「スマホ攻略」苦しむ王者 赤字転落…任天堂

ゲーム業界の勢力図に異変が起きている。“王者”任天堂が携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」の販売不振にあえぐ一方、スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)で遊べる「ソーシャルゲーム」が主役の座を奪う勢いで台頭しているのだ。スマホの普及でゲームの楽しみ方が大きく変わる中、業界をリードしてきた任天堂が窮地に追い込まれている。(大柳聡庸)
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 「3DSの普及を爆発的に進め、一部で報じられているゲーム専用機の“限界論”を払拭したい」。28日、東京都内で開かれた任天堂のアナリスト説明会で、岩田聡社長はソーシャルゲームへの対抗心をあらわにした。
 裸眼で3D(3次元)映像を楽しめる3DSは2月末の発売直後こそ注目されたが、有力ソフトの不足で失速。今年度の販売目標1600万台に対し、9月までの6カ月間の販売台数は307万台にとどまった。販売不振が業績を直撃し、同社は今年度初めて200億円の最終赤字に転落する見込みだ。
 反転攻勢のため、8月に3DSの価格を1万円値下げしたのに続き、11~12月に人気のゲームソフト「マリオシリーズ」2タイトルを相次ぎ発売する。また、11月末にはインターネットを通じゲームの追加コンテンツを購入できるようにする。ゲームが最も売れる年末商戦に合わせ、巻き返しを図る戦略だ。
 しかし、同社を取り巻く環境は厳しい。ゲーム雑誌出版のエンターブレイン(東京都千代田区)によると、平成22年の家庭用ゲーム機のハードとソフトを合わせた国内販売額は前年比9%減の4936億円。ゲーム専用機は今後も縮小傾向が続くとみられている。
 その背景にあるのがソーシャルゲームの台頭。22年の同ゲームの国内市場は、同約4・4倍の1120億円(エンターブレイン調べ)にまで拡大した。
 スマホを使って友人や見知らぬ人とオンラインで遊ぶソーシャルゲームは、無料ソフトが多く、運営会社は広告やゲーム内で使用する「アイテム」などの販売で稼ぐビジネスモデル。
 ソーシャルゲームの2強はディー・エヌ・エー(DeNA)とグリー。釣りや宝探しといった、操作が簡単なゲームに夢中になるユーザーも少なくなく、若い女性や中高年なども巻き込んで市場を開拓している。市場の急成長に合わせ、ソフトメーカーもソーシャルゲームとの関係強化を急いでいる。
 ゲーム大手のスクウェア・エニックスとDeNAは27日、ゲームを共同制作すると発表。今冬にもDeNAのゲーム配信サービス「Mobage(モバゲー)」向けに、スクエニの人気ゲーム「ファイナルファンタジー(FF)」シリーズを投入する。
 ゲーム専用機の人気シリーズがソーシャルゲームに登場するのは異例中の異例で、業界関係者の間に衝撃が走った。
 ソーシャルゲームは、これまでゲームに関心を寄せていなかった“ライトユーザー”も巻き込んで成長しつつある。
 そもそもタッチペンを使ったDSのゲームソフト「脳トレ」や、体を動かして遊ぶゲーム機「Wii(ウィー)」でユーザーの裾野を広げ、「複雑でマニア向け」だったゲーム機のイメージを払拭したのは任天堂だ。専用機で新たな遊びを再び提案し、業績回復につなげられるのか。王者の底力が問われている。

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