「グリーン企業」、房総半島に続々転居

今、注目が集まる千葉県房総半島。大きく「九十九里エリア」「外房」「内房」に分けられる
環境ビジネスや社会起業家など、いわゆる「グリーン」と呼ばれる企業が続々と千葉県・房総半島に居を移し始めている。地価が安く、農産物や海の幸も豊富なほか、サーフィンのメッカであることも受けているようだ。オフィスを移すだけでなく、ダブルハウス(二地域居住)や職住一致など新しいライフスタイルも目立ってきた。
「自然の豊かさを体感できる環境で働くことは、都会ではあり得ない幸せです」
こう話すのは、環境ウェブマガジン「グリーンズ」を運営するビオピオ(東京・文京)の鈴木菜央代表だ。コンクリートに囲まれたオフィスでは、サステナブルでクリエーティブなアイデアは出てこないと考えた。
そこで、09年夏に千葉県いすみ市にある中滝アートヴィレッジ内のログハウスを借り、「グリーンズ森の家」と名付け、ブレストやイベントの場とした。鈴木氏も、森の家を借りて間もなく、いすみ市に自身の自宅も移した。
■房総は「安い」「面白い」「知られてない」
ビオピオは毎月、グリーンをテーマにしたネットワーキングパーティー「グリーンドリンクス東京」を開催している。その房総版「グリーンドリンクス房総」も、10月から千葉県長生村にある無農薬栽培の会員制農園ファームキャンパスで始まった。会員が活用できる古民家を改装したクラブハウスがあり、オープンキッチンでは料理を作って楽しめる。
昔から老若男女に人気が高く、オシャレなイメージの強い鎌倉や湘南ではなく、なぜ今房総に人が集まるのだろうか。鈴木代表は、「安い」「知られていない」「面白い人が多い」という点に房総の可能性を感じたそうだ。「グリーンズ森の家」は、家賃月12万円と近隣の相場よりも高いが、中滝アートヴィレッジにはデザイナーやミュージシャンなど魅力的な人が集まるのだという。
房総半島は、大きく「九十九里エリア」「外房」「内房」に分けられる。外房は、房総半島の太平洋側、いすみ市から館山市の辺りを指す。外房は、都市開発や工業化が進む内房に比べて、自然が豊かで別荘地として人気が高い。
■伊勢エビの漁獲量日本一
実は、千葉県の海水浴場数は81カ所と全国1位を誇る。九十九里エリアや外房は、サーフィンのメッカとされ、ハワイから移住してきたサーファーもいるという。海産物の漁獲量も多い。伊勢海老は、静岡県、三重県を押さえ、全国1位の漁獲量301トン(08年)。いすみ市にある大原漁港の漁獲量だけで千葉県全体の大部分を占める。
かたくちいわし、すずき類も全国1位(08年)だという。農産物も盛んで、だいこん、ほうれん草、えだまめ、かぶなどの出荷額は全国1位(08年)。房総は食に恵まれた地域なのだ。
■ダブルハウス(二地域居住)も増加
そんな房総半島に魅力を感じて移住する人は増えている。建築家の馬場正尊氏もその一人だ。房総の海辺の魅力に惹かれ、08年10月、千葉県一宮町に自宅を構えた。東京にも自宅があるので、いわゆるダブルハウス族だ。
仕事の中心は東京のままで毎日働きたいが、週末は郊外で豊かな生活も実現したい。そんな時に気付いたのが、都心と郊外を行き来する「新しい郊外」という概念だった。仕方なく住むベッドタウンとしての郊外ではなく、海でサーフィンを楽しみ、自分や家族と向き合う時間も確保できる。
現在は、都心の小さなマンションと房総の自宅のダブルハウス生活だが、ローンと家賃を合わせても、都心部の80から100平米のマンションを借りるのと同じくらいなのだという。
馬場氏は、ユニークな物件をネットで紹介する「東京R不動産」を立ち上げたことで知られるが、08年夏に「房総R不動産」もスタートし、ダブルハウスを始めた。
千葉県長生村にある無農薬栽培の会員制農園ファームキャンパス。「グリーンドリンクス房総」が開催されている。(C)greenz.jp
■大胆なアイデアは開放感から
2010年7月に鴨川オフィスを新しく開いたのはグランマ(東京・港)だ。同社は、途上国で実際に使用されているプロダクトを展示する「世界を変えるデザイン展」を東京ミッドタウンなどで開催している。
その展示品の倉庫や社内の合宿施設として鴨川オフィスを活用している。本村拓人代表は、「大胆な発想をするには開放感が大切なので、鴨川の自然環境が決め手となった。本社もできれば鴨川に移したい」とする。自身も鴨川市に自宅を移した。
NPO/NGOO向けの募金サイト「クリック募金」を運営しているユナイテッドピープル(横浜市中区)も、2011年夏までに富津市周辺に土地を確保し、農業の体験型施設兼オフィスを建設する予定だ。東京在住者にも気軽に農業体験をしてもらうためには、首都高やアクアラインを利用して1時間で来られる内房は魅力的だそうだ。
「サステナブルな暮らしを実現して、今よりもっと楽しい世の中を作りたい」(鈴木氏)
都心には縛られず、働きながら、郊外で豊かな生活を実現する――。こんな新しいライフスタイルが房総半島で続々と始まっている。(オルタナ編集部 吉田広子)

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