食のトレンドの動きはイメージしているより早いものだ。振り返ってみて驚くことも少なくない。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。
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毎年、今年も総務省の家計調査の発表時期が迫ってきた。毎年の細かな数字の積み重ねを見ていると、肉食の進撃、魚食文化の衰退、卵食の関西……などなど食傾向や地域性の変化が伺える。
家計調査の収支項目分類は「家計消費の変化に対応するため、原則として消費者物価指数の基準改定年に合わせて5年ごと」に見直しを行っている。そして来年2020年はその項目分類の改定年度に当たり、本年度の家計調査の発表を前に「家計調査2020年収支項目分類改定(案)」が作成され、パブリックコメント(意見)が募集されている。
この「案」からも食や暮らしのまわりにある時代の傾向が見えてくる。
例えば今年の改定案で見ると、真っ先に上がっていたのは、これまで項目として立っていた「グレープフルーツ」が「他の柑きつ類」に統合されるという案だ。理由として挙げられているのは「消費支出に占める構成比が継続的に低くなっているため」。
確かに近年、スーパーや青果店の店頭を見ても、グレープフルーツの存在感は薄い。国内で販売されるグレープフルーツは多くがフロリダや南アフリカ産だとされるが、特に産地や名ブランドをPRするわけでもなく、積極的なプロモーションをかけている事業者や団体も思い当たらない。
実際、消費支出の推移を見てみると、2008年には全国平均で589円だったのが、2017年には231円しかグレープフルーツに支出されていない。
他の果物を見るとりんご4177円(2008年)→4252円(2017年)、みかん4124円→3757円。梨1686円→1525円、ぶどう1991円→2214円、いちご3072円→2629円、バナナ4218円→4022円。販売期間の長いメジャー果物は根強い人気を誇っている。
その他の嗜好性の強い果物も、柿967円→932円、桃1170円→984円、すいか1226円→1130円、メロン1260円→943円、キウイフルーツ810円→1340円と一部を除き、果物への支出は減少気味ではあるが、10年間で消費支出が半減以下の果物はない。年間支出が231円、さらにこの10年で60%以上も支出が減っているとなれば、項目の統合も致し方のないところか。
ちなみに10年前、2008年の数字を見ると、より危険水域に近かったのは実はオレンジの473円だったが、2017年には524円。なんとか持ちこたえている。今後もオレンジの奮闘に期待したい。
ほか、危険水域予備軍としては、しじみ362円→305円、白菜漬け574円→471円、干ししいたけ510円→377円あたりもやや微妙なのかもしれないが、二枚貝や漬け物は「日本食」の文化においては重要な食べ物。干ししいたけも出汁や煮物には欠かせない。うかつに項目をまとめるわけにはいかないはずだ。
ちなみに食品関連で名称が消滅する可能性のある項目がもうひとつある。スパゲッティである。実はこの項目には「スパゲッティのほか、マカロニやペンネなど」のショートパスタも含むと言い、「これらを総称した、より適切な名称とするため」に「パスタ」に変更されるというのだ。
食品以外もライフスタイルの変化に応じて、さまざまなジャンルで変化が見て取れる。「食卓セット」「応接セット」が「テーブル・ソファー」に統合される。理由は「リビング(居間)とダイニング(食卓)兼用の製品が存在するなど,両者の境界区分は必ずしも明確ではなく,現行2品目 の用途を踏まえた正確な把握が困難になってきているため」というもの。ほか「装身具」→「アクセサリー」、「移動電話」→「携帯電話」のように、遅まきながら呼称のアップデートを行う項目もある。
意見の提出期間は、2019年1月24日(木曜日)から2019年2月22日(金曜日)まで。意見募集発表から締め切りまで約1か月としっかり期間も取られていて「募集即締切」と揶揄されることもあるパブリックコメント。電子政府の総合窓口(e-Gov)などから提出できる。