「ふるさと納税」でDMMマネー贈呈が話題 制度の趣旨とズレはある?

「ふるさと納 税」の特典が注目されています。来年度には制度も拡充もされる見通しとなっており、さらなる利用が予想されます。一方で、特典によって寄付金額が大きく左 右される傾向であるため、自治体間で“特典競争”が生まれている向きもあります。ふるさとの応援と特典によるお返しのバランスはどうなっているでしょう か。

【写真】「ふるさと納税」制度の拡充へ その狙いとは?

実際は自治体への「寄付行為」

 ふるさと納税の特典をめぐっては、「DMM」が発祥の地・石川県加賀市へのふるさと納税の受け付けを始めましたことが話題になっています。同社を通して ふるさと納税を寄付すると、50%分の電子マネー(DMMマネー)が同市より贈呈されます。ほかにも「株式会社マウスコンピューター」は、長野県飯山市の 「ふるさと納税」の特典に、同市の自社工場で製作したデスクトップPC、ノートPC、タブレットPC、液晶ディスプレイを提供。「日本一ソフトウェア」 は、所在地である岐阜県各務原市に、同社のゲームソフトを特典として提供しています。

ふるさと納税は「納税」という文言が入っていますが、実際には地方自治体への寄付行為です。具体的には2000円を超える寄付を行ったときに、住民税のおよそ1割程度が所得税から還付、住民税から控除されます。

ただし、寄付をする人の収入や家族構成に応じて還付・控除額が変わります。例えば、年収350万円の一人暮らしであれば、2000円負担で済むのは2万 円の寄付まで(2万円の寄付で18000円の控除)。2万5000円だと控除額は1万9100円となりますので、5900円の自己負担となります。

うまく使えば、2000円の負担で特産品がもらえるわけです。そのため、ふるさとを応援するためではなく、特産品目当てでふるさと納税をするというケースもあるわけです。

寄付金総額は増加傾向

 総務省によると、寄付金の総額は、72億5995万8000円(2009年度)、65億5318万3000円(2010年度)、67億859万円 (2011年度)、649億1490万1000円(2012年度)、130億1127万8000円(2013年度)と推移しています。12年度の寄付金が 突出していますが、メディアなどでの特集が組まれ特典が注目された時期だったという点もあるでしょう。いずれにしろ、認知度は高まり、寄付額は増加傾向に あります。

この傾向を受けて、政府はふるさと納税の拡充を1月14日に閣議決定した今年度の税制改正の大綱に盛り込みました。ふるさと納税について、概要では次のように書かれています。

・特例控除額の拡充(上限:個人住民税所得割額の1割⇒2割)
・返礼品送付について、寄附金控除の趣旨を踏まえた良識ある対応の要請
・申告手続の簡素化(確定申告不要な給与所得者等がふるさと納税を行う場合、ワンストップで控除を受けられる仕組みを導入)

この先、寄付金額はさらに増えていくでしょう。ただし、2項目にあるように特典については「要請」があります。

「税制改革大綱で強制力はありませんが、『寄付控除の趣旨を踏まえた良識ある対応を要請する』と一文を盛り込みました。返礼品は税とは違う議論で強制力の あることはできません。各自治体が御礼の品ということで予算を作り贈っているわけですから、総務省としては意見を言うべき立場にはないのです」(総務省市 町村税課)

「ふるさと」を応援するのが趣旨

 実際に次のような指摘が2007年に行われたふるさと納税研究会の報告書にあります。
「寄付を集めるため、地方団体が寄付者に対して特産品などの贈与を約束したり、高額所得者で過去に居住していた者などに対して個別・直接的な勧誘活動を強 く行うなど、『ふるさと納税』制度を濫用する恐れへの懸念もある。過度な濫用を防止するため、一定の制度的措置を講ずる必要がある(中略)このような事態 は、基本的には各地方団体の良識によって自制されるべきものであり、懸念があるからといって直ちに法令上の規制の設定が必要ということにはならないと考え られる」

ふるさと納税の趣旨は、「ふるさと」の取り組みを応援したい個人が、そのふるさとに寄付をすると、その一部を本来納めるべき自分の居住する自治体への税 から引いてもらうというものです。ふるさとは出生地や過去の居住地に限らず、歴史や文化のある地域や旅行などで縁ができた地域、将来暮らしてみたい地域、 食べてみたい作物が取れる地域など、何かしらの思いがある地域とされます。ふるさと納税により、その地域に貢献したい、応援したいという思いが実現できる というわけです。その点では、派手な特典で“釣る”というのは、あまり良識のある取り組みとはいえないのかもしれません。

自治体にとっては「新たな税収」

 しかし、多くの地方自治体はふるさと納税を新たな収入と見込んでいます。特典で注目を集めれば、地方の小さな自治体に数百万~億単位の寄付金が入ってく るからです。そのため、インパクトのある新たな特典を求めているというのが現状です。言い換えれば、自治体の“特典競争”になっているともいえるのです。

しかし、寄付金が増えたからといって、そのお金を市の政策にフリーハンドで使えるわけではありません。寄付の際には寄付金をどう活用してほしいか選択で きる仕組みになっていて、寄付者が選択した政策以外にその寄付金は使えないことになっています。各務原市の場合は「7つの応援メニュー」として次があげら れています。

(1)安全安心の都市づくり応援、(2)未来を担う人づくり応援、(3)人にやさしい都市づくり応援、(4)豊かな文化創造力を育む都市づくり応援、(5)産業活力創造都市づくり応援、(6)未来への基盤づくり応援、(7)各務原市まるごと応援

(7)に関しては「市が挑戦するさまざまな事業に活用させていただきます」とあるので、行政側からすると汎用性が高いかもしれませんが、それでも“まち づくり事業に活用する”という縛りはあります。そうなると湧いてくる疑問が、特典の予算はどこから来ているのかというものです。

特典の予算はどこから出る?

 ふるさと納税の代行サービス事業者は次のように語ります。
「ウチはふるさと納税の代行業をやっていますが、自治体からは寄付金の20%がもらえます。サービスとしては、特典の開発のために地元の農家さんと交渉するところから、特典やお礼状の発送業務まで代行するというものです」

この事業者への20%分の費用は、一般会計で寄付金とは別に計上されているところから出ることになります。例えば、日本一ソフトウェアの特典のある各務 原市の場合、2015年度予算案では「ふるさと納税啓発事業」として、1億2637万6000円が計上されています。同市の2015年度の応援寄付金は1 億2497万7000円(8188件)ですから、ほぼ全額が特典などの費用に消えているといえます。

同じように、マウスコンピューターの特典がある飯山市は、2014年度当初予算で「ふるさと寄付金推進事業」として1億190万7000円を計上し、 「ふるさと寄付金推進経費」と説明しています。これがパソコンや液晶ディスプレイなどの購入に当てられるわけです。ある意味、税金で地元企業や農家の商品 を購入するわけですから、事業者にとっても旨味のある政策なのかもしれません。

都市部がふるさと納税の負担担う

 しかし、寄付をする人が実際に住む自治体にとっては、本来入ってくるはずの住民税などを返却しなければならないので、その自治体の税収自体は減ります。 住んでいる自治体の公共サービスを維持するのは税金ですから、ふるさと納税の拡充が進むと受益と負担のアンバランスが発生する可能性もあります。

特に都市部では、その控除する額が大きく、東京都は12億2812万3000円で、控除全額45億2632万3000円のおよそ4分の1にあたります。 トップ5(東京都、神奈川県、大阪府、千葉県、愛知県)の合計は25億4015万9000円で全体の約56%。都市部の自治体がふるさと納税の負担を担っ ているともいえるのです。しかし、国全体の収支で見るとふるさと納税が活発化することはプラスになるといいます。

「仮に1万円の寄付をした場合、控除は8000円となりますので、国全体としての収入は2000円アップすることになります。そういう意味で、ふるさと納税が活発化するということは全体的な収入アップにはつながりるといえますね」(総務省市町村税課)

個人が寄付する分には、損することはあまりないふるさと納税。一度試してみてもいいかもしれません。

(ライター・宇城健弘)

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