ワールドカップ優勝で一躍国民的な人気となった女子サッカー「なでしこジャパン」。ロンドン五輪への出場も決め“なでしこフィーバー”は続きそうだ。これまで男子の陰に隠れながら、地道に女子サッカーを育んできた関係者らは「この盛り上がりを機に人気の定着を」と意気込む。一方、広島市では女子サッカーで町おこしをしようと、トップリーグを目指すチーム設立の動きも出てきた。 広島県立祇園北高校(広島市安佐南区)を訪ねると、グラウンドで元気いっぱい練習に励む女子サッカー選手たちの姿があった。指導しているのは、県立廿日市高校(廿日市市)で県内初の女子サッカー部を立ち上げて以来、約30年間にわたり高校女子サッカーの指導に情熱を傾けてきた奥村優之教諭(56)だ。
祇園北には部員が16人いるが、全員、中学時代にはサッカー経験がないという。女子の場合、小学生まで男子に交じって競技できるが、身体の成長に差が出始める中学生になると、競技環境がなくなってしまう。奥村教諭は「地域に受け皿がなく、県内にトップチームもないので、選手が残ってくれないのが課題だ。なでしこジャパンの活躍で人気が定着してほしい」と話す。
広島県サッカー協会によると、同県内の女子サッカーの競技人口はここ数年ほぼ横ばいで、平成23年8月時点で、高校生は239人、中学生は102人。高校のチームは11あるが、中学生だけのチームはない。
同協会は「首都圏に比べ交通が不便なこともあり、地域に社会人や高校生と合同のクラブがない場合は、県外の強豪私学に進学するしかないことも影響している」と分析している。中学進学と同時に、他の競技に移ってしまう生徒も少なくないという。
女子サッカーを取り巻く環境は厳しいが、このような現状の打破につながる動きも出てきた。
同市西区の横川商店街が「サッカーを町の活性化の起爆剤に」と創設した「広島横川スポーツ・カルチャークラブ」。NPO法人設立に向けて10日に総会を開いた。年内をめどに選手を集め、来年春から県リーグに参加する予定。「地域から愛されるチーム」を念頭に、日本女子サッカーの最高峰「プレナスなでしこリーグ」へのステップアップを図る。
同クラブの西村正事務局長(56)によると、JR横川駅がJリーグのサンフレッチェ広島の試合開催時に、スタジアムまでのシャトルバスの発着点となっていることから、サッカーとの縁が深く、「広島にも女子サッカーチームを」との機運が盛り上がった。早速、協賛に興味を示す企業も出てきた。
「チームの活動が新たな経済活動につながり、地域に夢を抱いてもらえるようになれば」と、西村事務局長は期待を寄せる。
奥村教諭も「地元で育った子たちに地域で花を咲かせてほしい」とエールを送っている。
(大宮健司)
■日本女子サッカーリーグ 1部の「プレナスなでしこリーグ」と2部の「プレナスチャレンジリーグ」からなる。1部には中・四国地方から岡山湯郷(ゆのごう)ベル(岡山県美作市)が参戦している。新規参入するためには都道府県リーグと、中国や四国などの地域リーグを勝ち抜き、運営面など全国レベルの基準を満たす必要がある。