「コロナ倒産ラッシュ」の危機 すでに7割の企業で影響懸念

「奈良 宿泊キャンセル1億3000万円」「電通の本社社員5000人が在宅勤務」──。新型コロナウイルス感染拡大による日本経済への影響が深刻化している。昨年の消費税増税で2019年10-12月期のGDPが年率換算6.3%減と大きく落ち込んだばかりだが、感染の国際的広がりは世界同時株安の事態も招いている。果たして“コロナショック”の影響は今後どんな形で表れるのか。ジャーナリストの山田稔氏がレポートする。

【写真】自動車メーカーも大打撃

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 札幌、浅草、箱根、京都、奈良、沖縄……。北から南まで全国の観光地で中国人観光客の姿が激減している。日本人観光客までもが大きく減った観光地もある。各地で中国便の運航停止、宿泊キャンセル、観光バスキャンセルなどが続出し、インバウンド頼みだった観光関連業者からは、

「中国だけでなく、国内客の取りやめも広がり大きなダメージになっている」
「ツアーのキャンセル料も請求できず大きな痛手だ」

 といった悲痛な声が挙がっている。

 日本旅行業協会は2月3日、中国からの訪日旅行客のキャンセルが3月末までで40万人に上るとの見通しを明らかにした。昨年は日韓関係悪化の影響で韓国人旅行客が激減したが、今度は中国人観光客である。2019年1年間の訪日中国人客は959万人で全体の3割を占める。感染拡大が長期化すれば観光業界には致命的な痛手となる。

 問題は中国人観光客減少だけではない。アメリカ国務省は2月22日、日本への渡航情報をレベル2の「注意を強化」に引き上げた。米疾病対策センターも日韓への渡航について、注意レベルを3段階で2番目の「予防措置の強化」に引き上げた。

 対外的な日本のイメージは大幅ダウンだ。感染拡大が続けば、次は東京五輪の開催が危ぶまれる。日本のインバウンド政策は大きな岐路に立たされようとしている。

◆中国依存の製造業、卸売業は大打撃

 世界第2位の経済大国となった中国は、日本にとって最大の部品供給拠点であると同時に、大きな生産拠点、マーケットでもある。その中国経済が大減速し始めたのだから影響は甚大である。

 武漢での感染拡大長期化による移動制限、操業ストップなどで日本の自動車メーカーをはじめとする製造業界は大幅な生産縮小を余儀なくされている。日産は中国からの部品調達がストップし、九州工場の一時生産停止に追い込まれた。

 中国での新車販売台数が155万台(2019年)と過去最高を更新したというホンダも、武漢にある3工場の現地生産のストップに加え、今後の中国国内での販売面での影響が懸念される。

 輸入も深刻だ。中国から製品などを輸入している日本企業は2万社近くあると言われるだけに、その影響は計り知れない。

 中国国内に多くの店舗を展開している流通大手や小売店も直撃を受けている。ユニクロ、無印良品などが武漢だけでなく中国各地で営業休止の事態に追い込まれた。国内では、中国人観光客の激減で大手百貨店の売り上げが軒並みダウンしている。

 航空業界も対応に大わらわだ。中国便・香港便の運休がどんどん拡大している。国際航空運送協会は2月20日、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、アジア太平洋地域の航空会社が2020年に約3兆1000億円の損失を被るとの試算を発表した。日本のエアラインも例外ではない。あらゆる業界がダメージを受けているといっていい状況だ。

◆日本企業の約7割が“コロナショック”に見舞われる

 新型コロナウイルスの感染拡大を防止する目的で、企業が社員に在宅勤務(テレワーク)を促す動きも広がっている。

 電通は、東京の本社ビルに勤務する50代の男性従業員がコロナウイルスに感染していたとして、当面の間、本社ビルに勤務するすべての従業員約5000人を対象に、テレワークに切り替える。また、資生堂も、社内で感染者は確認されていないものの、国内従業員の3割にあたる約8000人を対象にテレワークを基本とする方針を明らかにした。

 在宅での勤務とはいえ、慣れないテレワークの広がりによって業務効率や生産性の低下を招く恐れがある。

 では、この先、日本経済はどうなってしまうのか──。SMBC日興証券が東証1部上場企業1481社(3月期決算企業)のデータを集計した結果、2020年3月期決算の純利益合計は前期比6.6%減と2年連続の減益見通しであると報じられた。米中貿易摩擦による中国経済の減速や消費税増税が響いた形だが、そこへ新型肺炎ショックが加わるからたまらない。

 東京商工リサーチが2月20日に発表した「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査の結果も注目されている。国内企業(1万2348社)に新型コロナウイルスの影響を聞いたところ、66.4%(8207社)が「すでに影響が出ている」「今後影響が出る可能性がある」と回答したというのだ。

 産業別では「すでに出ている」は卸売業、運輸業、製造業でそれぞれ3割近く。「今後出る可能性」は製造業が51.7%ともっとも多く、卸売業も47.3%と高い。世界的なサプライチェーンを築く製造業や、価格競争等で国境をまたいで商品を輸入する卸売業への影響が色濃く出たと分析している。宿泊業や旅行業が含まれるサービス業他は38.3%、観光バスの運行会社が含まれる運輸業は43.4%だった。

 東京商工リサーチの調査担当者に影響の大きさを聞いた。

「今回の調査は2月7日から16日にかけて行ったもので、その後も感染は拡大していますから影響はまだまだ多方面に出てくると思われます。

 製造業や卸売業への影響はもちろんですが、見落とせないのは観光バスやトラックなどの運輸業の数字の高さです。“影響なし”は29%で3割を切っています。内需型の物流や(訪日観光客などの)輸送にまで大きな影響が見込まれているのです。

 一日も早く事態が収束すればいいのですが、長期化した場合、体力の弱い中小零細企業は厳しい局面に追い込まれます。2019年は倒産件数が8383件(負債総額1000万円以上)と11年ぶりに増加しましたが、この先経済状況が悪化していけば2020年も心配です」

 政府は観光産業などへの資金繰り支援として、日本政策金融公庫などに5000億円の緊急貸し付け・保証枠を設けた。短期的な支援にはなるかもしれないが、インバウンド減少、売り上げ減少、生産回復の遅れといった事態が長期化したら、大企業はともかく経営基盤の弱い中小・零細企業が立ち行かなくなってしまう。業績悪化にともなうリストラ加速も心配だ。

 NY株急落を受けて始まった2月25日の日経平均株価は一時1000円超の大幅安となった(終値は781円安)。世界同時株安の様相だ。負の連鎖が止まらない。

 東京商工リサーチによると、2月25日には愛知県内の旅館が新型肺炎拡大による顧客減を理由に破産申請することが明らかになった。新型コロナウイルスの影響では初の経営破綻となる。

 2019年の倒産件数は、リーマンショック以来11年ぶりの前年比増となったが、2020年はそれを上回る“コロナ倒産ラッシュ”が現実味を帯びてきた。感染拡大の早期終息を祈るばかりである。

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