「テレワーク」問い合わせ100倍 公私線引き難しく

 新型コロナウイルス感染拡大で導入が進んだ「テレワーク」をめぐり、普及・啓発団体に例年の100倍近い相談が寄せられていることが21日、分かった。勤務形態をどう考えるべきかや、運用にまつわる問い合わせが多いという。一方、企業や労働者の頭を悩ませるのは公私の線引き。仕事の進捗(しんちょく)を頻繁に確認する上司の言動を「監視」と受け止めたり、ウェブ会議でプライベートに言及されることを不快に感じたりする人も少なくない。(桑村朋、杉侑里香)

 問い合わせ急増

 「テレワーク社員の出退勤はどう把握すればいいのか」「助成金がもらえると聞いたのですが」

 厚生労働省の受託事業として相談窓口を設ける日本テレワーク協会(東京)。2月下旬以降、導入や運用をめぐるこうした問い合わせが相次いでいる。担当者によると、「例年の1カ月分(の相談)が1日で来るような状態」だという。

 学校の一斉休校や政府の緊急事態宣言で、多くの企業が導入を始めたテレワーク。情報通信技術(ICT)を活用し、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を意味する。

 厚労省が無料通信アプリのLINE(ライン)利用者を対象に4月12~13日に実施した第3回調査によると、テレワーク実施率は全国平均で約27%。3月31日~4月1日に行った第1回調査(約14%)から10ポイント以上も増えていた。

 「テレハラ」訴え

 テレワークに対しては、通勤などの手間がなくなることによる効率化を歓迎する声がある一方で、SNSではこんな不満も増えている。

 《パソコンを離れると上司から「なぜオフラインになった」と連絡が来る》《ウェブ会議中、上司に「子供を黙らせろ」といわれた》

 パソコンやスマートフォンを活用したウェブ会議では、普段は見えない自宅の様子が画面上に映る。このため、服装のだらしなさを指摘された会社員からは《テレワーク・ハラスメントだ》との訴えも。実際、大阪など各地の労働局には「ウェブ会議中に上司から『部屋の中をもっと見せろ』と用もないのに迫られた」といった相談も寄せられている。

 企業はルール作りを

 勤務状況をパソコン越しに把握しようとする動きも出ている。

 都内のある企業では、パソコンに「着席」「退席」のボタンを設け、クリックすると休憩中か退勤済みかが分かるシステムを導入した。さらに、社員のパソコン画面をランダムに記録し、上司が画像を確認できる仕組みも付いているといい、「監視」ととらえて不快に思う人もいるかもしれない。

 テレワークの本来の目的は業務の効率化だ。しかし企業側と労働者側が互いに疑心暗鬼に陥れば、職場環境をより悪化させかねない。

 テレワークは新型コロナウイルスという「外圧」を機に広まった側面もあり、「企業側の準備不足」を指摘するのは日本テレワーク協会の担当者。現場任せではなく、「出退勤の仕組みやハラスメント・トラブルが起きた際の窓口を、会社として設けるなどのルール作りが重要だ」と話す。

 労働問題に詳しい谷真介弁護士(大阪弁護士会)は「不要なプライベートに触れない、働き過ぎを抑制するなど一定の配慮が必要」。その上で「企業の監視が強まっては本末転倒。社員との信頼関係が重要になる」と述べた。

 上司はどうすれば?

 テレワークでは画面上の文字での指示やコミュニケーションが増える傾向がある。企業でのハラスメント研修を手掛けるインプレッション・ラーニング(東京)代表の藤山晴久さんは「(対面より)圧が強く、受け取る側は責められていると感じやすい」とする。このため上司には、感情的にならず、思いやりやねぎらいの言葉を盛り込むことをアドバイスする。

 例えば部下が仕事で失敗した場合。「小学生じゃないんだから、もう少しちゃんと考えて」「とにかく早くやり直して出すように」。こうした文章が頭に浮かんだ上司は注意が必要だ。

 多くの人が外出自粛などでストレスやイライラが高まっている。文章では、面と向かって話すよりも冷たい印象を与えるため、相手を傷つけかねない言葉には注意したい。

 藤山さんは有効な策として言葉の変換を挙げる。同じ内容でも、「〇〇の部分を修正して、夕方までに報告できますか」「もう一息でしたね、挽回しよう!」といったポジティブな言葉に置き換えることで、円滑なコミュニケーションが期待できる。「期待しているよ」「頑張ってね」。口頭では照れくさい言葉も、文章では盛り込むと効果的だ。必要に応じて短い電話などでフォローを入れることも重要だという。

 ウェブ会議ではカメラを通じ、同僚の部屋の様子や服装などが分かることもある。しかし相手が不快に感じたり、セクハラに該当したりすることもあるため、こうした話題に触れるのは基本的にNG。「『自宅も職場』という意識を忘れてはいけない」と藤山さん。バーチャル背景などの機能の活用も勧める。

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