「ネタバレ投稿」どこから違法? 広告主に責任は グレーゾーンに迫る

 作品の内容や結末を書き起こし、無断で公開して広告収益を荒稼ぎする「ネタバレサイト」の被害が後を絶たない。2022年2月には、漫画のせりふを丸写ししていたサイトが著作権法違反容疑で摘発されたが、せりふや結末に触れつつ感想をウェブ上に投稿するファンは少なくない。作品の内容を明かす行為はどこから「違法」になるのだろうか。サイトの収益化を許す広告主側に責任はないのか。問題のグレーゾーンに迫った。(時事ドットコム編集部 太田宇律) 【図解】ネタバレサイトの広告収益の仕組み ◇「感想」や「引用」免罪符に  福岡県警は22年2月3日、漫画「ケンガンオメガ」のせりふや情景などを詳しく文字起こしし、無断公開したとして、ネタバレサイト「漫画ル」=閉鎖=を運営していた東京都内のIT関連会社と、金沢市在住の代表者の男を著作権法違反容疑で書類送検した。文字起こしと共に無断公開していたコマの画像はスクリーンショット機能を使って漫画アプリから複製したとみられ、男は「引用の範囲で、自分が著作権を持っていると思っていた」と容疑を一部否認したという。  閉鎖前の「漫画ル」のトップページには「漫画の感想・ネタバレ・考察・批評・レビュー・予想して展開を楽しむサイト」との記載があり、男は「漫画が好きな人同士で情報交換できるサイトを作りたかった」とも供述した。しかし、実際には多くが他人の著作物の丸写しで、独自の感想や考察が占める割合はわずかだったようだ。実際、「ケンガンオメガ」53話については、漫画の内容やせりふが35行にわたって詳述されていたのに対し、感想はたった1行だけだった。 ◇悪質ネタバレ「海賊版と同じ」  「行きすぎたネタバレサイトは、漫画をそのまま無断転載している海賊版サイトと何も変わらない」。そう憤るのは、ケンガンオメガが連載されている小学館の漫画アプリ「マンガワン」編集長の和田裕樹さんだ。小学館では現在、作品の内容を無断で文字起こししているネタバレサイトをおよそ300件確認しており、削除するよう順次警告しているという。  「マンガワン」では基本無料で漫画が読めるが、無料公開に先立って最新話を楽しめる有料サービスもある。和田さんは「漫画ル」の摘発を「画像転載だけでなく、文字をそのまま抜き出すネタバレサイトも著作権侵害に当たるという先行事例を作ることができた」と評価し、「被害額の算定は難しいが、漫画家に入るべき収益を勝手にかすめ取られているのは確かだ」と説明。悪質なネタバレが作家の創作意欲を減退させてしまうことも懸念し、「他人の著作物を無断使用して収入が得られるなら、苦労して創作する意味がなくなってしまう。漫画家は本当に大変な仕事なのに」と嘆いた。 ◇「早バレ」で荒稼ぎ  ネタバレの中でも特に悪質なのが、何らかの方法で発売日より前に作品を入手し、内容を明かす「早バレ」と呼ばれる行為だ。こうした「早バレ」情報をサイトやユーチューブ動画などで紹介すれば、物語の展開が気になるファンが殺到し、多くの広告収益が見込める。実際、2017年に熊本県警などが摘発した「早バレ」サイトは、閉鎖までに3億円を超える広告収入を荒稼ぎしていたことが分かっている。  記者が確認したある早バレサイトは、週刊少年ジャンプ(集英社)の人気漫画「ONE PIECE」最新話の展開を発売4日前の時点で詳述しており、正規の漫画購読サービスの広告が複数掲載されていた。早バレを読みに来た人が広告を通じて正規サービスの有料会員になると、サイト運営者は広告仲介業者から「成果報酬」が得られる仕組みで、サイトには「ONE PIECEがお得に読める」などと、正規サービスを宣伝する文章も添えられていた。

◇広告主の責任は?

 海賊版サイトへの広告掲載をめぐっては、広告費の支払いを「著作権侵害のほう助に当たる」と認定した判例もある。この早バレサイトへの広告出稿について、広告主側はどう考えているのだろうか。サイトで宣伝されていた漫画購読サービス「Amebaマンガ」と、書籍や動画の配信サービス「U-NEXT」それぞれの運営会社などに見解を尋ねた。

 Amebaマンガを運営するサイバーエージェント(東京都渋谷区)は「ご指摘いただいた広告掲載について把握しておらず、大変重く受け止めている」とした上で、広告は仲介業者の審査を通ったサイトのみに掲載されるため、違法サイトへの掲載は想定していなかったと説明。「仲介業者に対し、ネタバレサイトに対する審査の厳格化など違法サイトの排除を改めて申し入れるとともに、広告掲載サイトの精査、見直しを行っていく」と回答した。U-NEXT(品川区)の担当者も広告掲載を「認識していなかった」とし、「著作権侵害と思われる案件に対しては、法律の定めにのっとって対応していく」とコメントした。

 一方、両社の広告を仲介したファンコミュニケーションズ(渋谷区)の広報担当者は「事前審査をすり抜けた後に、違法な投稿を始めるサイトもある」と説明した。定期的にチェックを行い、法令や規約に違反している場合には警告や会員停止処分といった対応を取っているといい、「今後はこうしたネタバレサイトに対する監視の強化を検討する」という。

 両社の広告は、記者が問い合わせた3日後にサイト上から削除された。

◇合法と違法の境目は

 広告収益を目当てにした悪質なネタバレ行為とは別に、作品のファンが結末に関する感想を気軽にネット投稿するケースも散見される。合法と違法を分ける境目はどこにあるのか。著作権の問題に詳しく、「漫画ル」や映画を10分程度に無断編集する「ファスト映画」の摘発にかかわった中島博之弁護士に話を聞いた。

 中島弁護士は「前提として、作品の結末を明かすネタバレ行為そのものは著作権法違反ではない」と強調した上で、「問題になるのは、『漫画ル』のように、作品のせりふや情景などをそっくりそのまま丸写しする『デッドコピー』と呼ばれる行為だ」と説明。デッドコピーに当たるか否かは、既存の著作物と比較して「実質的に」同一と言えるかどうかで判断されるといい、「ネタバレサイトは、言ってみれば文字抜き出し型の海賊版サイト。正当な引用として認められなければ、著作権侵害に当たる」との見解を示した。

 著作権者の代理人として警告を出したネタバレサイトは、全て記事の削除に応じているといい、中にはサイトごと消して謝罪文を提出したケースもあったという。

 中島弁護士は「運営者の多くは『漫画そのものを無断転載するのは違法だが、自分で内容を書き起こして少し感想を書き添えれば大丈夫』と甘く考えていた人が多い」と指摘。「熱心なファンによる感想サイトと、金銭目的のネタバレサイトは一目で違いが分かる。作品の結末に触れただけで違法になるわけではないので、ファンは安心して感想を投稿してほしい」と語った。

 「漫画ル」の被害者サイドにもファンの投稿について聞いた。ケンガンオメガの作画を担当する「だろめおん」さんは「ネット上で漫画の感想を交換する上で、セリフを引用することは多々ある。(ネタバレサイトの摘発が)そういったファン活動の抑止にはならないでほしい」とコメント。マンガワン編集長の和田裕樹さんは「違法なネタバレかどうかは、コピーされた量や、著作権者に損害を与えたり、利益をかすめ取ったりする形になるかが重要な判断基準になる」とした上で、「ファン同士がせりふの一部を引用してSNSで盛り上がることは何の問題もないし、マンガワン編集部ではむしろ歓迎している。常識の範囲内で楽しんでほしい」と呼び掛けている。

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