「イクメン」を増やそう 変わるか日本の企業風土

【ゆうゆうLife】働き方が変わる?(下)
 6月30日、父親の育児参加を盛り込んだ改正育児・介護休業法が施行される。目指すのは、“イケメン”ならぬ“イクメン”(育児を楽しむ男性)の増加。妻が働いているかどうかにかかわらず、男性が家庭や地域にも居場所を得て、多様な生き方の選択・実現を支援する。「創設以来、最大」という同法の改正で、日本の企業風土はどう変わるのか。(牛田久美)
 今改正を担当した厚生労働省職業家庭両立課の山口正行補佐(33)は昨秋、長男、率(りつ)くんの誕生後、1カ月の育児休業を取った。
 「『イクメンになろう』と呼びかける仕事をしているのに、いつの間にか仕事の比重が大きくなっていたことに休んでみて気付いた」
 今春、首長初の育児休業を取得した成沢広修(ひろのぶ)・文京区長(44)は復帰後、「本を開く余裕がなかった」。山口補佐も「慌しくも楽しい毎日で、自宅へ持ち帰った資料を一枚もめくることができなかった」と笑う。
 父親がそばにいることで喜んだのは当時6歳だった長女、響(ひびき)ちゃん。幼稚園へ送迎したり、公園で一緒に遊んだりした。「こんなに密に接することができて、ぼくもうれしかった」。育休の取得で、家族4人の新しい出発点に立つことができた。
 定年退職後のちょっとした予行演習にもなったという。「仕事一筋の生活から離れたことで、自分の活動エリアは仕事だけではなく、家族や子供を通じてつながる地域にもあることを実感しました」
 ■出生率を上げ労働力も確保
 「社会で決定権を持つ立場で、子供が生まれ育つ全プロセスを知る男性が増えれば働きやすくなる」
 出産や復職支援を行うバースセンス研究所長の大葉ナナコさんは、商社員や外交官ら忙しい30代の夫婦など年間2千人の復職前後の相談に乗る。改正育児・介護休業法の施行で企業の風土が変わることを期待する。
 「日産自動車のカルロス・ゴーン社長すら娘の誕生日には会社を休む。日本では里帰り出産など、夫婦が助け合うべきときに離れて過ごす孤独な育児。少子高齢時代は女性が出産後も働いて社会保障を支える。意識面でも、生活を犠牲に働く高度経済成長期のOS(基本ソフト)から、仕事も家庭も充実するという21世紀のOSに入れ替えたいですね」
 改正の背景として、山口補佐が挙げるのは日本の現実だ。
 平成4年の育児休業法(現育児・介護休業法)施行以来、女性の取得率は年々上がっている。厚労省が企業に行った調査で、平成19年度に出産し、継続して働いている人で育休を取った人は初めて9割を超えた。仕事と育児の両立は進んだかのようにみえる。
 ところが、この中には出産による退職者は含まれていない。別の調査では、仕事を持っていた女性のうち、第1子出産前後に仕事を辞めた人は実に7割に上る。「育児休業制度は徐々に浸透しているが、この20年間、出産で仕事を辞める女性の割合はほとんど変わっていない。働きたいと希望していた人も多く、復職後に柔軟に働ける制度があれば辞めなかったかもしれない」(山口補佐)
 今回の改正は、復職後も柔軟に働けるよう「短時間勤務」「残業の免除」を義務化。男性の育休取得の促進策も盛り込んだ=表。働く女性が出産後も仕事を辞めなくてすめば出生率も上がり、労働力も確保。そして、子供たちは未来の社会保障制度の支え手になる。
 厚労省成年者縦断調査によると、夫が休日に家事・育児をする時間が長いほど5年間での第2子以降の出生率が高い。一方、総務省の調査では、19年までの5年間に介護で離職・転職した人は約50万人に達した。その6割が企業で重要な役割を占める40~50代。10年後には団塊世代は70代になり、働きながら親を介護する時代が、男女、未既婚の別を問わずやってくる。
 山口補佐は「生活と仕事の調和を目指すワークライフバランスの実現には男性の取り組みもカギ。男性が育児休業を取ることは、わずかな期間でもその後の働き方に良い影響がある」と指摘している。
【用語解説】改正育児・介護休業法
 3歳未満の子を持つ親が1日原則6時間の勤務を可能にする制度導入を企業に義務付け、従業員の希望で残業を免除することを明記。父親の育休取得を促すため、両親がともに休む場合、現行の子供が「1歳になるまで」から「1歳2カ月まで」に延長。子供の看護休暇を拡充し、年5~10日の介護休暇も創設した。

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