「どんどん人もテナントも減って……もはやゴーストタウンですよ、ゴーストタウン」──そう語るのは、汐留勤務の30代男性だ。いま、東京・汐留の複合商業施設「カレッタ汐留」の“過疎化”が止まらないのだという。
「カレッタ汐留」は、2002年12月に開業。地上48階・地下5階建ての電通本社ビル内にある施設だ。劇団四季の専用劇場「電通四季劇場[海]」や広告資料館「アドミュージアム東京」(空調設備工事のため5月より休館中)も併設されている。
オープン当初は、飲食店を中心にファッション・雑貨店なども出店し、約60店舗から構成されていた。初日の来場者は推計5万5000人と報じられて大盛況だったが、オープンから20年以上を経て、すっかり寂しい状況になっているようだ。
現地を訪れたところ、たしかにフロアマップの空きが目立つ。64店舗ぶんのスペースがある中で29店舗と半数が空欄だ。ランチタイムでもどの店も並ばずに入れる状況で、ほとんど客のいない店もあった。前出の30代会社員が語る。
富士通も汐留から離れて……
「コロナ禍でテレワークを導入する企業が増え、今の汐留にかつてのビジネス街としての賑わいはありません。それにともないテナントや人通りも寂しくなっていき、昨年12月にはマクドナルドまで撤退してしまいました。
ネット上でも『カレッタ汐留がゴーストタウン化している』と評判で、名前をもじって“枯れた汐留”と揶揄する声もあります」
テレワークが定着し、オフィスの在り方が見直される中、電通グループは2021年9月、「カレッタ汐留」も含む電通本社ビルを不動産大手・ヒューリックが出資するSPC(特別目的会社)に売却した。また、富士通は今年9月、汐留の大型ビルから退去し、神奈川県の川崎工場などに本社機能を移すことを発表している。
「テレワークの導入により、電通も富士通も出社率が2割ほどになったそうです。自分だってほぼ出社していませんし、汐留に人が戻る日は来るのか……。職場の近くで飲むとなっても、今の汐留は寂しい。新橋のほうがお店の選択肢も多く、賑やかで魅力的に感じます」(前出・30代会社員)
高層階に位置するレストランの店員も「コロナ禍で一気にテナントが減ってしまった」と語った。
汐留はなぜ今のような状況になってしまったのか。都市政策の第一人者である明治大学名誉教授の市川宏雄氏は、「米サンフランシスコと同じ流れをたどっている」と分析する。
「テック企業の多いサンフランシスコでは、コロナ禍になってからリモートワークによりオフィス空室率が高まっています。日本を代表するテック企業である富士通が東京から本社を引き払ったのは、サンフランシスコと同じ動きが起きていると言えましょう」(市川氏、以下同)
街としての魅力が弱い、という。
「汐留の都市開発は、目先の利益を優先して高層ビルを建てるばかりで、“魅力的なまちづくり”という思想が欠けていました。都市開発においては、遊んで楽しく、食べて楽しく、働くのにも便利というワンセットで価値を作る必要があります。
ビジネス以外で汐留に出かけたくなるような魅力を提供しきれていません」
汐留再生の一手はあるのか。そう市川氏に質問すると、実に大胆なアイデアが返ってきた。
「街の中心に人々が憩う広場をつくり、その周辺にビルを建てるのが都市開発の基本です。カレッタ汐留にも広場があるにはありますが、地下に位置して目立ちませんし、緑が少なくて狭い。近くにある浜離宮恩賜庭園は、入場が有料です。どうせ汐留から人が減っているなら、ビルをひとつ潰して大きな広場を作ってしまえばいい(笑)。
汐留の高層ビルが東京湾からの海風をせき止め、ヒートアイランド現象を助長しているとの説もあります。現在の都市開発において、風の通り方を考慮するのは常識ですが、汐留はまだ試行錯誤の時期に開発されたため、その常識が適用されていません。“ビルを壊す”というのは実現不可能なアイデアでしょうが、風を通すという点、そして人々が集まる緑の広場を作るという点で有効なのではないでしょうか」
一方でカレッタ汐留側もテコ入れを図っているようにも見える。今年8月には、地下2階に「汐留横丁」をオープンさせた。ネオ居酒屋やワイン角打ちの店といったカジュアルに使える飲食店に加えて、ビジネス街らしく経営者限定の会員制バーといったユニークなコンセプトの店も入居する。準備中の区画も含め、年内に合計約250坪超のフードホールになる予定だという。
「汐留横丁」が人々が街に集まる理由となるか。“枯れた”とはもう言わせない復活に期待したい。