10月17日、福島県南会津町にある南郷スキー場のツイートが注目を集め、一気に拡散した。「毎年のお願い」と題し、ポスターの写真を1枚添えた“つぶやき”。「南郷スキー場を助けてください…」「めっちゃ、不便」「ぶっちゃけ、つぶれそう」-。ポスターには自虐的な言葉が並んでいた。
アップしたのは同スキー場の支配人、星秀則さん(59)。「午後5時過ぎに上げて、午後6時には『いいね!』が1万になった」(星さん)が「今も理由は分からない」という。問い合わせが相次ぎ、複数のマスコミ取材も受けた。2カ月後には「いいね!」が7万6千を超えた。
実はこのポスター、作ったのは昨年秋だった。南会津町の友好都市、東京都台東区やさいたま市などとのイベント用で制作は町役場の男性職員。依頼する際に星さんが伝えた条件は「来場者に足を止めてもらえるポスター」の一点だった。
背景には利用客減少への危機感があった。南郷スキー場の来場者は平成4年度の約12万6千人をピークに減少傾向に。23年度以降は4万人前後で推移していた。ところが30年度は、スキー教室の利用減が響き2万7千人余りに急落した。
昨年、起死回生を狙った“自虐ポスター”だったが注目されなかった。それどころか「90歳の老人が『記憶にない』という雪不足」(星さん)。営業わずか38日で閉鎖を余儀なくされる前例のない事態に陥った。
南郷スキー場が開設されたのは昭和51年。当時、一帯では農閑期に出稼ぎを行っていた。スキー場は冬場の雇用確保の切り札。今も南会津町には不可欠で「夏は特産の南郷トマトを作り、冬はスキー場で働く人が多い。絶対に残したい」。星さんの思いは強い。
雪の季節を前に例年、首都圏でさまざまなイベントが繰り広げられる。南郷スキー場は情報発信に積極的だが「10月17日は何もないので、とりあえずツイートした」(星さん)のが真相だったという。
ポスターが話題になって以降、イベント会場で「見たよ!」と声がかかるなど反響は上々。星さんは「コロナ禍でみんな大変なためか『応援する』という言葉が多く寄せられる。スキーに興味がない人にも拡散し、うれしい想定外」と話す。スキー場併設のホテルは、雪のなかった11月でも「Go To トラベル」効果も手伝い、昨年を上回る観光客が訪れたという。
スキーとスノーボードの指導者でもある星さんは「東北道・西那須野塩原、白河、常磐道・会津若松と3つの最寄りのインターチェンジからいずれも約80キロ、2時間以上かかる日本一不便なスキー場」と苦笑いするが「雪質もコースも自信はある。少しでも増えてくれれば…」とスキー客の増加に期待する。今シーズンはコロナ対策を施し、細心の注意を払いながらの営業になる。
記者も星さんと同世代でスキーを始めて半世紀以上たつ。次は雪道のアクセスやゲレンデを実際に体験し、その魅力に迫りたい。(芹沢伸生)