2019年を代表するヒットスイーツだったタピオカ。ブームの終わりを感じさせるようにシャッターを下ろす店舗も多い一方で、人気店ではいまだに客足が途絶えない。それどころか、有名チェーン店のなかには地方への出店に力を入れているブランドも。また、売り上げが落ち込む冬場のテコ入れ策や、問題視されている「容器のポイ捨て」へ配慮し始めるなど、ブームの弊害も解消しつつある。はたして「タピオカ」は、定番スイーツとして日本に根づくのだろうか。(清談社 ますだポム子)
閉店しているのは急増した金もうけ目当ての店
昨年の夏、若者が熱狂したスイーツといえば「タピオカ」だ。街にはプラカップを持った人々があふれ、人気店には常に行列ができた。その人気を見込んで、競うように新たな店舗がオープンしていたのが記憶に新しい。
しかし、ピーク期の夏が終わり、冬を迎えると店じまいをする店舗が目立つようになった。こうした閉店ラッシュに「ブームの終焉(しゅうえん)」を感じざるをえないのだが、実際のところ、ブームは終わったのか。タピオカ情報サイト「タピオカナビ」の主宰で、日本初のタピオカ紹介書籍「#タピオカコレクション」を上梓(じょうし)したタピオカナビゲーターの梅村実礼氏は、次のように分析する。
「率直にいうと、この冬でタピオカブームは終わりました。とはいえ、タピオカのブームが終わるのは初めてのことではありません。今回は業界内で“第3次ブーム”とされており、過去にも、はやっては落ち着き、という経験をしています。今回のブームの終わりがここまで騒がれているのは、とにかく店が多かったからに尽きるでしょうね」(梅村さん、以下同)
第3次ブームでは、座席を持たないドリンクスタンド形式の店舗が多く見られた。タピオカ店はただでさえ開業しやすいうえ、テークアウト専門なら座席も不要となるため、最低5坪もあれば開業できた。
「素人でも参入しやすい分野だったので、ブームに乗じて金もうけをしたい人たちが、われ先にとタピオカ専門店を始めたんです。そのため爆発的に小規模店舗が増えたというわけです。ただ、こうした店のほとんどは、商品自体へのこだわりも薄く、接客も雑で値段も高価でした。試しに買ってみる人はいても、リピーターはあまり見込めません。そうしてブームに陰りが見え、これ以上の利益は望めないと判断した瞬間、店を畳むのです」
今回は、最初からブームに便乗した短期集中型コンセプトの店が多かったために、閉店が相次いでいるように見えるというわけだ。
「利益しか考えていない店舗は閉店へ追いやられますが、国内に20店舗以上を展開するような大規模チェーン店の『Gong cha』『春水堂(チュンスイタン)』『THE ALLEY』『パールレディ』『CoCo都可』『Chatime』などは日本に定着したといえるでしょう。各チェーンがつぶし合うのではなく、自分たちのオリジナリティーを伸ばす戦略で動いたことによって、それぞれの地位を確立したのです」
これらの大規模店は、業界内でうまく住み分けがなされており、『パールレディ』や『CoCo都可』のように、価格の安さを武器に学生をメインターゲットとしているブランドもあれば、社会人層を狙うブランドもある。
「気軽さ」か「高級感」かかぶらないスタイルが生き残りの鍵
閉店する店が多いなか、積極的に新店舗を出すことで他店との差別化を図ろうとしているブランドが「Gong cha」だ。
「大人気となったタピオカですが、都心部以外での盛り上がりはまだまだ。『Gong cha』は地方での盛り上がりを狙って、地方都市で大人数が集まりそうな大型ショッピングモールへ次々に出店を進めています」
実際、今春には北海道内に新店舗がオープンする予定だ。同店のように地方にも店舗を増やし、いつでも、どこでも、誰でも、気軽に楽しめるブランドを目指すところもあれば、特別な雰囲気づくりに注力するところもある。
「『春水堂』は第3次ブームでは珍しいカフェスタイルのお店です。回転率を上げた販促方法は姉妹ブランドの『TP TEA』というドリンクスタンドに任せ、『春水堂』自体は、商品や店内空間のトータルの『高級感』や『居心地の良さ』をアピールポイントとしています。あらゆる場所に店舗を増やすのではなく、一店一店の店舗を、深く愛される店にすることに努めている傾向がありますね」
どちらの戦略が優れているというわけではなく、それぞれの個性が固定ファンの獲得につながっているのだ。第3次ブームが終わった今、淘汰されないためには、そのブランドだけのオリジナリティーが不可欠となる。
ブランドごとの個性の出し方は、メニューや店舗の展開方法にとどまらない。飲み歩きが主流となった第3次ブームで社会問題となったのが、容器のポイ捨てや、指定されたゴミ箱以外への投棄だ。「春水堂」はこうした環境問題にも取り組み、他ブランドとの違いを見せている。
「『春水堂』では月に1度、表参道周辺のゴミ拾い活動を行っています。表参道はタピオカ専門店が集結するエリアなので、多くのプラカップが落ちているのです。渋谷区に『#タピゴミ0活』を掲げる組合があり、幾つかの店舗が参加しています。かつては『CoCo都可』も『エコトカ』というゴミ拾い活動を行っていましたが、現在ブランドを挙げて取り組んでいるのは『春水堂』のみのようです」
こうした社会貢献は、売り上げに直結はしないものの、世間からの印象アップや社会的信頼を増す効果があり、将来的な販売増につながるのだという。
また、人気店が避けては通れない問題が行列だ。近隣施設に迷惑がかかるのはもちろんのこと、1人のリピーターも逃したくない大手チェーンにとって、待ち時間というネックを抱えていては、せっかくの客が他店に流れてしまいかねない。
「こうしたさまざまな理由から、『春水堂』と『THE ALLEY』は、モバイルオーダーのサービスを開始しました。アプリで事前に注文を済ませれば、店に行って行列に並ぶことなく商品が受け取れるのです。決済もオンラインで行えるので、非常に便利だと注目を集めています」
本来であれば環境問題や行列整備などは、業界で一丸となって取り組めば早いのだろう。しかし、こうした取り組みも「個性」になるため、今はまだ実現が困難だという。
冬場にタピオカが売れないもっともな理由
そんななかでも、業界全体で取り組んだのが、「冬場のホットメニューの普及活動」だ。だが、効果は今ひとつだったという。
「“冷たい飲み物”というイメージが強いタピオカの固定観念を払拭しようと、どこのブランドでも、店先にホットメニューの看板を出すなどして、アピールをしてきました。しかしタピオカドリンクは、そもそもが台湾生まれ。台湾は日本のような“冬”が存在せず、1年を通してあたたかな気候ですから、ホットメニューはありません。本場でも“ホットタピオカ”がはやった事例がないため、うまく軌道に乗せることができず、冬の訪れとともにブームも終息していったのだと思います」
さらに、第3次ブームの特徴でもある「ドリンクスタンド」という形式が、冬場の売り上げの落ち込みを加速させてしまった。
「どれだけ商品が温かかろうと、飲む場所は寒空の下ですからね。そうなると、“何を飲むか”より、“どこで飲むか”が重視されます。暖房の効いた店内や座席を持たないタピオカ店は、どんどん客入りが悪くなってしまったわけです」
ブーム真っただ中においては回転率が高いことが利点だったが、冬場になるとそこが足を引っ張ってしまう。梅村さんは「今後のタピオカ専門店は、座席を持つことが勝機につながるかも」と分析する。
「ブームが落ち着いた今でも、カフェ形式の『春水堂』は、平日の昼間なのに都内店舗では半分近くの席が埋まっています。昨年オープンした『THE ALLEY 渋谷道玄坂店』という旗艦店も、2階建ての店内に座席を多数設置し、休日には満席になるほど。座席があれば休憩目的で立ち寄る人が必ずいるので、安定した売り上げにつながるかもしれません」
梅村さんは、これまでの傾向を踏まえて、タピオカ店の未来をこう予想する。
「あまり知られていませんが、大規模チェーンの大半は“タピオカドリンク専門店”ではなく、“お茶の専門店”です。タピオカはあくまでトッピングにすぎません。だから、飲料を変えればアレンジは無限大ですし、最近はタピオカが入っていない“アレンジティー”が注目されています。もしもアレンジティーやフルーツティーが人気になれば、いずれ訪れる“第4次ブーム”では、今回の『タピオカミルクティー』のような甘いドリンクではなく、スッキリとした『タピオカフルーツティー』がはやるかもしれません」
ほかにも、普段タピオカを飲まない層からすると、MとLの2サイズ展開では、「Mでも量が多い…」と飲み残しを懸念してなかなか手が出せない人もいる。そのためSサイズを用意する店が増えれば、新たな層を取り込める可能性も。
また、プラスチックフリーが進んでいる時流をくんで、繰り返し使えるステンレスストローなどを普及させれば、タピオカに対する見方が変わり、ファンが増えるかもしれない。タピオカは、思っている以上に可能性を秘めた存在なのだ。
これまで3度もブームとなったタピオカだが、実は新たなアレンジやプロモーション方法が登場するたびに話題になるだけで、食文化としては、とっくに根付いているのだ。ブームが落ち着き、並ばずに買えて、メニューのバリエーションも増えた今こそ、ゆっくりと上質なタピオカドリンクを味わってみるのもいいかもしれない。