「ウナギ、なぜ安い?」いきなり急増「鰻の成瀬」に専門家が警告…安さの《カラクリ》と味の《落とし穴》

全国150店舗、香港にも出店

うだるような暑さが続くと、食べたくなってくるのがウナギ。しかし、今年の土用の丑の日は、例年以上に財布に厳しくなりそうだ。

’24年度(’23年12月~’24年4月頃)における日本や中国など東アジアで獲れた二ホンウナギの稚魚は約33トン。前年度比で3割減と低水準にとどまった。稚魚相場は1kgあたり約250万円ほどに高止まり、さらに円安や光熱費の高騰も相まって、ウナギのかば焼きの輸入価格は、去年より2~3割値上げとなる見込みだ。

今や「うな重は5000円以上」もすっかり当たり前、庶民からはどんどん遠のいていく――。そんなご時世に、創業からわずか約1年半で全国に約150店舗を展開するまでに急成長を遂げるウナギ専門店がある。「鰻の成瀬」だ。

その勢いを示すように、今年6月6日には海外一号店となる香港店もオープンしている。既にリピート客も出てくるなど、日本人のみならず外国人からの支持も集めているようだ。

そんな「鰻の成瀬」の人気の秘訣は、何と言っても、〈手が届きやすい価格〉でウナギを〈お腹いっぱい食べられる〉点だろう。

価格は半額程度で量は1.5倍

同チェーンを運営するフランチャイズビジネスインキュベーション(株)の山本昌弘代表取締役社長は雑誌の取材で、成功要因をこう語っている。

「ウナギ専門店の市場は客単価5000円前後の老舗ウナギ店と、ワンコインでうな丼を提供するチェーン店にはっきり分かれており、その中間ゾーンがぽっかりと空いています。そこを突くべく客単価2500円を設定しました」(『月刊食堂 2024年5月号』より引用)

メニューを見ると、ウナギの分量が違う「うな重」松竹梅と、ご飯大盛り(100円)だけと実にシンプルな構成だ。真ん中の価格帯である「うな重 竹」は、ウナギ4分の3尾分がのって2200円。老舗ウナギ店の相場と比べると「価格は半額程度で、量は1.5倍」というおトク感が際立つ。

では、どのようにして「鰻の成瀬」は、値上がりが止まらないウナギをリーズナブルに提供できているのか。外食専門コンサルタントの永田雅乙氏が解説する、

「『鰻の成瀬』で使われているウナギは、昔から親しまれている品種・ニホンウナギですが、中国の養鰻場から仕入れています。これは山本社長が以前お世話になっていた、ウナギ専門店『うなたん』を運営するutechnologies社と同じルート。両社が手を組む形で供給を受けており、安定かつ安価で仕入れることができているわけです」

職人いらず、ボタン1つで完成

また、高級店では骨の軟らかい若いウナギを仕入れることが多いのに対し、「鰻の成瀬」では、成長し、脂の乗った大き目のウナギを調達しているという。こうすることで、ウナギ1匹からより多くの可食部を得ており、ムダなくボリュームを高めることにつながっているのだ。

さらに、他の店舗と比べて運営にかかる固定費を抑えているのも、低価格につながる秘密だ。永田氏が続ける。

「ウナギは蒲焼きに加工された状態で各店に運ばれ、あとは独自開発のウナギ焼き機を使うことで、ボタンひとつで蒸しと焼き調理が行われます。そのため、職人を置く必要はなく、アルバイトスタッフだけで営業できてしまうので、人件費が抑えられます。

また、フランチャイズ店舗においては、居抜き物件を推奨するなど、3等地戦略で家賃比率を抑えているのもポイントです。タピオカなど一過性のブームに頼った食品と違い、ウナギは流行り廃りのない目的来店型の商材。そのため駅前や繁華街の1等地でなくとも、集客できるというわけです」

「’25年1月には300店舗に到達する見込み」「47都道府県制覇を成し遂げる」と語っている山本社長。その言葉通り、「鰻の成瀬」はウナギ業界の覇権を握るのか。

この問いに対して、永田氏は「そう簡単にはいかないだろう」と難色を示す。その理由は、飲食店にとって欠けてはならない“クオリティ”の問題だ。

あくまで「美味しさは二の次」

「フランチャイズビジネスにおいて加盟店がもっとも恐れるのは『破綻』。その点、『鰻の成瀬』は低投資出店、非常に軽量なオペレーション、そしてウナギという商材であることから、がっつり稼ぐわけではないけれど、潰れにくい業態だと考えられます。だからこそ、ハイスピード出店もなのでしょう。

その点では、ビジネスモデルは高く評価すべきでしょう。一方で、私が問題視しているのが、提供する料理のクオリティの低さです。確かにボタンひとつでウナギの蒲焼きが出来るわけですが、素人が扱う以上どうしても、焼きムラがあったり、ご飯の炊き方がイマイチだったり、店ごとにバラツキが出てしまっている現状です」(永田氏)

本来、フランチャイズ経営では、加盟店が正しいノウハウに従っているかどうか本部がチェックする「スーパーバイジング」が行われるのが常だ。だが、「鰻の成瀬」ではオペレーションの軽量化を重視するため、本部によるサポートをあえて省いている。これでは、各店ごとの味の改善は期待できない。

「山本社長自身、かつて『1ミリも飲食には興味がない』と口にしていたように、あくまでフランチャイズビジネスとしての成功が第一のようで、美味しさを向上させることは二の次なのでしょう。非常に完成されたビジネスモデルだけに、クオリティの低さが勿体ないです」(同)

うなぎのぼりの急成長がこのまま続くかどうか。「鰻の成瀬」の先行きに注視したい。

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