「エアロゾル対策に集中を」専門家グループ提言、感染研に苦言も

新型コロナウイルスの感染が急拡大する中、空気中を漂うウイルスを含んだ微粒子エアロゾルでの感染に集中した対策を求める声が感染症などの分野の専門家から上がっている。国がこれまで重きを置いてこなかった感染経路で、専門家らは効果的なマスク着用や換気対策などの呼び掛けを強めることを提言している。 【脳血流に異常か】コロナ後遺症で考えられるメカニズム  感染経路を巡っては世界保健機関(WHO)や米疾病対策センター(CDC)が昨春、エアロゾル感染と飛沫(ひまつ)感染が主だと挙げ、接触感染は起きにくいとする見解を示した。  だが国立感染症研究所(感染研)は、主な感染経路は飛沫感染と接触感染との見解を今年1月に示し、3月になってエアロゾル感染を追加。新型コロナの「第7波」に対応するため政府の新型コロナ対策分科会(尾身茂会長)は7月14日、換気対策を強調した提言をしている。  こうした経緯を踏まえ、感染症や物理学、法学などの専門家らが25日、東京都内で記者会見。政府分科会の提言について、本堂毅・東北大准教授(物理学、医学)は「エアロゾル感染を防ぐために具体的な換気方法を示したことは評価できる」とした。  一方で「接触感染はまれであることは世界の科学的なコンセンサス(共通認識)になっている」とし、「接触感染と飛沫感染を重視し、消毒の徹底を過度に強調する日本の基本的感染対策は世界とずれている」と指摘。諸外国と同様に換気対策に重点を置くことや、不織布マスクなどの適切な着用を呼び掛けることを最優先すべきだと訴えた。  法学者で医師の米村滋人・東京大教授は「第7波の感染者の急増で、打つ手がないという声や行動規制の声も聞かれるが、エアロゾル対策として実施すべきことはいろいろある」と強調。効果的なマスクの着用や学校、保育園などの換気対策に補助金を出すといった対応を取るべきだと訴えた。  さらに、今年初めの第6波まで実施された飲食店の営業制限措置については「飲食店を介した感染は少なく、全体の感染状況を改善するのに効果が少ないものに対して強い規制をかけるのは法的に問題だ。政府は不合理な対策ばかりを選択してきたと言わざるをえない」と主張した。  国立病院機構仙台医療センターの西村秀一ウイルスセンター長は「感染症の専門家といわれている人たちが誤ったことを言い続けていたのが問題。(感染経路について)接触感染などと言って感染対策を主導してきた。そこの誤りを認めていない」と指摘した。  本堂准教授や、小児の感染症に詳しい森内浩幸・長崎大教授(小児科学)ら専門家9人は、感染研が1月に公表した感染事例の感染経路分析について「エアロゾル感染の発生数が過小評価され、接触感染や飛沫感染の発生数が過大に評価されている」との公開質問状を送った。愛知県立大の清水宣明教授(感染制御学)は「公的機関が流行当初に空気感染(エアロゾル感染)を否定してしまったことが問題で、今に響いている」と、誤りを認めない国や感染研、政府分科会の姿勢を疑問視した。  質問状に対して感染研からは「エアロゾル感染を含む感染経路の分類方法については、国際的に見ても多分野の研究者の間で議論の途上にあると認識している。感染経路の分類についても、国際的、科学的に合意が得られた方法に基づいて更新していく予定」との回答が寄せられたという。【下桐実雅子】

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