「ジャニーズ事務所には何やってもいい」東山紀之が会見で浴びせられた悪質な“口撃”、露呈した「マスコミ」のヤバさ

世の中には「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」だけでなく、「ヤバい男=ヤバ男(ヤバダン)」も存在する。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、芸能人や有名人の言動を鋭くぶった斬るライターの仁科友里さんが、さまざまなタイプの「ヤバ男」を分析していきます。

第30回 東山紀之

 ジャニーズ事務所の新社長となった東山紀之が会見を開きました。ジャニーズという社名は継続、藤島氏は社長を退いたものの、代表権を持つ取締役となり、株は100%保有。となると、東山は自分の判断で会社を動かせない、けれど、ヤバいことがあればマスコミの前には自分が立つという、損な役回りを引き受けたと見ることもできるでしょう。

東山自身の“身体調査”

 また、今回の社長就任で、東山自身の“身体調査”が始まっています。木山将吾氏が発表した書籍「Smapへーそして、すべてのジャニーズタレントへ」には、東山による後輩タレントへのセクハラ的な行為が描かれています。東山は会見で「(性加害をしたかについては)記憶にない」と歯切れの悪い回答を繰り返していましたが、事務所の立て直しの条件を「性加害に加担していない人」とするのなら、ジャニーズ内部の人はほとんど無理になるのではないでしょうか。なぜなら、被害者と加害者をはっきり分けることは、難しいからです。

 未成年への性加害が大問題なのは言うまでもありませんが、喜多川氏の悪質な点は彼がとてつもない権限と権力を持っていたため、性加害の正当化と共犯者を増やすことが容易だったことでした。9月3日放送「報道特集」(TBS系)に出演した元Jr.によると、ジャニー氏は性加害のあとに、少年に大きな仕事やハワイへの旅行、お小遣いなど、“ご褒美”をきちんと与え、その一方で「代わりはいくらでもいる」と拒絶した場合の報復も匂わせていたそうです。このような環境にいると、誰もが直接的・間接的に性加害に加担するようになってしまうのではないでしょうか(容認できない人は、事務所から去ると思います)。同番組によると、スタッフは少年たちに性加害を「売れるチャンスだ」と諭していたといいますし、見て見ぬふりをした人もいるでしょう。自分がターゲットになるのが嫌だから、もしくは喜多川氏の覚えをめでたくするために、少年を“上納”するような行為で間接的に加害に加わった人もいたかもしれません。こうやって考えていくと、当時の事務所にいた人のほとんどは加害者でしょう。東山と言えば、俳優・松方弘樹さんや森光子さん、黒柳徹子にかわいがられ、前社長・藤島ジュリー景子氏との交際が噂されるなど、ビッグネームキラーとして知られています。

 よく言えば気配りが細かい、悪く言えば抜け目も如才もないことが仇となり、権力者を喜ばせる、つまり性加害を連想させるエピソードがわんさかたくさん出てきて、炎上する可能性は十分にあります。しかし、見方を変えれば、仕事をエサに権力者のために性暴力に加担させられた被害者とも言えるのです。

被害と加害がほぼワンセットという現実を忘れてはいけない

 加害者と被害者は正反対のポジションにあると思われがちですが、実はそうとも言い切れません。たとえば、運動部や会社で新人の頃、先輩に理不尽なことを要求されてつらかったのに、自分が上級生となったら、いつのまにか後輩を同じようにしごいていたという経験を持つ人はたくさんいることでしょう。性加害を含めた暴力は、連鎖しやすいことがわかっています。暴力を受けた被害者が今度は加害者となって、誰かを被害者にしてしまうのです。実際、喜多川氏も被害者だったという証言があります。「報道特集」では、‘60年代に喜多川氏と親交があった演歌歌手の男性を取材しています。男性は10代の頃、デビューを目指して「新芸能学院」で仲間とレッスンを受けていましたが、ここにジャニー氏とメリー氏が出入りしていたそうです。ジャニー氏はレッスン生に性加害を行い、そのことが原因で同学院の名和社長とトラブルになり決裂したといいます。名和社長の妻は「(ジャニー氏自身が)小さい時から(性加害を)されていた」「ジャニーさんはそういう育ちをした」「病気なんだわね」と周囲に説明していたそうです。被害を受けたから、加害していいという意味ではありませんが、被害と加害がほぼワンセットとなって繰り返されることを考えると、過去を掘り返すことに意味があると思えません。

 喜多川氏の性加害については、2004年に最高裁が喜多川氏の少年たちへの性加害の真実性を認めても、ワイドショーなどで報じられなかったと記憶しています。マスコミが報じないことで、結果的にジャニーズ事務所は何をやってもいいんだ、言っても無駄だという空気が強化されたのではないでしょうか。

 けれど、ようやく全貌が解き明かされようとしています。しかし、会見における記者の質問を聞いていて、私は首をかしげてしまったのでした。

 まず、東山に性加害を受けたかどうかをたずねた女性記者がいましたが、この質問は何のためなのでしょうか。今回の問題は事務所の創業者が、自分の優位な立場を利用して未成年への性加害を行ったこと、その事実を訴えた書籍、認めた裁判判決があるのにも関わらず何十年も報道されなかったことであり、被害者が誰であるかは本質とは関係ないはずです。

「あなたも性被害に合いましたか?」ヤバすぎる質問

 また、今回のケースは性加害をしたのが男性で被害者も男性でしたが、この女性記者は、被害に合ったかもしれない女性を前にしても「あなたも性被害に合いましたか?」と聞いたのでしょうか。おそらく聞かないと思います。なぜなら、女性にこんなヤバい質問をしたら「セクハラだ」とSNSが黙っていないことは目に見えているからです。

 それでは、なぜ記者がこんな質問をしたのか。それは、日本を代表する芸能事務所として長いことご威光を放ってきたジャニーズ事務所ですが、今はちょっと分が悪いので、何を言われても反論できず、丁寧に答えてくれる。それがわかっているから、あえて“口撃”をしかけたのではないでしょうか。けれども、この女性記者のやり方が完全に間違っていると私には言い切れません。こういう失礼な聞き方やパフォーマンスが話題となり、数字(PV)を稼ぐことがあるからです。報道としてはアウトでも、ビジネスとしてはアリなわけです。喜多川氏は少年の鼻先にデビューという名のにんじんをぶらさげて毒牙にかけ、一方で人気タレントを多数有していることを理由に、テレビ局をはじめとしたメディアを支配してきましたが、相手の持つ数字や立場によって態度を変える、やり返せない人には強く出るというマスコミのやり方もまた、ジャニーズとそう変わらないと言えるのではないでしょうか。

 社長が誰かよりも、今回考えるべきことは、テレビ局と芸能事務所の距離だと思います。「週刊新潮」によると、「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)のプロデューサーが、他事務所の男性アイドルを同番組に出演させるか迷っていると、喜多川氏は「出したらいいじゃない、ただ、うちのタレントとかぶるから、うちは出さないほうがいいね」と番組からの撤退をほのめかされたといいます。誰を番組に出すかを決めるのはテレビ局側のはずなのに、なぜ事務所にお伺いを立てるのか。それは、出演をテレビ局と事務所の二者で決めているからでしょう。こうなると、強いほうが弱いほうに無理を言っても言い分が通ってしまう。ですから、仕組みを変えて、癒着を防ぐ構造にしたほうがいいと思いますが、おそらく、なされたところで、あまり話題にならないのではないでしょうか。

知らず知らずに担いでいた悪の片棒

 現在、数字を取るのは、叩き要素のある記事だと思います。なので、人をイライラさせる芸能人、知名度の高い人、もしくは権力者の不祥事は好まれますし、SNSでは悪者探しの議論がよく見受けられます。はっきりした悪者がいない、つまり、数字が取れない記事はビジネスとして成立しませんから、取り上げられなくなり、人の興味を引かなくなるから誰も立ち上がらず、問題は放置されるという悪循環に陥ってしまいます。

 今回の件で責められるべきは喜多川氏一人だと私は思いますが、忖度、空気の読みすぎ、性暴力への意識の低さなど、知らず知らずのうちに、誰もが少しずつ悪の片棒をかついだ結果、60年も前から指摘されていた未成年の性加害を放置してしまった。ジャニーズ問題は、日本社会のヤバさの集大成なのかもしれません。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」

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