飯論法」と「ボーっと生きてんじゃねーよ!」は知りませんでした。まぁ、積極的な政権批判派ではないのと、NHKの『チコちゃんに叱られる!』という番組を見ていないから知らないのでしょう。というわけで、人はそれぞれに流行語があるわけで、それを強引に審査員の判断で決めてしまうのが流行語大賞ってヤツです。
流行語大賞の内情に詳しい千葉商科大学国際教養学部専任講師・常見陽平氏のブログエントリー〈「流行語大賞」に「知らねえよ」と絡む奴、恥ずかしいからやめなさい〉(11月8日)によると、そもそも以下の前提があると言います。
・別に公的な機関が運営しているわけではなく、『現代用語の基礎知識』や、ユーキャンのプロモーションを兼ねたイベントである。
・この時期に発売される『現代用語の基礎知識』に載っている言葉から選ばれる。出版スケジュールを考えると、9月いっぱいくらいまでに世に出た言葉がギリギリ。
・自由国民社および大賞事務局がノミネート語を選出し、選考委員会によってトップテン、年間大賞語が選ばれる。
完全に主観に基づく賞なわけで、となれば、別に朝日新聞や産経新聞が、あるいはどこかの大学の社会学部が「これがワシらの流行語大賞!」とやってしまってもいいわけなんですよね。「今年の言葉大賞」なんてものを新設し、「ワシらは10月と11月と12月の言葉も入れてまっせ」と元祖に対するアドバンテージを明確に表してしまう。あるいはかつての「加勢大周vs新加勢大周」のように「新・新語・流行語大賞」なんて名乗ってしまうのもアホらしくていい。
ここでは「『(大迫)半端ないって』の方が流行ったじゃねーかよ。もっと言えば『モルゲッソヨ』こそ流行語だろ、オラ!」と私自身の主観を主張する気は一切ありません。あくまでも、その選考方法に疑問を述べたい。それは「データがない」ということです。プロ野球のMVPの場合は、今年のセ・リーグはそりゃあ、広島(現巨人)の丸佳浩で間違いないでしょう。なにせ打率.306、39本塁打、97打点、出塁率.468、長打率.627、OPS1.096って文句のつけどころがない大活躍です。同じ選考委員(記者)による投票でも、そこにはデータの裏付けがあるから納得感がある。
あとは、結局選考委員がピンと来るかどうかという話になってくるので、そこに納得感がないのでしょう。2015年には「アベ政治を許さない」「SEALDs」が入り、2016年には「保育園落ちた日本死ね」が入りました。2015年には「一億総活躍社会」も入り、安倍晋三首相が表彰されました(表彰式には参加せず)が、国民が総活躍している実態はないばかりか、「アベ政治を許さない」と並んでいるため、選考委員の顔ぶれも合わせ、政権批判の意図を感じた人も多かったです。
◆「このハゲー!」はノミネートすらされなかった
MVPの場合は、野球担当記者が投票するわけですが、彼らが「ボク、阪神ファンだから、今年阪神で一番活躍した糸井嘉男を1位に投票しようかな、ウヒヒ。2位はメッセンジャーにして、3位は福留孝介かな。うーん、今後の期待を込めて3位は大山悠輔でもいいかもしれないね、うふっ」なんてことをやったら、「あの謎の贔屓の引き倒し票を入れたヤツは○○スポーツの××のアホじゃねーの? あんなヤツ、来年から投票に参加させないでおこうぜ」なんて動きが出てもおかしくない。選者の感情を入れようにも「データ」の前にはフェアネスの観点からそこにブレーキがかけられるのです。
となれば、流行語大賞(的なもの)の納得性をより高めるにはどうするか。それは、データを駆使すればいいんですよ。日経新聞のデータベース「日経テレコン」から「記事件数」を引っ張り出し、検索エンジン・ヤフーの検索回数、さらにはツイッターでの言及数や世界のトレンドランキングで何位に入ったか、日本モニターによる「テレビで何時間オンエアされたか」などを総合し、有無を言わさぬ流行語を示せばいいのです。
あと、流行語大賞の場合、ユーキャンと自由国民社というマジメな会社がやっているだけに、あまりフザけられないという側面もあります。2017年、豊田真由子元衆議院議員の「ちーがーうーだーろー!」がノミネートされました。結局落選はしたものの、そもそものノミネート語は「このハゲー!」であるべきだったんですよ。あれだけトラウマのごとく毎日朝から晩までテレビで流れ、小学生の子供達も学校で「このハゲー!」とマネして叫ぶなど、相当流行った言葉でした。もちろん他人様の毛髪事情を揶揄するような差別用語を選ぶのは問題がある、という意見も分かりますが、データを駆使した結果上位に来たのであれば、「それが日本における薄毛差別の表れ」という今後の改善に繋がる問題提起にもなるわけです。
上記に挙げたような機関の連合体による「新・新語・流行語大賞」が来年以降発足したら、ネット上の「こんなの聞いたことない」や「選考委員の偏りを感じる」といった否定的な声は激減するのではないでしょうか。