「コロナ慣れ」「コロナ飽き」…若い世代に現れる症状に精神科医が“処方” いまこそ「何もしない贅沢」を

「長期戦を覚悟する必要がある」と首相が評した新型コロナウイルス。「早くもとの生活に」と願いつつ、現実には仕事、買い物、健康管理、教育、家族の世話など、これまでの行動様式を根本から変える必要があり、気持ちが追いつかない人も多いだろう。自粛への疲れからか、コロナ疲れ、コロナ慣れ、さらにコロナ飽きといった空気も見受けられる。心の持ちようを、精神科医の松井律子さん(神戸東灘区)に“処方”してもらった。

−−緩んだ雰囲気がコロナ慣れと呼ばれました。

「人間は長期間にわたって強度の警戒心を維持することは難しいですが、コロナ慣れ、コロナ飽きの人たちの気持ちの落としどころは、『終わりのない嵐はない』と『世の中なるようになる』でしょう」

−−仕方ないという考え方ですか。

「高齢者は予防のための手洗いなどはしていますが、皆さん焦らず、待ちの姿勢です。落ち着いて生活する人が多いと感じています。それに比べ、『もう飽き飽きした』『うんざり』『仕事がどうなるのか心配』『イライラする』と訴えるのは、若い人や中年の人に多いです」

−−高齢者が落ち着いているのは。

「今までに長い人生を歩み、ままならぬことを繰り返し経験しています。いくらあがいてもダメなものはダメと身に染みているのです。過去を振り返って、終わりのない嵐はないと腹をくくって、じっと嵐の過ぎ去るのを待つ。その間、好きな本を読んだり詰め将棋をしたりする。メールして、たまには電話で友達としゃべる。あとはリビングでゆったり座って過ごすなどされています」

−−あきらめとも違う。

「自分たちでコントロールできない戦争を生き延びた世代は、先がわからないことに耐えて生き抜いたわけです。一種の諦念とでもいうべき構えだと思います。私たちも含め、その後の世代は、一定の基準をもとに目標を立て、それを達成するというやり方で生きてきた人が多いです。でも、新型コロナウイルスとの闘いでは、目標も方法も模索して設定しないといけない。決まったやり方もない。そういう先がわからないことに耐えて前に進む必要があるのです」

−−耐える力ですね。

「先がわからない不安に弱い世代は、当初は浮足立ち、そのうち疲れます。さらに時がたって状況が変化しなければ、考えることにも疲れます。基準に合わせて頑張ることに慣れているけど、基準がそもそもわからない状況下で、目標や方法を考え出しながらやるのは苦手。考えることをやめて、目のまえの楽しみに逃げる人もいるでしょう。これこそ、コロナ慣れした人たちが、街に買い物や遊びに出たりしてしまう現象ではありませんか?」

−−コロナ慣れの人にかける言葉は。

「『終わりのない嵐はないからここは淡々と時を過ごそう』と呼びかけるしかないと思います。難しい局面では、『時の到来』を待てることも大事。その間に、できるなら今まで知らなかった楽しみを見出してもらいたい。外で消費するだけが楽しみではないことを知ってほしいです。

−−難しそうです。

「ただただゆったり過ごす『何もしない贅沢』を感じ取ってほしい。何もしないと、つまらない一日だったと思う人は多いですが、それこそ一番の贅沢。そういうときこそ自分を振り返ってみたり、家族がめいめいに自分の時間を過ごしたりする、じんわりした楽しさもあるはずです」

(まいどなニュース・神戸新聞)

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