新型コロナウイルス流行の長期化を受けて、文化祭・体育祭など、学校行事の中止が相次いでいる。こうした状況の中、全校生徒や保護者に向けて、行事の様子をオンラインで配信したいという学校側のニーズが高まっているようだ。
音楽の著作権を管理するJASRAC(日本音楽著作権協会)によると、とくに文化祭では、楽曲の演奏や合唱などがおこなわれることから、オンライン配信に関連した問い合わせが激増しているという。
ことし4月1日から9月30日までの半年間で、JASRACに寄せられた問い合わせメールは、450件以上(同一人物の再質問をカウントすると600件以上)にのぼっている。なお、2019年の同じ期間は、たったの2件(再質問をカウントして4件)だった。
JASRAC広報部は「より多くの方に動画投稿サービスを利用する際の著作権法上の注意点を正しく理解してもらい、学校行事の配信に限らず、安心して動画投稿サイトに音楽を利用した動画を投稿して、音楽を楽しんでもらいたい」と話している。 ●「演奏」は自由にできる
文化祭のような学校行事で楽曲を利用する場合、法的にはどんなところに気をつければよいのだろうか。JASRACによると、いくつかポイントがある。
まず、新型コロナウイルス以前の時代におこなわれていたような文化祭を想像してほしい。リアルの学校に保護者や一般来場者がやってくるようなイベントだ。
こうした文化祭では、楽曲の演奏や合唱などがおこなわれているものだ。
法律上、原則として、著作者の許諾なく、公衆に聞かせる目的で楽曲を演奏することはできないが、例外として、(1)営利を目的としないこと、(2)聴衆または観衆から料金を受けないこと、(3)実演家に報酬が支払われないこと――という条件を満たせば、著作者の許諾は必要ないことになっている。
たとえば、文化祭のライブなどは、ほかの生徒や保護者、一般来場者に向けて、演奏がおこなわれているが、通常は(1)〜(3)を満たしていると考えられる。したがって、著作者からの許諾は必要なく、自由に楽曲を演奏することができる。 ●公衆送信権の許諾は必要なのか?
次に、YouTubeなど、動画投稿サイトを利用して、文化祭の様子をオンライン配信する場合だ。
他人の著作物をオンライン配信する場合、原則として、著作権者から「公衆送信権」の許諾を得る必要がある。
公衆送信権については、2018年の著作権法改正で「授業目的公衆送信補償金制度」が新設されて、ことし4月28日から施行されている。
これによって、学校の授業における資料(著作物)のインターネット送信については、「SARTRAS」(授業目的公衆送信補償金等管理協会)に補償金を納めることで、個別の許諾を要することなく、利用することができるようになった。
新型コロナ感染拡大で、2020年度に限っては、補償金が「無償」となっている。
だが、「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」が定めた運用指針によると、全校生徒または保護者への配信は「必要と認められる限度」を超えた利用と考えられるため、この制度の対象外となる。
したがって、著作権者に公衆送信権の許諾を得る必要が出てくる。
なお、JASRACの管理楽曲の場合、YouTubeなど動画投稿サイトと包括的な許諾契約を結んでいるため、この契約の範囲内の利用であれば、外国曲などの例外をのぞいては、個別に許諾を得ることなく、オンライン配信することができる。 ●CDの音源を利用したオンライン配信には注意
注意すべきポイントはどこだろうか。
たとえば、文化祭・学園祭の様子を録画して、生徒や保護者に記念品として、DVDなどを配るようなケースだ。この場合、もし楽曲が利用されているならば、著作者から許諾を得なければならない。
また、著作隣接権の許諾権(複製権)が規定されているため、CDの音源を複製する場合は、音源制作者(レコード会社)の許諾を得る必要がある。
公衆送信も、音源制作者には許諾権(送信可能化権)が規定されているため、CDの音源を利用したオンライン配信をする場合は音源制作者の許諾を得る必要がある。
これらの著作権隣接権はJASRACに管理が委託されておらず、JASRACは許諾できないので、音源ごとに権利を持っているレコード会社に連絡して許諾を得る必要がある。
さらに、リアルタイムの配信以外の方法(イベント終了後も動画を視聴できるアーカイブ配信やタイムシフト配信など)で、外国曲を使用した動画投稿する場合は、複製権に基づく手続きが必要となっている。
この手続きにかかる使用料は、音楽出版社などの権利者が指定する金額(指し値)となるため、提示される条件によっては利用を断念せざるを得ない場合があるという。