2022年1月現在、全国で第6波を迎えており、新型コロナウイルス感染症の新規感染者が増加しています。
オミクロン株による感染ではこれまでとどういった違いがあるのでしょうか。
新型コロナの典型的な症状、持続期間、重症化のリスクなどについて現時点での知見をまとめました。
オミクロン株の感染から発症までの期間は?
従来の新型コロナウイルス、オミクロン株、インフルエンザの潜伏期の違い(筆者作成)
新型コロナでは感染してから発症するまでの期間(潜伏期)は約5日とされていました。
これはインフルエンザの約2日と比較して長い潜伏期になります。
しかし、オミクロン株ではこの潜伏期が従来の新型コロナウイルスよりも短くなっているようです。
アメリカのネブラスカ州、そしてノルウェーからの報告では、オミクロン株による感染者に接触し後に発症した人の潜伏期は約3日でした。また韓国からも平均潜伏期間は3.6日であったと報告されています。
従来の新型コロナウイルスよりも潜伏期が約2日短くなっている、ということになります。
オミクロン株の症状の特徴は?
新型コロナでよくみられる症状(CDC「新型コロナの臨床症状」より)
従来の新型コロナウイルス感染症では、
・咳、息切れ、息苦しさ
・発熱、寒気
・筋肉痛、関節痛
・嘔吐、下痢
・嗅覚・味覚異常
などの症状がみられました。
これらの症状は風邪やインフルエンザととてもよく似ていますが、息切れや嗅覚障害・味覚障害がみられることは稀ですので、嗅覚障害・味覚障害は新型コロナに特徴的な症状であり、もしあれば新型コロナの可能性を疑うきっかけになっていました。
それでは、オミクロン株による感染者の症状は、従来の新型コロナウイルスに感染した場合と異なるのでしょうか?
イギリスからオミクロン株に感染した18万人の臨床症状に関するデータが報告されました。
この調査では、デルタ株と比較してオミクロン株では「のどの痛み」が多く、「嗅覚・味覚異常」が少ないと報告されています。デルタ株と比較した、オミクロン株の感染者の症状の比較(UK Health Security Agency. technical briefing 34より)
このイギリスの調査では、のどの痛みの頻度はデルタ株の34%に対し、オミクロン株では53%に増えていました。
一方で、新型コロナの特徴的な症状とされていた嗅覚・味覚異常の頻度はデルタ株の34%に対し、オミクロン株では13%にまで減っています。
ノルウェーでは、11月下旬のパーティーに参加した117人のうち81人がオミクロン株に感染しました。
この81人の臨床症状について、それぞれの症状の頻度は、以下の通りでした。ノルウェーでの集団感染でオミクロン株に感染した81人の症状と頻度、持続期間(Euro Surveill. 2021;26(50):pii=2101147.より)
咳は従来の新型コロナでも頻度が高い症状でしたが、流行初期の新型コロナの症状の頻度と比較して、この報告では鼻水・鼻詰まり、くしゃみ、のどの痛みといった、いわゆる「かぜ症状」が多くなっています。
こうした傾向は、沖縄県でのオミクロン株による感染者50人の症状の調査でも同様のようです。
ただし、これらの報告におけるオミクロン株の感染者の多くはワクチン接種済であることから、ワクチン未接種の人の臨床症状は異なる可能性があります。
オミクロン株での無症候性感染者の頻度は?
無症候性感染者(いらすとやより)
新型コロナウイルスに感染しても症状が出ない人が一定の割合でいることが分かっており無症候性感染者と呼ばれています。
従来の新型コロナウイルスでは、子どもの約半分、成人の3分の1、高齢者の5人に1人が無症候性感染者と報告されています。
オミクロン株による感染者では、どれくらいの人が無症候性感染者になるのかについては、いくつか報告が出ています。
・日本国内で12月27日までに診断されたオミクロン株による感染者109例のうち29例(27%)が経過中無症状で経過した
・沖縄県でのオミクロン株による感染者50名のうち、4%が無症状だった
・デンマークの初期の感染者785例のうち、20%が無症状だった
・ノルウェーの集団感染例81人のうち、1人(1.2%)のみが無症状だった
ということで、現時点では報告によって様々です。
なお東京都の新規感染者数の中に占める無症候性感染者の割合は、直近では1割未満となっていますが、これはオミクロン株の実際の無症候性感染者の割合が1割未満であるということではなく、検査の充足率なども加味されるため単純な評価はできません。
また、無症候性感染者の頻度はウイルスそのものの性質だけでなく、感染者の免疫の状態(ワクチン接種済、過去の感染など)によっても変わってくると考えられます。
オミクロン株ではワクチン接種者も感染しうる
大阪府で診断されたオミクロン株の感染者のワクチン接種状況(大阪府公表データより)
オミクロン株に感染した人の特徴として、デルタ株などの従来の新型コロナウイルスと比較して、ワクチン接種者や過去に新型コロナに罹ったことがある人が占める割合が高いことが上げられます。
その一例として、
・大阪府で2021年12月14日から2022年1月4日までにオミクロン株に感染した145人のうち、57%が2回以上ワクチン接種済であった
・12月27日までに日本国内で診断されたオミクロン株の感染者109人のうち86人(79%)がワクチン接種済であった
・デンマークでは、デルタ株の感染者のうちワクチン接種済の人は48.4%、過去に新型コロナに罹ったことのある人は0.8%であったのに対し、オミクロン株の感染者のうちワクチン接種済の人は76.3%、過去に新型コロナに罹ったことのある人は4.3%であった
・ノルウェーの集団感染事例では、96%がワクチン接種済であった
などの事例が報告されています。
これは、過去にワクチン接種や新型コロナウイルスへの感染によって得られた免疫は、オミクロン株への感染を防ぐ効果が低いことを意味します。
2回のワクチン接種を完了している人、過去に新型コロナに罹ったことのある人もオミクロン株に感染しうるということを知っておきましょう。
ただし、ワクチン接種や過去の感染によって得られた免疫が全く役に立たないということではなく、オミクロン株で多くの人が軽症で済んでいるのはワクチン接種や過去の感染によって得られた免疫の効果が理由の一つとして挙げられます。
まだ2回のワクチン接種を完了していない人は、ぜひ今からでもワクチン接種をご検討ください。
オミクロン株による重症化リスクは?
オミクロン株は、従来の新型コロナウイルスよりも重症化しにくいという報告が増えています。
・デルタ株と比較して、オミクロン株の感染者の入院リスクは約3分の1(イギリス)
・デルタ株と比較して、オミクロン株の感染者の入院リスクは0.2倍、重症化リスクは0.3倍(南アフリカ)
・デルタ株と比較して、オミクロン株の感染者のICU入室リスクは0.26倍、死亡リスクは0.09倍(アメリカ)
また、ワクチン接種の有無によっても重症度が異なることも分かってきています。
イギリスにおけるオミクロン株による感染者は、
・ワクチン未接種者では、デルタ株と比較して入院リスクが0.76倍
ワクチン未接種者と比較して、
・ワクチン2回接種者で入院リスクが65%減少
・ワクチン3回接種者で入院リスクが81%減少
となっており、ワクチン接種者では明らかに重症化しにくい一方で、ワクチン未接種の方は、ワクチン接種者と比較するとデルタ株との重症度の差が小さくなっています。
ワクチン接種歴のある人は重症化しにくい、という知見はデルタ株のときから変わりありません。
オミクロン株感染者も重症化しないわけではない
以上のように、オミクロン株では従来の新型コロナウイルスと比較して、
・潜伏期が短い
・のどの痛みが多く、嗅覚・味覚異常が少ない
・ワクチン接種をしている人も感染しやすい
・デルタ株と比較して重症化リスクは低く、特にワクチン接種歴のある人では重症化しにくい
といった特徴があります。
かぜ症状であっても新型コロナの可能性がありますので、軽い症状であっても病院を受診し検査を受けるようにしましょう(症状のある方は市販の抗原検査キットも参考になります)。
また検査が陰性であっても体調が悪いときは無理をして働かないようにしましょう。
重症化リスクが低い、と言っても全く重症化しないわけではなく、日本国内でも亡くなった方が報告されています。特にワクチンを接種していない人、持病のある人や高齢者にとってはまだまだ危険な感染症です。ニューヨーク市におけるワクチン接種歴別のオミクロン株感染者の入院率(Omicron Variant: NYC Report for January 13, 2022)
ニューヨーク市では、オミクロン株の拡大によって感染者が爆発的に増加しましたが、ワクチン未接種者では入院率が高いと報告されています。ニューヨーク市におけるワクチン接種歴別のオミクロン株感染者の入院率(Omicron Variant: NYC Report for January 13, 2022)
また、年齢が高くなるほど入院率が高くなっており、これまで通り高齢者で重症化しやすいという傾向は変わりません。
新型コロナに感染した際に重症化しやすい持病(基礎疾患)は、
・悪性腫瘍
・慢性閉塞性肺疾患 (COPD)
・慢性腎臓病
・2型糖尿病
・高血圧
・脂質異常症
・肥満 (BMI 30以上)
・喫煙
・固形臓器移植後の免疫不全
・妊娠後期
・男性
であり、オミクロン株になっても変わらないと考えられます。
また、感染者が爆発的に増えてしまえば、重症化リスクは低くなったとしても重症者は増えてしまうことになります。ニューヨーク市における、入院患者数、ICU入室患者数、人工呼吸器使用患者数の推移(Omicron Variant: NYC Report for January 13, 2022)
すでにオミクロン株が拡大しているニューヨーク市では、過去最多であった昨年冬の入院患者数を超えており病床が逼迫しています。
ICU患者もピーク時に近い水準に達しています。
さらに、極めて感染力の強いオミクロン株が市中で広がることで、全国的に医療従事者の感染者や濃厚接触者が増え病院機能の維持が困難になっていますが、これにより新型コロナ以外の医療にも影響が出る可能性があります。
手洗い、3つの密を避ける、マスクを着用するなどの基本的な感染対策をこれまで通りしっかりと続けるようにしましょう。
ご自身や周りの人を守るためにも、まだワクチンを接種していない方はぜひ接種をご検討ください。手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)