「ブラック企業大賞」の実態と企業の反応は?

企業での長時間労働などが社会問題になる中、2012年から始まった「ブラック企業大賞」。3年目となる今年の授賞式は9月上旬に東京都内で行われ、ヤマダ電機(群馬県高崎市)が大賞を受賞した。「ブラック企業」に対する社会の目は厳しさを増す一方だが、そもそもこの「大賞」は、どんな人たちが創設し、企業はどう反応しているのだろうか?
同賞を選考するのは「ブラック企業実行委員会」。ウェブサイトによると、この委員は11人おり、労働問題に取り組む弁護士や市民団体、ジャーナリスト、労働組合関係者など顔ぶれは様々だ。同委員会に取材を申し込もうと連絡先を見ると、事務局は東京都千代田区の神田淡路町にあり、「NPO法人 アジア太平洋資料センター気付」となっていた。取材に応じたのは、内田聖子・アジア太平洋資料センター事務局長。内田さんは、ブラック企業大賞の実行委員の1人だ。
内田さんによると、この大賞を創設を思いついたのは2012年初頭のこと。当時、居酒屋チェーンなどを展開する「ワタミ」社員の過労死問題が、メディアをにぎわせていた。内田さんの目には、会社が遺族と真摯に向き合っていないように映った。他にもいくつもの企業で、現場で働く人をないがしろにして利益追求に走る姿が目につき、憤りとともに「何とかせねば」と問題意識を強く感じたという。
そこで、内田さんは「ブラック企業を選考し、賞を授与しよう」と思いついた。内田さんが所属するアジア太平洋資料センター自体が、「世界の貧困や不平等をなくす」ことを目的に活動していたため、ブラック企業に批判的な知人のネットワークがすでにできていた。彼らに協力を呼びかけ、「ブラック企業大賞」実行委員会が発足。2012年7月、ノミネート企業10社を公表して投票を呼びかけると、ウェブサイトへのアクセスは数日で100万件を突破。投票も1万件ほど寄せられるなど、反響が広がった。
大賞を選ぶに当たっては、事前に委員会で毎年10社程度をノミネートする。2012年は10社、13年は8社、14年は11社。いずれも、過労死の公的な認定や、裁判での会社側の敗訴、労働問題に関する行政判断などが出ているところが対象になる。ノミネート時に、その理由を詳細にウェブサイトで説明しているが、「この企業で、こんな労働トラブルがあったの!?」と驚かれることが少なくないという。ウェブでの投票数でそのまま大賞が選ばれるわけではなく、大賞は投票を踏まえ、委員の話し合いで決められる。得票トップは「WEB投票賞」が与えられるが、今年はヤマダ電機が5256票を集め、2位に2000票以上の差をつけて圧勝。大賞とともにダブル受賞した。
では、ブラック企業大賞に選ばれたり、ノミネートされたりした企業は、どのような反応を示しているのだろうか?実行委員会では、ノミネート企業には、郵送あるいは訪問によって、ノミネートされた旨を告知する。さらに、往復はがきで授賞式への出席を招待する。しかし、過去3年のノミネート企業(のべ29社)のうち、ほとんどの企業は黙殺、返事は返って来ていないという。ただ、「SHOP99(現ローソンストア100) 」と「東急ハンズ」の2社だけは、「欠席します」旨の返事を送ってきたそうだ。大賞の受賞企業には、書面で知らせているが、過去3年の大賞受賞3社(東京電力、ワタミ、ヤマダ電機)からは、いずれも何も反応はなかったという。
「ブラック企業大賞」にノミネートされることは、密かに多くの企業の恐怖の的になっているようで、企業としては関わりたくないのが本音に違いない。実際、ヤマダ電機に電話やファクスで取材を再三申し込んだが、19日現在まで回答はない。
もちろん、この「ブラック企業大賞」によって、企業が労働環境を改善するきっかけになるに越したことはない。が、逆に企業側が「名誉毀損」などと反発し、訴えられるリスクはないのだろうか?内田さんは「訴えられる可能性は認識している。が、企業としては、それをやると逆に世の中で話題になり、さらなるイメージダウンになるのでは。訴訟は望むところ。もしそうなれば、きちんと対応して大いに主張します」と息巻いている。
(文責・坂本宗之祐)

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