「しなやかに男性化する」日本女性の消費

男性に“女性がオッサン化している話”をされると、ムッとする人も多いかもしれません。でも今回取り上げるのは、もっとポジティブな意味での女性の変化。男前な女性が増えているという話です。経済ジャーナリストの高井尚之さんは、属性にとらわれずに消費者心理をつかむことの大切さを説きます。

■1人で「立ち食い」を楽しむ女性

10年以上前から、消費者の変化について話すことの一つに、女性の職場進出が進むほど、「しなやかにオッサン化する」というものがあります。

オッサン化の前に“しなやかに”がつくのですが、近年、この傾向は高まっています。まずは事例を紹介しましょう。

4月下旬、名古屋に出張しました。当地の名物「きしめん」は、名古屋駅の新幹線ホームにもいくつかの店があり、各店自慢の「立ち食いきしめん」が食べられます。筆者の好みはそのうちの1店で、今回の乗車指定席は店の前に止まる号車でした。「せっかくなので」と行列の後ろに並んだところ、女性1人客(推定30代)が食べ終えて店から出てきたのです。とても手慣れた感じでした。ちなみにこのきしめん店は昭和36年に名古屋駅に開店、と昔の写真(食べている人は全員が男性)も掲げてありました。

このケースに限らず、牛丼店や(最近は座席も増えた)立ち食いそば店に、女性が訪れることは珍しくなくなりました。かつては「おじさんの聖域」のように男性客ばかりだった場所も、女性の1人客が来られます。

■“男前”な女性が増加中

企画という仕事柄、デザイナー職の女性と、よく一緒に仕事をしました。その中の1人(30歳ぐらい)は丁寧な仕事をする人でしたが、自分のデザイン作業が立て込んだ時、苦笑いしながらこう宣言したのです。

「あたし、来週の締め切りまで、オンナを捨てます!」

その時は〈気合いの表れだな〉と思ったのですが、近年は至るところで、こうした男前な発言を耳にするようになりました。例えば……

「製造業で部品の開発業務をしていますが、仕事中は作業服姿。ふだんはウェーブをかけたロングヘアも帽子の中に入れて業務を行います。でも『作業着を脱いだら2割増し』がモットーです」(20代の会社員)

「異業種と連携して、新ブランド立ち上げのプロジェクト活動に関わっています。今はそのピーク時期。伸びてきた髪が気になり、美容院に行きたいのですが『このヤマを越えてから』行くことにしました」(40代の会社員)

「働き方改革」としてはさておき、忙しい時は、「仕事が仕事を呼ぶ」もの。担当する仕事が立て込むと、腹を据えて取りかかるのは当事者意識の表れでしょう。

■ビジネスホテルの女性宿泊客も増加

日本において「男女雇用機会均等法」(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律。「雇均法」)が施行されたのは1986年4月です。法律が施行されても「男女差別」は続き、当時の意欲的な女性にとって、気苦労の多い時代でした。ようやくこの10年で“こなれてきた”ように思います。かつては女性の活躍の場が限定的だったのが、最近は「男だけ」のイメージが強かった職種、たとえば電車やタクシーの運転業務にも、女性が目立つようになりました。

それに、現在の多くの職場は「女性が男性と変わらない仕事」をしています。そうなると、たとえば出張も普通にこなします。

各種の「顧客満足度調査」のビジネスホテル部門で1位に輝く「リッチモンドホテル」というビジネスホテルがあります。この会社に「最も利用する世代」を聞いたところ、「男性は40代と50代、女性は20代と30代」とのことで、統計はとっていなものの、肌感覚で女性の出張客が増えていることを感じるとのこと。朝食ビュッフェに注力し、例えば山形では山菜そばや芋煮、長崎では皿うどんなど、出張先の郷土料理が楽しめる工夫がなされています。

冒頭の「きしめん店」もそうですが、出張先のホテルでもこの世代の女性をよく見かけます。時代が流れているのを感じます。

かつて女性の職場進出が限られていた時代、男性に伍して働くため結婚や出産を犠牲にした人も多くいました。「オッサン社会の一員となるため」だったのです。冒頭に掲げた「しなやかにオッサン化する」はそれとはまったく違う意味。私はこれを消費行動のおじさん化と呼んでいます。

前回の記事(変化に強い力を磨くための3つのポイント)で紹介した、作業着専門店「ワークマン」の新業態「ワークマンプラス」が大ブレークしている事例もこの流れです。通常の店舗より女性客が多く、とくに子育て世代では機能性の高いワークマンの靴を好む人が多くいます。

■実は大盛メニューが食べたい女性の心理

こうした事例を紹介しながら、一方で気になるのは、つくり手側の「女性だから××」という、ある種の思い込み。この意識のままでいると思考停止となり、消費者とのミスマッチが生まれる結果となります。

たとえば「女性=少食(小食)」だと思っていませんか?

カフェや喫茶店を取材すると「女性客を意識したフードメニュー」をよく見かけます。内容は、パスタだったり、五穀米や十六穀米だったり、さまざまですが、気になるのは総じて量が少ないこと。人気カフェの新商品ではこんな声を聞きました。

「新メニューのパスタが出たので、試してみたのですが、量が少なくてお腹が満たされませんでした。もう頼むことはありません」(30代の企画職、50代の営業職)

別々の機会に聞いた、世代も住む場所も違う(30代は東京都、50代は兵庫県)2人の女性が同じ感想を述べたのです。これ以外にも「麺類が人気の外食チェーン店では『大盛りメニューが女性に大人気』」という話を聞きました。ふだんの会食でも、少食という女性はあまり多くはありません。

■令和は“しばり”が薄れていく時代

一方で、従来は「女性の領域」と思われてきた世界に、おじさんが進出するのもふつうになりました。同じカフェの事例でいえば「スイーツ」です。「スイーツ男子」と聞くと、まずは若い男性をイメージしそうですが、コーヒーとケーキを楽しむ中高年男性はたくさんいます。もともとそうした意識はあったのでしょうが、それが顕在化してきました。

「男女雇用機会均等法」が施行されたのと同じ1986年、『MEN’S NON-NO』(メンズノンノ)が創刊されました。人気女性誌『non-no』(ノンノ)の男性版で、「ユニセックスの着こなし」なども提唱していました。当時筆者は大学生でしたが、あるスポーツ新聞に「女性ウオッチング」記事を連載しており、この話を紹介したこともあります。

そうした時代の波に洗われた当時の若い男性が、30年たって、おじさんになった一面もあるでしょう。このように整理すると「女性だから××」「男性だから××」が薄れてきたことを感じます。いわば現代は“しばり”が薄れた時代であり、今後もその流れは続くでしょう。

今の消費者は「××だから、それはしない」という先入観を持たない。感覚的に「これは自分に合う」と思ったものを選びます。そこを見誤らないように、定量的なデータや属性ではなく、“個”からニーズを見抜く目を養うことが、ますます必要とされるでしょう。

———-高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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