今年の春はマスクを着けずに花見の宴会を楽しんだ人も多いだろう。緊急事態宣言下の緊張感は記憶から薄れ、新型コロナウイルス出現前の日常が戻ってきた。
「新型コロナはただの風邪」と考える人も多いが、本当にそういえるのか。
【※本記事は、宮坂昌之・定岡知彦『ウイルスはそこにいる』から抜粋・編集したものです。】
からだに潜む新型コロナウイルス
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」というが、日本では大流行していた新型コロナウイルス感染症が収まりつつあり、パンデミックの恐怖はすでに忘れ去られたかのようである。このまま、この感染症は本当に消えていくのだろうか?
いや、そうではない。2019年のパンデミック発生後、流行がいったん収まったかと思うと、ベータ株、デルタ株、イプシロン株、オミクロン株など新しく変異をした株が入れ代わり立ち代わり現れて猛威を振るったことは記憶に新しい。今後も感染の波が収束したとしても、しばらくすると、新たな感染の波が押し寄せる。これからも、この繰り返しが延々と続くはずだ。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はRNAウイルスの一種で、世界中に感染流行を起こした。これまでに約7億人が感染し、少なくとも700万人の死者が出ている。死者数総計約700万人という数字は公的なデータによるものであるが、実際はそれよりも数倍多いと推測されている。
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もしこれが事実であれば、2020~2023年の4年間についていえば、新型コロナウイルス感染症だけで毎年約700万人近い死者が出ていたことになる。
世界保健機構(WHO)の統計によると、2019年度の世界死因別トップは虚血性心疾患で死者数が約900万人、第2位が脳卒中で死者数が約600万人であることから、新型コロナウイルス感染症は、脳卒中を抜き去り、世界第2位を占める死因になったということになる。
このウイルスの同定後まもなく、当時のアメリカのトランプ大統領が「このウイルスは風邪ウイルスのような弱いものだ。たいしたことがない。すぐに消えるはず」という旨のことを言ったが、その後の経過はこれとは大きく異なっている。
いっこうに死者が減らない謎
新型コロナウイルス感染症による死者が多いのは、このウイルスが生体防御の搦め手を逃れる「すべ」を持っているからだ。
2019年末にSARS-CoV-2が中国・武漢で初めて同定された後、次々に変異株が出現し、2021年からはオミクロン株が現れ、現在でも世界レベルでは相変わらず多くの感染者と死者を生み出している。
日本の状況を見ると、SARS-CoV-2が国内に入ってきた当初は感染による致死率が5%以上もあった。しかし、その後、ワクチン接種が始まり、さまざまな治療法が行われるようになってからは致死率がぐんと低下して2%を切るようになり、オミクロン株になってからはさらに致死率が下がって、現在では当初の25分の1程度(=0.2%程度)となっている。
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これは、ウイルスの病原性が下がったことに加えて、ワクチン接種が広く行われ、治療法が確立したこと、そして、感染者の早期隔離とともに、「3密を避ける」「換気をする」「マスクを着用する」などの、このウイルスに対する有効な防御方法がわかってきたからと考えられる。
病原性の低下によって、「もはや新型コロナはただの風邪。恐るるに足らず」と考える人も多い。しかし、感染者数と死亡者数の推移を見ると、まったくもって楽観的な状況ではないことがわかる。
変異株の出現とともにウイルスの感染性が以前よりも増し、さらにワクチンの効果が下がってきたこともあり、日本では新たな感染の波が現れるたびに一日あたりの感染者数が増え、死亡者数も増加の一途をたどってきた。
ウイルスの病原性が下がっているのに、どうして感染者、重症者、死亡者の増加が防げないのだろうか。
これにはいくつかの理由が複合的に働いている。もっとも大きいのが、SARS-CoV-2ウイルスの産物(=種々のウイルスタンパク質)が宿主の免疫を抑える能力を持っており、からだの自然免疫も獲得免疫も働きにくいような状況、環境を作り上げているからである。
これに加えて、このウイルスは非常に速く変異が起こるので、当初効果が高かったワクチンが次第に効きにくくなっている。同様に、過去の新型コロナ感染で得られた免疫も新たな変異株に対して、予防効果が低下している。これらのことが複合的に働いているために、感染を予防することが困難なウイルスとなっている。