「わずか10秒で新型コロナの感染力が低下する」大学教授が予防効果アリと期待する紅茶

新型コロナウイルスの感染予防にはどんな対策が有効なのか。大阪府立大学の山崎伸二教授は「紅茶には感染予防効果があると考えられる。日常的に『ちょこちょこ飲み』を続けることで、手軽で安価な対策になるはずだ」という――。 【この記事の画像を見る】

■新型コロナに求められるのは「手軽で安価な対策」  新型コロナウイルスの世界的流行からはや2年が経ちました。日本でも感染拡大の波が幾度も押し寄せ、私たちの生活は一変させられました。  ワクチンや治療薬の開発が進む一方で、いまだに症状のメカニズムや有用な治療法は確立されていません。集団免疫を得るにはまだ程遠い状況です。一時的に収束しても、すぐに感染力の強い変異株が現れ、今後も感染の再拡大が懸念されています。  今、世界で求められているのが、ウイルスの拡散を防ぐための手軽で安価な対策です。  そこで、我々が着目したのが「紅茶」です。  「紅茶」は、比較的安価で手に入れやすく、世界中で多くの人々に愛されています。私たちの生活に深く浸透している飲み物だと言えます。  なぜ紅茶に着目したのかというと、「紅茶ポリフェノールがインフルエンザウイルスの感染力を減少させる」という研究結果がすでにあったからです。  新型コロナウイルスも、インフルエンザウイルスも、「エンベロープ」という膜を持っているウイルスです。それゆえ、新型コロナウイルスにも効果が期待できるのではないかと予測し、2020年10月に大阪大学、大阪府立大学、三井農林の三者共同による、新型コロナウイルスに対する紅茶の抗ウイルス活性の研究をスタートさせました。

■紅茶に含まれるポリフェノールが新型コロナの感染力を減少させる  先に結論からお話しすると、紅茶の効果についてわかったことは、大きく分けて2点あります。  1点目は、市販のティーバッグでいれた紅茶で新型コロナウイルスを処理すると、わずか10秒でウイルス感染力価(細胞に感染するウイルス数の指標)が減少すること。2点目は、通常の飲用濃度よりも低い濃度の紅茶でも新型コロナウイルス感染力価は減少するということです。  次に、どのような実験を行ったのかについて説明しましょう。  今回調べたのは、①それぞれ異なる茶ポリフェノールの水溶液20種、②粉末緑茶溶液、③粉末紅茶溶液、④紅茶のティーバッグ抽出液――の4種類の溶液です。それぞれを新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と一定時間作用させることで、抗ウイルス活性を調べました。  抗ウイルス効果が認められたのは、②粉末緑茶溶液(通常の飲用濃度の1/5)、③粉末紅茶溶液(同1/3)、④紅茶ティーバッグ抽出液(同1/2)の3つの溶液でした。いずれも、新型コロナウイルスの感染力価を減少させました。このことから、濃度の低い緑茶や紅茶でもウイルスの感染力価を減少させることがわかりました。  一方で、①20種類の「茶ポリフェノール溶液」では、新型コロナウイルスの感染力価はあまり低下しませんでした。正直、この結果は我々にとって予想外でした。20種類のポリフェノールの中で1番強い抗ウイルス活性を示すものを見つけようと考えていたからです。  ①以外の溶液でウイルス感染力価が減少した理由としては、それぞれ①のポリフェノール単体よりも、②、③、④のように複数のポリフェノールが存在することで、より強い効果を発揮したためと考えられます。漢方薬と同じ考え方で、精製品よりも天然のままの方が高い効能を示すことを再認識させられました。

■わずか10秒でウイルスの感染力が10万分の1に激減  次に、②、③、④を新型コロナウイルスと作用させる時間を変えて評価しました。溶液の温度は、いずれも25℃としました。  図表1がその結果です。 左に示した青い棒は、何も作用させなかった時に新型コロナウイルスの感染力価が1mLあたり107 あったことを示しています。緑の棒は粉末緑茶溶液とウイルスを30分作用させた後に残っていたウイルスの感染力価を示しています。茶色と焦茶色はそれぞれ粉末紅茶溶液と紅茶ティーバッグ抽出液と新型コロナウイルスを10秒、30秒、1分、5分作用させた後に残っていたウイルスの感染力価を示しています。 粉末緑茶溶液では、新型コロナウイルスの感染力価を減少させる、つまり、感染力を持つウイルスの数を10万分の1まで減少させるのに10分間必要でした。それに対して、粉末紅茶溶液と紅茶ティーバッグ抽出液では、共にわずか10秒しかかかりませんでした。  これが「わずか10秒ほどで新型コロナウイルスを不活化する」という根拠です。

■紅茶を飲むことで免疫力がアップする  ところで、感染症対策としては免疫力を高めることも重要です。  紅茶を継続的に飲むことで、ウイルスに侵された細胞を攻撃するNK(ナチュラルキラー)細胞の活性が高まり、唾液中の分泌型の抗体(SlgA)濃度が増加する、つまり免疫力が高まるという研究結果があります。  20歳~60歳の72人を対象とした臨床試験では、1日3杯の紅茶を12週間継続して飲み続けたところ、風邪をひきにくくなり、ひいても重症化しにくくなったとの報告もあります。  免疫力アップの観点からも、紅茶は注目されています。

■飛沫感染予防には紅茶の「ちょこちょこ飲み」

 ウイルスと細菌の違いをわかっている人は少ないのではないでしょうか。

 細菌は自己複製能力を有しますが、ウイルスは生物ではないので、人間や動物の細胞内のみでしか増殖できません。

 新型コロナウイルスもウイルスですので、人間の体内、細胞の中に入らない限り増殖できません。

 飛沫感染やエアロゾル感染と言われるように、感染した人の唾液がほかの人の体内に入ることで新型コロナウイルスが増殖し、他の人に感染させてしまいます。

 つまり、唾液中のウイルスを不活化する、あるいは体内に入れないようにすることが、最大の感染防止策になるのです。

 「紅茶」を飲むことで、新型コロナウイルス感染者の口腔内でウイルスが減少すれば、飛沫による人から人への感染リスクを低下させることが期待できます。

 家庭で飲むのはもちろん、飲食店で食事をする際に紅茶を飲むようにすると、感染リスクを低減させることができるでしょう。

 「紅茶を飲むと、ポリフェノールが口腔内で10分程度は残る」という研究結果があります。

 ですので、一度にたくさんの量を飲むのではなく、少しずつでもいいので飲む頻度を上げる「ちょこちょこ飲み」が感染対策としてはより有効といえるでしょう。

 また、紅茶にはカフェインが含まれていますが、カフェインレスの紅茶でも、効果は変わらないことが確認されています。カフェインが苦手な人や妊産婦さん、小さいお子さんは、カフェインレスの紅茶を選ぶといいでしょう。

■今後は感染者への実証実験も検討

 新型コロナウイルスの感染対策を究明することは、今や世界中の研究者たちの社会的使命といえます。我々も少しでも早く成果を届けられるよう、スピード感を持って研究に臨みました。

 今回の実験には、国立感染症研究所から分与していただいた新型コロナウイルスを使用しました。

 研究室で培養して実験を行っていたのですが、医療従事者の方を優先しなければならないため、防護服などを入手するのにもとても苦労しました。万が一にも研究者が感染することがないよう、最大限の注意を払いながら実験を行わねばならず、精神的にタフさを求められました。

 しかし、実験はこれで終わりではありません。

 今分かっていることは、「夾雑物(異物)がほとんどない条件下で紅茶がウイルスの感染力を低下させる」までです。次のステップとして、唾液中でも同様に紅茶がコロナウイルスの感染力を低減するのか、新型コロナウイルスに感染した人の唾液中でも、紅茶がウイルスの感染力を低減するのかを確認していく必要があります。実際に新型コロナウイルスに感染した人、発症した人などに紅茶を飲んでいただき、唾液中のウイルスがどれだけ減少するかという実証実験を検討しています。

 第6波が猛威を奮っていますが、世界と比べると感染者が比較的少ない日本国内での実証実験は難しいかもしれません。海外の研究者との共同実験も視野に入れています。

■マスクや手洗いなどの基本的な感染対策との組み合わせを

 最後に、当然のことですが、紅茶は薬ではありません。

 紅茶を飲めば、ほかの対策はもうしなくてもいいということにはなりません。

 紅茶を飲むことで口腔内のウイルスを減少させることは期待できますが、鼻から上気道に入ってくるウイルスを防ぐことはできません。

 ワクチン、マスク、手洗い、換気などの基本的な対策をしっかり行いながら、紅茶を自分でできる手軽で安価な、プラスアルファの対策として取り入れてほしいと思っています。

 新型コロナウイルスは、無症状感染が多いことが大きな特徴です。「自分がもし感染していたとしても、人には感染させない」という意識がとても大切です。

 紅茶の「ちょこちょこ飲み」を日常的に取り入れて、飛沫感染やエアロゾル感染を防ぐことが期待できます。ぜひ試してください。


山崎 伸二(やまさき・しんじ)
大阪府立大学生命環境科学研究科教授

1961年、大阪府生まれ。京都大学医学部 助手、ドイツ国立動物ウイルス病研究センター フンボルト財団奨学研究生、国立国際医療研究センター研究所室長などを経て、2001年より現職。医学博士。専門は細菌学、感染症制御学。主な著書に『腸管出血性大腸菌(O157を中心に)、食中毒予防必携、第2版』、(社団法人 日本食品衛生協会)などがある。
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